君は私の彼氏でした!? Part②

文字数 3,397文字




 遊び疲れた私達は、数軒ある海の家から適当に近場を選ぶと、四人で昼食を取る為に店内へと入った。


「私、いちご練乳かき氷ー!」

「ご飯は?」

「いらなーい」

「後で腹減ったとか言うなよ」


 ジロリと私を見たお兄ちゃんは、そう告げるとひぃくんと一緒にレジへと向かう。皆が焼きそばだのカレーだのと言っている中、私だけかき氷を頼むとお兄ちゃんは呆れたような顔をしていた。


(だって暑くて食べる気しないんだもん。皆よく食べれるよね)


 適当に空いている席に腰を下ろすと、お兄ちゃん達の後ろ姿を眺める。


(あ……。また女の人に逆ナンされてるし)


「声、掛けられすぎ」


 私は小さく溜息を吐くと、ポツリと愚痴を零した。
 男二人になった途端にこれだ。本当に二人はよくモテる。


「二人ともイケメンだからね」


 目の前に座った彩奈は小さくそう呟くと、お兄ちゃん達の後ろ姿を見つめながら目を細めた。


(何だか、さっきから彩奈の様子がおかしい気がする……)


 そう思いながらも、再びお兄ちゃん達へと視線を戻す。
 何やら、女の人達と話しているお兄ちゃん達。よく見てみると、お兄ちゃんの腕に自分の腕を絡ませて胸を押し付けている。


(随分と積極的なお姉さんだなぁ……凄い)


 唖然として眺めていると、突然ひぃくんがこちらを振り返ってヒラヒラと手を振り始めた。


(え? ……な、何?)


 そう思いながらも、小さく手を振り返してみる。すると、私達の方を見た女の人達が残念そうな顔をして去って行く。


(あ……ナンパ避け? 取り敢えず役に立てたんなら良かった)


 ホッとしたのと同時に、早くかき氷が食べたくなる。


「お兄ちゃーん! かき氷ぃー!」


 お兄ちゃんへ向けてそう催促をする。


(暑いから早くかき氷が食べたいのに……。さっさと買ってきてよ)


 そんな自己中な事を考えていた私。
 お兄ちゃんは呆れた様な顔をすると、クルリと背を向けて今度こそレジへと向かって歩き出した。


「兄使いが荒いわね」


 チラリと私を見た彩奈は、そう言うと呆れたように溜息を吐く。


「だって、暑くて」


 私は彩奈に向けてそう答えると、エヘヘッと笑ってごまかした。





◆◆◆





「んーっ! 冷たくて美味しぃー!」


 お兄ちゃんが買ってきてくれたかき氷を頬張りながら、両頬を包んで身悶える。
 火照った身体に冷えた氷が染み込むようで、予想以上にかき氷が美味しく思えた。


「良かったねー」


 私の隣で、ひぃくんが嬉しそうに微笑む。
 そんなひぃくんの目の前に置かれているのは、美味しそうな湯気を上げるカレーライス。……なんだか私も食べたくなってきた。


(やっぱりご飯も買ってきてもらえば良かったかも。……美味しそうだなぁ)


「カレー、食べる?」


 ジッと見ていた私に気付いたのか、ひぃくんはそう言うとクスリと笑った。


「えっ! いいの!?」

「だから言っただろ……」


 喜びにキラキラと瞳を輝かせる私に向けて、呆れ顔のお兄ちゃんは溜息混じりにそう告げる。


(だって……あの時は食べたいと思わなかったんだもん)


「いいよー。はい、あーん」


 ひぃくんから差し出されたスプーンにパクッと食いつくと、辛すぎないカレーが口の中いっぱいに広がる。


(あー……っ、なんて幸せなんだろう! 海で食べるカレーって、こんなに美味しかったんだぁ……頬っぺた落ちそう)


 思わず顔がニヤける。


「幸せぇ〜」

「花音可愛いー。もう一口食べる?」

「うんっ!」

「はい、あーん」


 あまりの美味しさに、お兄ちゃんと彩奈が目の前にいる事も忘れてしまう。
 私はひぃくんから差し出されたスプーンにパクリと食いつくと、美味しいカレーを頬張った。
 そんな私達の様子を静かに見ていた彩奈は、おもむろに口を開くと首を捻った。


「響さん……。なんだか、いつにも増して花音にベッタリな気が……」


 突然の彩奈の発言に、ハッと我に返った私は口元を抑えた。


(つい素直に食べちゃった……。何やってるの、私。これじゃただのバカップルみたいじゃない)


「んー? だって、花音は俺のお嫁さんだからねー」


 彩奈を見て、ニッコリと微笑むひぃくん。


「え……? それって、付き合ってるって事?」

「そうだよー」


 彩奈からの質問に、笑顔でそう答えるひぃくん。


(えっ!? まだその設定続いてたの!?)


「ひ、ひぃくん。もうその設定はいらないよ?」


 困った様に笑いながらそう告げると、途端に悲しそうな顔をみせるひぃくん。
 それを見て、思わずギョッとする私。


(えっ……。私、何か悪い事言った?)


「花音……っ、離婚だなんて言わないでよー!」


 ウルウルと瞳を潤わせたひぃくんは、そう言うと私を抱きしめた。


(え……? 何それ)


「……お前ら、いつから付き合ってたわけ?」


 その声に視線を向けると、何だかドス黒いオーラを漂わせたお兄ちゃんが……私をジロリと見ている。


「つ、つっ、付き合ってなんかないよっ!」

「付き合ってるよーー!!」


(や、やめてひぃくん! お兄ちゃんが誤解するからぁー!)


 付き合っていないと言う私の横で、私を抱きしめながら付き合っていると宣言するひぃくん。
 本当にやめて欲しい。


(お兄ちゃんの顔がどんどん鬼になってきてることに気付いてよ……っ!)


 抱きつくひぃくんを退けようとするも、ひぃくんの力が強すぎて退けられない。


(鬼が……っ、鬼がぁー!!)


「え……。で、どっちなの? 付き合ってるの? 付き合ってないの?」


 少し呆れた様な顔で質問をする彩奈。


「付き合ってないよー!」

「付き合ってるよー!」

「もう、やめてよひぃくん! 嘘付かないでっ!」

「嘘じゃないよー!! 花音酷いよー!!」


 大きな声でそう言ったひぃくんは、私に抱きついたままメソメソと泣き始める。


(えー……。何か、私が悪者……なの? 何で泣くのよ……)


 そんな私達に呆れたのか、小さく溜息を吐いた彩奈が口を開いた。


「うん、わかった。じゃあ……響さん。花音とはいつから付き合ってるの?」


(……え!? 付き合ってないよ! 彩奈!)


 そう思いながら彩奈を見ると、いいからお前は黙っとけって顔をされる。


(そんなに怖い顔しなくても……)


 仕方がないので、素直に黙って見守る私。


「……体育祭の時。花音がお嫁に来てくれるって言ってた」


(え……。えっ!? あ、あの時の!?)


 私は数ヶ月前の出来事を思い返してみた。
 確か、ひぃくんが告白されたと聞いて、私がどうなったのか尋ねたやつ。気になるって事は、俺の事が好きだって事だと言われて──。
 そこまで思い出すと、一気に顔が熱くなってくる。


(いっ、いやいやいや! 私、別にひぃくんの事好きじゃないし! ……うん、断じて違う! えっ、待って……あれで付き合う事になっちゃうものなの……? それが普通なの?)


 一度も交際経験のない私には、さっぱり分からなかった。
 チラリとお兄ちゃんの方を見てみると、興味がなくなったのか平然と焼きそばを食べている。


(え……。わからない……誰か教えて)


 チラリと彩奈の方に目をやると、真っ赤になっているのであろう私の顔を見て、フッと笑うと自分の焼きそばを食べ始めてしまった。


(……え? え!? その笑いはどういう意味!?)


 一人、その場でパニックになる私。


「花音。体育祭の事、覚えてないの?」


 未だメソメソと涙を流し続けるひぃくんは、悲し気な顔をさせながら私の顔を覗き込んだ。


「覚えてる……、けど」


(あれで彼女になっちゃうものなの……?)


 ……私にはよく分からない。


「花音は俺のお嫁さんだからね? 絶対に離婚なんてしないっ!」


 ひぃくんはそれだけ告げると、私に抱きついたまま更にメソメソと涙を流し始めた。


(え……。やっぱり……私、ひぃくんの彼女なの? そうなの?)


 最近、やたらとスキンシップの激しくなったひぃくん。確か、ケーキを食べていた時は口を舐められた。
 さっきだって、「あーん」なんてされて普通に喜んで食べてしまっていた。

 私は呆然としたまま、ゆっくりとテーブルへと視線を落とした。
 左手に握られたかき氷の器が汗をかき、冷んやりとした水滴が指先を伝ってポタリとテーブルの上へ落ちる。


(そっか……私、彼女だったんだ……。あれで彼女になっちゃうなんて、知らなかったよ……)


 メソメソと泣きながら抱きついてくるひぃくんをそのままに。私はテーブルにできたいくつもの水滴を見つめながら、ただ、呆然とそんな事を考えていた。



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登場人物紹介

♡結城 花音♡(ゆうき かのん)


身長150cm  高校一年生



✨性格✨

良く言えば天真爛漫で純粋な性格だが、悪く言ってしまえば無鉄砲で自分勝手なところがある……と、お兄ちゃんが言っていた事は本人にはヒミツ。

基本的には、単純なおバカさん。



✨好き✨

食べる事!



✨嫌い✨

勉強(꒦ິ⌑꒦ີ)




♡榎本 響♡(えのもと ひびき)



身長178cm  高校三年生



✨性格✨

常に成績はトップクラスで頭の回転はすこぶる早いが、変わり者故その思考回路は斜め上をゆく。

頭の中にあるのは常に花音のことばかり。

もはや彼の瞳には花音しか見えていない模様。



✨好き✨

花音♡



✨嫌い✨

花音をいじめる人



♡結城 翔♡(ゆうき かける)



身長180cm  高校三年生



✨性格✨

頭脳明晰で冷静沈着。

年齢よりも年上に見えるほどの落ち着きがあるが、それは本人曰く、「あんな頭のおかしい幼なじみと危なっかしい妹がいたら、俺がしっかりするしかないだろ」との事。

そんな冷静な彼を慌てさせる事ができるのは、血の繋がった妹である花音とお隣に住む変人幼なじみの響ぐらいなのかもしれない……。



✨好き✨

家事

……それと、可愛い妹



✨嫌い✨

花音に近づく男ども



♡望月 彩奈♡(もちづき あやな)



身長160cm  高校一年生



✨性格✨

一見するとクールで塩対応だが、とても優しい女の子。

小学生の頃からの幼なじみである花音の事は、親友であるのと同時に可愛い妹のようにも思っている。



✨好き✨

……///



✨嫌い✨

しつこい男



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