第3話 図書室にて。

文字数 2,136文字

2学期になってしばらくして、原君はクラブに行くときに見かけてた小山さんの姿を見なくなった。どうしたんだろう?
月に一度、朝から学校全体での集会がある。体育館で、クラスごとに並ぶのだが、集会が始まるまでのちょっとした時間が貴重なのだ。
「最近、運動場で見かけないけど、クラブ行ってないの?」
「…うん、ちょっとさぼったりしてる。」
「なんか、理由あんの?」
「…うん、また、今度話するね。」
原君は、ちょっと心配になったけど、無理やり聞くようなことか分からなかったので、話してくれるという言葉を信じて、待つことにした。

1ヶ月程して、またクラブに行くときに、ジャージの小山さんを見かけるようになった。小山さんもこっちに気づいて、また小さく手を振る。原君もちょっと手を上げて答えた。
中学になると、周りの目が気になって、小学生のときのように、なかなか気軽に話かけられない。クラスが違うと余計だ。二人でいるところなんて誰かに見られたら、すぐに噂になってしまう。
ホームルームが終わって、原君が階段の踊り場のロッカー前で、ジャージに着替えようとしたとき、のりさんに声をかけられた。
「原君、前に話してたCD。」
「えっ?あ、ああ、ありがとう。」
小山さんとは、ピアノの話以外音楽の話はしたことがなかった。
「へ~、倫太郎、小山にCD借りる仲なんだ。」隣のロッカーの男子に冷やかされる。
「うん、まあ。小学校でも同じクラスだったし。」
原君が家に帰ってCDケースを開けると、中の歌詞が書いてある冊子にメモが挟まってた。
『水曜日、昼休みに図書室にいます。倫子。』
次の日は水曜日だったので、原君はお弁当を食べたらすぐに図書室に走った。図書室はもちろん静かな場所だ。原君は、図書室に一歩入ると息を沈めながら、棚と棚の間を順番に見ていく。のりさんは、どこに?いた。
静かな、明るい空間の中で、立ったまま本を読む凛とした姿が見えた。
「のりさん。」
原君息を抑えながら小さい声で言ってた。(しまった。自分の中で、のりさん、って呼んでるから、そのまま出てしまった。)
「えっ?あ、えっと、倫太郎君。」
ちょっと驚いた後に、小山さんも笑顔で原君の名前を呼んでくれた。原君はちょっと照れた。
「どした?」
「うん、り、倫太郎君、でいいの?」
「ごめん、僕ものりさん、でいい?」
二人で小さく笑う。
「でも、二人の時だけだね。」
「うん。もちろん。えっとそれで、どうした?」
「うん。倫太郎君には言っておきたくて。」
(なんだろう。)
「クラブね、なんだか、ちょっと行きたくなくなってしまってて、放課後、教室に残ってたの。そしたらね、帰宅部の人達がいて、なんだか楽しくて。」
「放課後の教室って、そんななんだな。」
「うん。それでね…。」
「うん。」
「告白されてしまって、これは違うな、って思って、また、クラブに行こうって思ったの。」
「へ~。っえ?告白?」
「そこは、スルーでいい。」
「いや、ダメだろ。だれ?」
「…えっと、島君。」
「で、なんて答えたの?」
「そういうのは、無しで。って。」
「そうか。良かった~。」
「ふふふ、良かったんだ。」
(のりさんの笑顔だ。)
「そういえば、のりさん痩せた?」
「えっと、痩せたというより、背が伸びた。」
「倫太郎君も背、伸びたよね。」
「まあ、育ち盛りですから、お互い。でも、まだ背の順は、前から数えたほうが早いけど。」
「そだね。」
(さっき、のりさんを見つけた時、キレイだった。前はぽっちゃりで、それもかわいかったけど、今はなんだか前よりちょっとスマートになって、そして本を読む横顔がキレイだった。そうか、のりさんを好きっていうやついるんだな。)
「水曜日って、いつも図書室にいるの?」
「うん、水曜日のお昼はだいたい来てる。借りて帰って、また、水曜日に返してまた、借りてる。」
「そうだ、CD、今日持ってきてない。」
「また、いつかの水曜日に、ここに持ってきてくれたらいいよ。良かったら、聞いてみて。倫太郎君は、いつもどんなの、聞いてるの?」
「特に好きなのはないかな。」
「そっか。っていうか、こんな話したことないね。そろそろ、教室に戻らないと。これ、借りてくる。」
「一緒に上がらないほうがいいな。じゃ、先に行っとく。」
「うん、またね。」
(告白か。もし、僕が告白して…「そういうの無しで、」って言われて、もう話したりしなくなって…。
怖い、告白なんてできない。…告白…?やっぱり、僕はのりさんのこと好だ。きっと、泣く理由を気になり出した頃から、ずっと好きなんだ。今のように話が出来ることのほうが重要だけど、のりさんが誰かを好きになっても、僕と話をしてくれるんだろうか。というか、そんな状況、耐えられるだろうか?他のやつの相談とかされても、やめとけとしか、答えられないぞ。のりさんは、好きなやついるんだろうか?いる。と答えられたら、どうする?だめだ、恐くて聞けない…。)
のりさんが、誰かに告白されたと聞いて、はっきりと自分の気持ちを自覚した原君だった。














「今日は、何を借りるの?」
「今日は、これ。かな。」
「『すべてがFになる』…」
「推理小説みたいよ。」
「そういうのが好きなの?」
「なんでも、読んでみようとは思ってる。こないだ借りたのは、冒険ものだった。」


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