第10話 高校受験を終えて

文字数 972文字

受験を終えて、やるだけのことはやった、としか言いようがない。
『終わったね。』
『終わったな。なんだか、何も言えることが無いよ。』
『わかる。その気持ち。』

原君は、自分も合格だったらなんとなくのりさんに好きだと伝えれそうな気がしていた。でも自分だけだめだった場合こそ、本気を伝えないと離ればなれになってしまう。本を読もうとしても、合格?不合格?と考えてしまうので、今日ぐらいは合格してる体で、ピアノの伴奏できるように指ならしをしとくことにした。こういう時はメトロノームで無心になる。

発表の日は土曜日だった。朝の9時からネットで合否がわかる。原君は、きちんと7時には起きて、きちんと着替えて朝御飯を食べ、きちんと顔を洗って歯を磨いて。自分の部屋へは行かず、ピアノの部屋でひたすらメトロノームに合わせて指を動かしていた。今何時とか、考えたくない。カチカチカチカチ…。
コンコンコンコン、ドアをノックする音が4回。
「倫太郎、お昼よ。」
「えっ?お昼?」
「そうよ。12時過ぎてるわよ。何時に見ても、結果は変わらないわよ。」
「…。」(完全に読まれてるな。)
原君はとうとう自分の部屋に行き、机の上の携帯を手に取った。ふっと息をはいて、ネットに繋げる。
静かに階段を降りてくる原君。お昼ご飯のパスタをお皿に盛ってテーブルに運んでくるお母さん。原君は、お母さんに携帯の画面を見せた。
「怖いから、代わりに見て_。」
「はいはい。見せて。」
お母さんは普通を装いながら、しかし、原君の手ごと携帯の画面を見るのに、息を止めていた。

「は~、合格だって。」
「ほんとに?」
「変な嘘はつきません。」
そ~っと、携帯の画面を見る原君。
「ほんとだ、合格してる。」
原君とお母さん、静かに何度も携帯の画面を見ては頷き、見ては頷きしあった。
「小山さんに連絡しなきゃ。」
「うん、のりさんからは連絡がないから、のりさんも合格してるな。」
のりさんと原君だったら、のりさんが合格してる確率の方が高いので、原君が合格したら、のりさんに連絡することにしていた。
『のりさん、合格だったよ。』
『お~、良かった~。私もです。』
『連絡が遅くなってごめんね。見るのが怖くてさっき見たとこ。』
『大丈夫。私も、すぐには見れなかったよ。明日、どこかで会えないかな?』
『うん、僕も会いたいと思ってた。公園はどう?』
『うん。いいね。』




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