第1話 はじまり

文字数 1,624文字

 小学校4年の原倫太郎君には、最近気になっていることがある。同じクラスの一人の女の子について。(また、あの子泣いてる。よく泣く子だな、何をそんなに泣くことがあるんだろう?でも、いつもすぐに笑うんだよな。やっぱし、もう笑ってる。あの子の頭ん中、どうなってるんだろう?普段は大人しそうなんだけど、よく泣いてよく笑ってる。よく笑って、よく泣いてる。)
 倫太郎君と女の子は、5年でも同じクラスになった。やっぱり気になるので、本人に直接聞いてみた。
「小山って、よく泣くよな。なんで、そんなに泣くことがあるの?何にそんなに、泣いてるの?」
「う~ん、自分でも、泣くの嫌なんだけど、涙が出てきちゃうんだよね。気持ちがいっぱいになると涙が出てきて抑えられないくらい出ちゃう。」
「どんな気持ち?」
「不安や嫌もあるし、嬉しいとか楽しいとか、色々。」
「ふーん。いろいろか。」
「ごめんね。いつも泣いちゃって皆に迷惑かけてるよね。自分でも分かってるんだけど。」
「迷惑なのかな?小山の周りの女子も、いつも一緒にいるってことは大丈夫なんじゃないの?小山ってさ、すぐに泣くけどすぐに笑ってるから、僕は迷惑とか考えたことないよ。でもなんでそんなに、泣くのかな~と思って。見てて不思議。」
「原君みたいに、目付きは鋭いけど大きかったら、そこで、涙もおさまるかもしれないな。私は目が小さいから、すぐに溢れちゃうとか。」
「目の大きさじゃないと思うけど。目が小さいこと気にしてるんだ。」
「そら、目は大きいほうがかわいいし。」
「それは、人それぞれの好みの問題だと思うけど。」
 (僕は、十分かわいいと思ってるけどな。)
「ん?僕の目って鋭いの?」
「大きいけど、かわいくは、ないよね。」
「まあ、確かに。」
 話しかけてみると、女の子もすぐに泣いてしまうことは気にしてたみたい。それと、目が大きくないことも気にしてるみたいだった。原君は、小山さんの笑ってるところを見るのが好きだ。泣いてるところを見ると、ちょっと心配になって、また笑ってるところを見るとなんとなく、原君も嬉しくなって安心していた。
 原君が、思いきって話しかけたことがきっかけで、小山さんとたまに、話をする仲になった。

「そうだ、原くんて、ピアノ習ってるんだよね。」
「う、うん。」
「今度。聴かせてよ。」
「いや、人に聴かせられるほど上手じゃないから。」
「じゃ、上手になったら聴かせてね。」
 (そんなこと言われての初めてだな。もっと、ピアノ練習しようかな。)
 お母さんから言われてなんとなく習っていたピアノだったけど、原君は、真面目に練習するようになった。

 ふたりは6年でも同じクラスになった。原君は相変わらず、小山さんのことが気になっていた。そして、よく見ていた。(最近あまり泣かなくなってるな。でも相変わらず、よく笑ってる。)
「最近あんまし、泣かないな。」
「原君のおかげ。」
「そうなの?何かしたっけ?」
「うん!」
 (優しい笑顔だ。でも、何が僕のおかげなんだろう。)

 夏休みが明けて2学期になって、あの子が最近大きくなってきてるように思う。どうした?
「あのさ、最近ちょっと大きくなってきてない?」
「うん、肥ってきてる。今までやってたバレーボール辞めて、塾に行きだしたからかな。」
「塾に?外部受験するの?」
「今から間に合ったら、そうするのかな?」
「そうなんだ。」
 (中学は一緒じゃなくなるのか、寂しいな。)


 2学期が終わる頃。
「原君!」
「おお、受験勉強進んでるの?」
「うん、塾は行ってるけど受験は辞めた。」
「そうなんだ。」
「皆と離れてくないって、親に言ったの。ほんじゃ、高校受験頑張りなさいって。」
「そうか。じゃ、中学も一緒だな。」
「うん、高校も一緒だったらいいね。」
「えっ?それどういうこと?」
「そのままの意味だけど。原君は嫌なの?」
「い、いやじゃない。」
 (中学はだいたい一緒だけど、高校も一緒になんて、そんな風に考えてくれてたのが、嬉しい。)
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