悲鳴

文字数 998文字

 城内に響き渡るような悲鳴だった。
 
 それから、騎士らが駆ける音。
 ファルグが、二階のレクイカの寝室をノックし、入ってくる。
 一階で見張りに付いていたシトエの姿が、ないと言う。
 
「レクイカ様。まさか本当にこうなるとは。シトエが……」
 
「わかっています」
 
 レクイカは努めて冷静に答えたが、部下の身に起こったことを思い、その顔は青ざめ、慌て、急いだ。
 
「ファルグは、民の元へ騎士を集めてください。私はミカー達他の見張りと合流します」
「はっ」
 
 すでに付けかけていた胸当てをしっかりと装着し、剣を取って部屋を飛び出す。
 レクイカは階を駆け下りたところで、ミートに会った。
 
「ミ、ミート。あの声は、シ、シトエが……!」
 
 ミートは無言でレクイカの前に立った後、「行こう」、と呼びかけた。
 レクイカは尚、部下の身に起こったことへの想像で、怒りと、それに恐ろしさに震えているように思えた。
 二人は、走った。
 ミートは言わなかったが、さきのあれは、断末魔としか思えない叫びだった。
 レクイカも、悟っているかもしれない。
 レクイカは剣の柄に手を当て、しかし、片方の手で口元を抑えながら、走る。
 
 程なく途中、別口の見張りに付いていたミカーと出会った。他に騎士二人も合流していた。
 
「レクイカ様。シトエの姿は、ありません。シガミを」
 
 それ以上の言葉は今はなかった。
 ミカーも、明らかに事を悟っていた。
 目を見開いて、しかしミカーのその瞳は敵を許すまじ、という炎に燃えているように見えた。
  
 レクイカら五名でシガミの主の部屋へ向かった。
 首領シガミを討って、早々にこの危機に終止符を打たなければならない。
 残りの騎士は、民らのいる寝所に残らせていることになる。
 シガミの敵意が知れたのだ、民を守る必要がある。
 あれ以来、もうシトエの声は聴こえてこない。やはり、おそらく、あれが最後の……
 
「うっ。うう……」
 
 走りながら、レクイカが思わず声を漏らすのを聞いて、ミートは後ろからレクイカを励ました。
 
「レクイカ。しっかり。今は……」
 
 隊長のレクイカにしっかりしてもらうしかない。
 
「うっ、うん……!」
 
「レクイカ様……前方から数名、来ます」
 
 先頭を走るミカーが弓を構え、言う。
 おそらくシガミの兵だ。
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