第6話ピアノ発表会

文字数 1,623文字

『ピアノの発表会は何時からなの?』
『10時から。でも、僕は第三部に出るから。プログラムを送るよ。』
『倫太郎君、第一部にも名前あるけど、これは?』
『それは、小さい子の伴奏をします。』
『それも、見たい。』
『え、恥ずかしいよ。』
『ハハハ、行くね。』
『他の誰にも言わないで。今までも誰にも言ったことないから。』
『今までも、って、前にもあったの?』
『毎年してるから。』
『え~?知らなかった。』
『…。発表会って言っても個人の先生のところだから、気軽に来てくれたらいいから。』
『そうなんだ。きちんとした格好のほうがいいかなと思ってたんだけど?』
『昨日みたいな感じでいいよ。僕も制服で出るし。』
『わかった。楽しみだな』
『プレッシャーかけないでくれ。』

のりさんは、先週の日曜日よりも、少しきちんと目の格好のお出かけの服装に着替えた。お花とかも考えたけど、原君がすごく恥ずかしがるだろうと思ってやめた。原君が今日のりさんを呼んでくれたこと自体がすごく、勇気を持ってしてくれたことだと思ったから。。
会館に入って受付を済ませて中に入ると、とても、キレイなホールだった。真ん中の列の左のほうに座る。
発表会は、小さな子がふたりでたどたどしく挨拶をして始まった。3組目、小さい男の子と原君が、手を繋いで舞台に出てきた。原君は、舞台の真ん中でお辞儀をするときも、椅子を合わせてあげる時も、曲の始まりや息を合わすとこも、優しく男の子に合図してる。
演奏が終わって、大成功だったようで男の子は嬉しそうに原君を見た。舞台袖に戻るとき、男の子とつないだ手の反対のほうを少し上げて、原君がのりさんのほうを見た。気づいてたの?

その後も小さい子達がお母さんや先生とお母さんするの連弾が続いてた。のりさんの隣に静かに誰か座る。
(えっ?倫太郎君?)
曲が終わると
「始めから来てくれたんだな。」
「うん、いい演奏だったね。」
「はるとくん、頑張ってたから。」
「大成功で、良かったね。ネクタイとベストのせいかな?倫太郎君ちょっといつもと感じが違うね。」
「えっ?そう?はると君に合わせたから。」
(なんだか、かっこいい。)

第二部も終わって小休憩があった。
「今日は、最後までいてくれる?」
「うん、そのつもり。」
「じゃ、帰り送っていくよ。プログラムが全部終わったら、舞台で写真撮影があるんだけど、待ってて。」
「うん、わかった。」
「…ごめん、ちょっ右後ろ振り返ってくれる?」
「ん?何?」
「母親にサービス。」
「えっ?どういうこと?」
「さっきから、僕たちの写真を撮ってる。」
「ええ?」
確かにふたりに携帯向けてる人がいた。慌てて、のりさんは会釈した。お母さんも、チョコっと頭を下げてくれた。
「お母さん来てたんだ。ここにいていいの?」
「先に言ってあるから『小山さんが来てくれたら、別行動するから』って。親父も兄貴も来てる。」
「ええっ?」
のりさんが、もう一度振り返ったら、今度はお母さんの隣の人も一緒に3人がふたりに携帯を向けてた。

第三部が始まる。
「そろそろ、行くよ。」
「うん、頑張って。」
「ありがとう。」

4曲目、原君が学ランで舞台に出てきた。
(これ、曲名は知らないけど聴いたことある。…すごい、かっこいい。)原君て、本当にピアノが弾ける人なんだ。のりさんは、初めて原君と話をしたことをはっきりと覚えている。泣き虫なことを責められるのかと思っていたら、なんだか優しいことを話してくれて。見た目は目付きのきりっとした原君だけど、話す言葉や態度はとても柔らかくて。原君という男の子がいるのだと、他とははっきりと区別をしたのだった。

プログラムも全部終わって、原君がのりさんの席に来た。
「学ラン預けてくるからちょっと待っててくれ。」
「お母さん達と帰らなくていいの?」
「うん、のりさんと話しながら、帰りたいから。」
(そんなこと言ってくれるんだ。)
「時間大丈夫?」
「うん。」
「だったら、天気もいいし、公園よって行こうか?」
「うん、いいね。」

























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