そんな君が気になります Part②

文字数 3,290文字





「お兄ちゃん……。私、もう学校辞める」

「は……?」

「だって……っ。もうっ……、もう学校行けないよぉぉおおーー!!」


 突然泣き出した私に、焦り始めたお兄ちゃん。

 ──私達は今、誰もいない中庭に来ている。晒し者になっていた私を、お兄ちゃんが連れ出してくれたのだ。
 あの後、マイクを借りて訂正してくれたお兄ちゃん。


『今のは嘘です!』


 そう宣言するお兄ちゃんに、『嘘じゃないよー』と言い出したひぃくん。物の言い方ってものを、もう少し考えてもらいたい。
 結局、おやすみのハグをしてるって事で話しは落ち着いた。さすがに、毎日一緒に寝ているとは言えない。


『昔からハグしてるんです。俺も響と毎日してます』


 そう言って、身体を張って実演までしてくれたお兄ちゃん。その光景に、周りの女の子達からは歓喜の悲鳴が上がった。
 それでもやっぱり、一部の女の子達からは私に対しての反感の声が上がっていた。訂正してくれたお兄ちゃんの言葉も、皆がどれだけ信じてくれたかはわからない。


(もしかしたら、誰も信じていないかも……)


 そう考えると、もう学校は辞めるしかないと思った。
 反感を買い白い目を向けられ、好奇の視線を浴びる……。そんな四面楚歌な状況を想像すると、恐ろしくて耐えられそうもない。


「大丈夫だって、花音。……絶対に大丈夫だから」


 身体を張ってくれたお兄ちゃんには申し訳ないけど、全然大丈夫なんかではない。


「無理ぃ……っ」


 中々泣き止まない私を見て、困り果てたお兄ちゃんは小さく溜息を吐いた。


「花音……。学校辞めたら後悔するぞ。大体、学校辞めてどうする気なんだ? 編入するのか? 就職でもするのか?」


 急に現実的な話をしだしたお兄ちゃんに、何も答えられない私は口を(つぐ)んだ。


「何も考えてないんだろ? 学校を辞めるって事は、そうゆう事なんだぞ?」


(そんな正論言われたら何も言えないじゃん……っ)


「絶対に大丈夫だから。どうしても駄目だったら、その時にもう一度考えればいいだろ? ……な?」


 お兄ちゃんに説得され、渋々ながらに小さく頷く。


「俺も響もいるし、絶対に守ってやるから。大丈夫だよ」


 そう言って優しく頭を撫でてくれるお兄ちゃん。


(……大体、私をこんな目に合わせた張本人は今何処にいるの?)


「お兄ちゃん……っ。ひぃくんは今、どこにいるの?」


 グズグズと涙を拭きながらも、目の前のお兄ちゃんを見上げてそう訊ねてみる。


「ああ……たぶん、告白されてるんだろ。さっき女子に呼ばれてどっかに行ったよ」


(告白……。告白されてるんだ……ひぃくん)


 そんなの今に始まった事ではない。昔からモテるひぃくんは、よく女の子に告白をされていた。


(だけど──何だろう、この胸のモヤモヤは)


 今まで考えた事もなかったけど、いつかひぃくんにも彼女ができてしまうのだろうか? 
 そう思うと、何だか悲しくなってくる。


(幼なじみを取られる気がして寂しい……のかな?)


 何だかよく分からない。もしかしたら、今会っている人と付き合ってしまうのかもしれない。そう思うと、気になって気になって仕方がなかった。
 何だかよくわからない胸のモヤモヤに、私は少しだけ後悔をした。


(お兄ちゃんに聞くんじゃなかった……。もう忘れよう)


 そう思うと、涙を拭いてパッと笑顔を見せる。


「……私、戻るね。お兄ちゃん、さっきはありがとう」

「ん。……じゃあ、お昼にまたな」

「うん。あとでね」


 そう答えると私は中庭を後にした。






◆◆◆






 黙ってモグモグとお弁当を食べている私は、チラリと隣にいるひぃくんを盗み見た。
 お昼休憩になり、今、私はお兄ちゃん達と一緒に中庭に来ているのだけど……。


(さっきの告白……、どうなったんだろう?)


 それが気になって仕方がなかった。

 相変わらず隣でニコニコとしているひぃくんからは、いつもと変わった様子は全く感じられない。


(聞いて……、みようかな)


「ひぃくん……。さっきのって……、どうなったの?」

「んー? さっきのって何?」


 お弁当を食べ進めていた手を止めると、私を見て小首を傾げるひぃくん。


「さっき……告白されたんでしょ?」


 少しだけ顔を俯かせると、チラリとひぃくんの様子を伺う。
 すると、ピタリと固まったひぃくんが両目を大きく見開いた。


(え……っな、何? 聞いちゃマズかったのかな)


「か……っ、花音……花音……っ」


 瞳を小さく揺らしながら、プルプルと震える手を私に向けて伸ばしたひぃくん。そのままガバッと私に抱きついたかと思うと、突然大きな声を上げた。


「っ……可愛すぎるよ、花音っ! お嫁に来てくれるの!? ありがとう!! 大切にするからね!!」


(どういうこと……っ? 私の質問はどこにいったの……?)


「──おい、響」


 ギロリとひぃくんを睨みつけるお兄ちゃん。その声に反応したひぃくんは、嬉しそうな顔をして口を開く。


「翔っ! 聞いた!? 花音がお嫁に来てくれるって!!」


 そう言ってニコニコと微笑むひぃくん。
 お兄ちゃんは私の腕を引っ張ってひぃくんから離すと、小さく溜息を吐いた。


「……聞いてないし、言ってない」


 シレッとした顔をするお兄ちゃんは、自分の隣に私を座らせると再びお弁当を食べ始める。


「言ったよー! 確かに言った!!」


(いや……言ってないです、ひぃくん。私そんな事一言も言ってないよ……。そんな事より、私の質問はスルーですか? 結構勇気出して聞いたのにな……)


 そう思うと、ガックリと肩を落とす。


「告白が気になったって事は、俺の事が好きだって事でしょ?」



 ────!!?



 ひぃくんの発した言葉で、私の顔に一気に熱が集中し始める。そして、見る見る内に真っ赤に染まってしまった私の顔。
 まるで茹でダコのように真っ赤になってしまった私は、ひぃくんに向けて勢いよく声を上げた。


「っ……ちっ、違う! 違うもんっ!!」


(なんて事だ……っ! ひ……っ、ひぃくんを好きだなんて……! そんな事あるわけない! 違う、絶対に違う……っ!)


 カーッと熱くなってゆく顔に、自分でも動揺が隠せない。
 確かにひぃくんの事は好きだ。だけど、恋とかではなくて……幼なじみとして好きなだけ。大体、さっきだってひぃくんのせいで酷い目に合ったのだ。そんな人を好きになる訳がない。
 ──そう、自分に言い聞かせる。


「かの〜んっ!」



 ────!?



 嬉しそうな声を上げながら、いきなり飛び付いてきたひぃくん。そんなひぃくんを支えきれなかった私の身体は、ゆっくりと後ろへ向かって傾いてゆく。


(えっ……ここ、ベンチ──落ちる!)


 ギュッと固く瞼を閉じると、その衝撃に備える。


(…………。あ、あれ……? 痛く……、ない?)


 恐る恐る瞼を開くと、目の前にはひぃくんらしき胸板が見える。


「……っ。おい、ふざけんな響!」


 背後から聞こえるお兄ちゃんの声。どうやら、私はお兄ちゃんを下敷きにして倒れているらしい。
 きっと、私を庇ってくれたのであろうお兄ちゃん。上にはひぃくん、下にはお兄ちゃん。


(笑えない……。何このサンドイッチ)


「早く退()け、重い」


(ごめんなさい……、お兄ちゃん。私、動けません。苦しくて声すら出せません……っ)


 全く退く気のないひぃくんは、私の上で「かの〜ん。かの〜ん」と嬉しそうな声を出している。


(く……、苦し……っ)


 苦しさから少しだけ顔を横へと動かしてみると、中庭にいる生徒達が視界に入ってくる。
 三人で抱き合ったまま、地面に転がっている私達。そんな私達を見て、驚きに目を見開いている人達や、クスクスと笑っている人達。
 どうやら、また私は皆の前で醜態を晒してしまったらしい。


(もう嫌……っ。なんでいつもひぃくんてこうなのよ……。絶対にひぃくんを好きだなんて有り得ないから……っ)


 私の上で嬉しそうな声を出しながら揺れているひぃくん。
 そんなひぃくんに抱きしめられながら、私は苦しさに顔を歪める。


(っ……お願い、揺れないで……。苦しいし、恥ずかしい……っ)


 ──その後。お兄ちゃんが無理矢理ひぃくんを退けるまでの間、私はずっと潰れた蛙のような呻き声を上げていた。

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登場人物紹介

♡結城 花音♡(ゆうき かのん)


身長150cm  高校一年生



✨性格✨

良く言えば天真爛漫で純粋な性格だが、悪く言ってしまえば無鉄砲で自分勝手なところがある……と、お兄ちゃんが言っていた事は本人にはヒミツ。

基本的には、単純なおバカさん。



✨好き✨

食べる事!



✨嫌い✨

勉強(꒦ິ⌑꒦ີ)




♡榎本 響♡(えのもと ひびき)



身長178cm  高校三年生



✨性格✨

常に成績はトップクラスで頭の回転はすこぶる早いが、変わり者故その思考回路は斜め上をゆく。

頭の中にあるのは常に花音のことばかり。

もはや彼の瞳には花音しか見えていない模様。



✨好き✨

花音♡



✨嫌い✨

花音をいじめる人



♡結城 翔♡(ゆうき かける)



身長180cm  高校三年生



✨性格✨

頭脳明晰で冷静沈着。

年齢よりも年上に見えるほどの落ち着きがあるが、それは本人曰く、「あんな頭のおかしい幼なじみと危なっかしい妹がいたら、俺がしっかりするしかないだろ」との事。

そんな冷静な彼を慌てさせる事ができるのは、血の繋がった妹である花音とお隣に住む変人幼なじみの響ぐらいなのかもしれない……。



✨好き✨

家事

……それと、可愛い妹



✨嫌い✨

花音に近づく男ども



♡望月 彩奈♡(もちづき あやな)



身長160cm  高校一年生



✨性格✨

一見するとクールで塩対応だが、とても優しい女の子。

小学生の頃からの幼なじみである花音の事は、親友であるのと同時に可愛い妹のようにも思っている。



✨好き✨

……///



✨嫌い✨

しつこい男



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