煩悩はつまり子煩悩? Part①

文字数 2,029文字





 ソワソワと落ち着かない様子で、チラリと掛け時計に目を向ける。


(……ひぃくんまだかなぁ。彩奈はもうとっくに来てるのに。斗真くん達との約束の時間まで、あと三十分しかないよ)


 大晦日の今日。皆んなでカウントダウンに行く約束をしている私は、未だに姿を現さないひぃくんに焦りを感じ始めていた。
 斗真くん達と待ち合わせをしている駅までは、自宅から出発すると二十分はかかってしまう。


(もうギリギリだよ……)


 痺れを切らした私は、椅子から立ち上がろうとテーブルに手を付いた。


「私、ちょっと迎えに行っ──」

「ダメ」


 間髪入れずにそう告げると、ギロリと鋭い視線を向けるお兄ちゃん。
 私は顔を引きつらせると、立ち上がりかけていた腰を下ろして椅子へと座り直す。


(そっ、そんなに怖い顔しなくたっていいじゃん。ちょっと迎えに行くだけなのに……)


 ちょうど一週間前のクリスマスの日以来、ひぃくんの家への立ち入りを禁止されてしまった私。正直あの日は私も助かった。だけど、あの日のお兄ちゃんを思い出すと……今でも恐ろしい。
 それを思い出した私は、あまりの恐怖からブルリと身体を震わせた。


「寒いの?」


 震える私に気付いた彩奈が、心配そうに私の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫だよ? ヒートテック二枚も着てるし」


 心配させまいとニッコリと微笑んで返事を返すと、彩奈の隣に座っているお兄ちゃんが口を開いた。


「アイスココアなんて飲んでるからだろ? ほら。風邪ひくなよ」


 呆れたような顔をしながらも、自分の飲みかけの紅茶を私に向けて差し出すお兄ちゃん。
 湯気が出ていてとても熱そうだ。


「あ、ありがとう……」


(震えたのは貴方のせいです)


 なんてことは、口が避けても言えない。暫くはこのトラウマが続きそうだ。
 ヘラリと引きつった笑顔を見せた私は、熱々の紅茶にフーフーと息を吹きかけるとコクリと一口飲み込んだ。






◆◆◆






 その後、なんとか時間ギリギリで間に合った私達は、無事に斗真君達と合流すると目的地だった神社へとやって来た。


「……うわぁーっ! やっぱり凄い混んでるね!」


 カウントダウンの為に集まった多くの人集(ひとだか)りを見て、私は大きく感嘆の声を上げた。
 先の見えない行列を眺めた後、とりあえず最後尾らしき列に並び始めた私達。


(ここって、まだ神社の入り口付近だよね?)


 キョロキョロと辺りを見回してみても、先頭の様子なんてちっとも分からない。諦めた私は、今度は参道脇に並んだ何件もの出店を物色し始めた。


(どれもとっても美味しそう)


 その美味しそうな食べ物の匂いにつられて、グゥ〜ッと音を鳴らした私のお腹。


(お腹空いたなぁ……)


 ペコペコになったお腹を摩りながら出店をジッと眺めていると、そんな私に気付いたひぃくんが話しかけてきた。


「お腹空いちゃったねー。何か買いに行こっか?」

「うんっ!」


 勢いよく頷くと、そんな私を見てクスリと微笑んだひぃくん。


「並んでおくから、買いたい人は行って来な」


 私達のやり取りを横で見ていたお兄ちゃんは、斗真くん達に向けてそう告げると優しく微笑んだ。


「「ありがとうございます」」


 お兄ちゃんの言葉を受けて、ペコリと軽く会釈をする斗真くん達。
 結局、お兄ちゃんと彩奈だけを残して出店に向かう事にした私達は、それぞれが目当ての出店へと向かって散り散りに歩き始めた。勿論、私はひぃくんと一緒に。

 「適当に二人分買ってきて」と言われて、お兄ちゃんから渡された五千円札をポケットへとしまうと、目の前に立ち並ぶ出店を眺めてキョロキョロとする。


(何食べようかなー? こんなにあると迷っちゃうなぁ)


 そんな事を考えながらも、緩んだ顔をニヤケさせる。


「ねぇねぇ、花音ちゃん。花音ちゃんのお兄さんて……凄いイケメンだよねっ」


 私のすぐ傍へと近寄って来た志帆ちゃんは、そう小さく耳元で囁く。


「お兄さんてさ、彼女いるのかな?」

「んー……どうなんだろう?」


 そんな曖昧な返事を返しながらチラリと隣を見てみると、ほんのりと赤く頬を染めた志帆ちゃんが「カッコイイなぁ〜」なんて言いながらニヤニヤとしている。
 クリスマスイブの日に、何処へ出掛けていたお兄ちゃん。


(……彼女でもいるのかなぁ?)


 チラリと後ろを振り返ると、少し離れた先で彩奈と二人で列に並んでいるお兄ちゃんを眺める。


(私にはダメって言ってたくせに……。自分だけ堂々とクリスマスデートなんて、許さないんだからっ!)


 自分だってコッソリとひぃくんとのデートを楽しんでいたというのに、そんな事も忘れてプンプンと怒る私。彩奈と楽しそうに話しているお兄ちゃんを眺めて、プクッと頬を膨らませる。


「花音、どうしたの?」


 私の顔を覗き込みながら、小首を傾げてクスクスと笑い声を漏らすひぃくん。


「ううん、何でもないよ」

「ちゃんと前見てないと危ないよ?」

「うん」


 ひぃくんに向けてニッコリと微笑むと、目の前に差し出されたひぃくんの手を握った私は、再び出店に向かって歩みを進めた。


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登場人物紹介

♡結城 花音♡(ゆうき かのん)


身長150cm  高校一年生



✨性格✨

良く言えば天真爛漫で純粋な性格だが、悪く言ってしまえば無鉄砲で自分勝手なところがある……と、お兄ちゃんが言っていた事は本人にはヒミツ。

基本的には、単純なおバカさん。



✨好き✨

食べる事!



✨嫌い✨

勉強(꒦ິ⌑꒦ີ)




♡榎本 響♡(えのもと ひびき)



身長178cm  高校三年生



✨性格✨

常に成績はトップクラスで頭の回転はすこぶる早いが、変わり者故その思考回路は斜め上をゆく。

頭の中にあるのは常に花音のことばかり。

もはや彼の瞳には花音しか見えていない模様。



✨好き✨

花音♡



✨嫌い✨

花音をいじめる人



♡結城 翔♡(ゆうき かける)



身長180cm  高校三年生



✨性格✨

頭脳明晰で冷静沈着。

年齢よりも年上に見えるほどの落ち着きがあるが、それは本人曰く、「あんな頭のおかしい幼なじみと危なっかしい妹がいたら、俺がしっかりするしかないだろ」との事。

そんな冷静な彼を慌てさせる事ができるのは、血の繋がった妹である花音とお隣に住む変人幼なじみの響ぐらいなのかもしれない……。



✨好き✨

家事

……それと、可愛い妹



✨嫌い✨

花音に近づく男ども



♡望月 彩奈♡(もちづき あやな)



身長160cm  高校一年生



✨性格✨

一見するとクールで塩対応だが、とても優しい女の子。

小学生の頃からの幼なじみである花音の事は、親友であるのと同時に可愛い妹のようにも思っている。



✨好き✨

……///



✨嫌い✨

しつこい男



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