砦側への呼びかけ

文字数 2,090文字

「あなた方の首領と、話がしたい! どなたです? 出てきていただけませんか」
 レクイカは騎士を伴い砦の門の前まで進め、呼ばわった。
 
 門には番の姿もなくただ、閉ざされている。
 
 砦の二階の窓が開き、何人かの賊徒が顔を出す。
 
「おっ。おい、女だ」
「へえー。まあまあの顔じゃねえ?」
「体の方はどうだろうな。おい、そこで脱いでみろや!」
 
 あちこちの窓が開いて、賊徒がレクイカらをじろじろと見定め、笑いを上げる。
 
「脱いでみろですって」
 ミカーがミートに耳打ちする。
 
「レクイカ様、脱ぎますかね?」
「…………なっ。な、何をさらりと言う、ぬ、脱ぐわけないだろう!」
「ミート、想像したのではないですか」
「いやあ……いや、ない、してないって。曲がりなりにも、元は聖騎士を目指し……」
「レクイカ様を冒涜するのは、例え想像の中とて私が許しません」
「……」
 
 更に、四階にあたるバルコニー付きの大窓が開き、一際巨体な男が数名をはべらし出てくる。
「なぁんだ、てめえら。話があるんなら、聞いてやる」
 
 レクイカが言おうとすると男は制し、
「いーや。ここまで来てもらおう」
 そう言って、この場では聞く耳持たぬというふうであった。
 
「へっへ。お頭、砦内に誘き寄せさえすれば、こっちのもんですね」
「当然、武器は預からせてもらうしな。そしたら甲冑引っぺがすくらい何てことねえ」
 傍らでそう言う二人は、ここへ来る前にレクイカらを迎えた賊の二人だった。
「中身はけっこうボリューミィなんじゃないかと見やす」
 
「俺もあの女は気に入った。俺が、一番に味わう」
 いやらしく笑む首領。
 二人はちぇっと言って、じゃあ他に生意気なチビともう一人不愛想なのがいたがどっちにする? など言い合っている。
 
「レクイカ様、どうしますか?」
 
「あいつらの手の内はわかりきっている。易々と、誘き出されはしません」
 レクイカらの方でも、砦に入るわけにはいくまいという意は変わらない。
 
「おれは声が小さいからな」
 首領がそう、大声で呼ばわる。
 
「喉が嗄れてかなわん。ここまで上がってきてまったり話そうゃ?」
 首領の隣から覗く男が、
「できれば下半身同士でお話しちゃおうぜ?」
 と言う。
 
「騎士の嬢さん、顔に似合わず案外下半身は饒舌だったりするんじゃないかい? だったら、話は早いぜー」
「もっと密接なコミュニケーションをとろうや! 俺達全員と、な!」
 
 げへへへへ! 下品な笑い声が響く。
 
 レクイカは、面を下げる。
「……あいつら、話にならない。やはり、賊は賊……」
 
 ミートはレクイカにもう退こう、と告げるが、レクイカは顔を赤くして怒りか羞恥か身体を震わせている。
「あ、えーと……」
 
 ミカーはミートにまた耳打ちして、「レクイカ様と下半身でお話したいなど、許しませんよ」と睨みつけた。
 ミートは、動揺した。
 ミートは、おれは言ってない、思ってないと慌て、ファルグが無言のため息でミカーを諭した。
 
「はーあ! どうやら、お堅いお嬢さんだぜ。話にならんなあ!」
 頭目は、引き下がろうとする。
 
「ま、待って!」
 レクイカが立ち直り、呼び止める。
 
「話は、簡単です。雨が、線の雨が来ている! あなた方も、ここにいては、線の雨に飲まれますよ!」
 
「ああーん? 何だって、聞こえねえなあ!」
 
「……くっ。笑い事じゃない。聞こえていないはずはないわ。やつらも、シガミの一族のように諦めてここで線の雨を迎えようというの?」
 
「それとも、逃れる方策でも持っているとか」
 レクイカの傍らで、ファルグが言う。
 
「逃れる方策? そんなものが……いえ、わかりませんが、とにかく、このままというわけにはいかない」
 
 そのときミートは、バルコニーに出ている頭目とその子分らの影に隠れている男に目を留めた。
 はっ、と気付く。
 そいつは、ミートがシトラ砦付近の休息所で会った、魔術師風の男だと思えた。
 
「あいつ、何故。賊徒の仲間?」
 雨か怪物に関する何かを知っている、と思しき男。
 ファルグの言うように、賊徒達ともその何か秘密を共有しているのかもしれない。
 
「レクイカ、埒も明かない。一旦退いて、話そう。あ、その、普通に話すって、ことな?」
 ミートは一々ミカーを見ながらレクイカの顔はあまり見ないようにしてそう言う。
 
「……? そうね。引き上げましょう」
 
 ミカーは少し嬉々とした感じだが、ファルグが「程々に」と言うと「ミートが勝手に墓穴を掘っているだけです」と悪びれないふうでありつつもミートに詫びた。
 
「すみません。まあ、少しくらいなら私も応援してあげてもいいです」
「……? あ、ああ」
 
 レクイカらは、この場は仕方なく退いて難民らの集まっている方へ戻っていく。
 
「おーい。なんだあ、帰っちゃうのかいー? 愛しい嬢ちゃん!」
 
 賊徒らが、げらげらと笑いを浴びせてくる。
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