第7話 送ってくれて

文字数 1,642文字

先週も歩いた公園の中、今日は天気も良くてぽかぽかとして、そしてやっぱり静かで、ふたりの足音とおしゃべりだけだった。途中、スタンドがあったので、ホットドッグと飲み物を買って、日の当たるベンチに座って食べた。
「倫太郎君のピアノやっと聴けた~。っていうか、聴かせて、って言ったこと覚えててくれたんだね。」
「うん。でも、のりさんに言われるまでは、ピアノも適当に習ってた。のりさんに聴かせるにはちゃんと弾けないとと思って真面目に練習し始めたんだ。」
「そんな、きっかけになってたなんて。なんかほんとに、今日は知らない倫太郎君を見た気がする。」
「そ、そう?え?どんな?っていうか、うちの家族ごめん。勝手に写真撮って。」
「ううん。光栄です。でも、3人ともがこっちに携帯向けてたのは、笑えた~。」
のりさんが、とてもいい笑顔だったので、倫太郎君も、いつもよりのりさんに近づけた気持ちになった。
「あの、頼みたいことがあるんだけど。」
「何?」
「二人で写真撮ってもいいですか?」
「う、うん。」
初めての二人の写真。二人とも緊張していて、表情が固い。倫太郎はのりさんに撮った画像を転送した。
「なんか、固いね。」
「もっかい撮る?」
「もっかい撮っても同じ気がする。これから、いっぱい撮ったら、自然な感じになるんじゃないかな。」
そっか、そっか。と相づちをうちながら、倫太郎君はいつか、のりさんとのいい雰囲気の写真を撮りたい、と想像した。

「ところで、私があそこに座ってることいつから知ってたの?」
「のりさんがホールに入ってきたとこから見てた。舞台袖にずっといたから。来てくれた~、って思ったよ。」
「そんなに早くから?」
「うん、のりさんが来たとき、すぐにわかった。」

原君はのりさんを家まで送ってくれた。
また、明日。学校で。

のりさんは、自分の部屋で机に向かい、初めてふたりで撮った写真を見ていた。はると君に笑いかける優しい原君、のりさんに気づいて小さく手を振ってくれた原君、ピアノを弾くかっこいい姿。先週のチョコをくれた、ちょっと照れた顔。のりさんの頭の中は、原君だらけだ。
そして、原君家族が3人して携帯をふたりに向けてる場面を思いだして、ちょっと笑った。

『今日は、長い時間ありがとう。3人が撮ってた写真を送ります。』
原君がのりさんに写真5枚送ってくれた。
『たくさんありすぎるから、勝手に母さんが、厳選しました。』
『ありがとう。今日で、倫太郎君との写真が増えた。0枚が6枚。』
『僕は0枚からたくさん。』
倫太郎君が演奏してる写真が欲しいです。』
のりさんは、勇気を出してメッセージを送ったのだが、既読から長い…。(嫌なことお願いしちゃったのかな?どうしよう。気分悪くしてたら。)
のりさんは、晩御飯を食べた後、部屋に戻ってすぐに携帯を見たら、メッセージが来てた。
写真3枚。はるとくんと演奏してる写真、学ランで一人で演奏してる写真、はるとくんと笑いあってる写真。
(3枚目の倫太郎君がとても優しい顔してる。)
『自分の写真を送るのは恥ずかしい。』
『ありがとう。待ち受けにするね。』
『や、やめて~。』
『うそ。独り占めするから、表には出さない。』
『僕はこれを待ち受けにしたい。』
1枚写真が送られてきた。のりさんと原君が笑ってる。
『私も。』
また、既読から長い…。
『嬉しいです。』

(もう、らしい。)
好きだと言ってしまいたい。だけど、倫太郎君が私のことを特別な友達みたいな感じでしか思ってないかもしれない。そうしたら、好きと言ってしまったら、今みたいな関係が終わってしまいそうだし。恐くて言えないな。倫太郎君に告白した子も気になるし。)
今日は原君の素敵なところをたくさん見たので、のりさんの頭の中はいつまでも原君だらけ。原君への気持ちが倍増してしまったようです。
いつもそうだけど、今日ののりさんは、また、かわいかったな~。家族に感謝だな。こんなに、写真撮ってくれて、この写真とか、いいわ~。この笑顔がいいんだよな~。僕こそ、これを待ち受けにしたい。









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