何度でも、君に恋をする Part③

文字数 2,741文字





「おい、響。父さんの言ったこと真に受けるなよ? 俺は絶対に許さないからな」


 その声に反応してチラリと視線を向けてみると、そこには恐ろしい顔をしてひぃくんを睨みつけているお兄ちゃん──ではなく、いつの間にやら変化(へんげ)した鬼がいる。


(ヒ……ッ! おっ、お兄ちゃん怒ってらっしゃる……っ)


 その迫力に、思わずブルリと身体を震わせる私。そんな私の視線に気付いたお兄ちゃんは、ひぃくんから私へと視線を移すと口を開いた。


「わかったな? 花音」

「……っ!? はヒッ……」


 あまりの恐ろしさに震えあがると、私は小さな声で間抜けな返事を返す。


(な、なんで私まで……。そんなに怖い顔でこっちを見ないで……っ)


 恐怖に(おのの)く私の姿を見て、お兄ちゃんの背後でプッと小さく笑い声を漏らした彩奈。


「ラブラブだからってヤキモチ妬かないでよー、翔」


 ニコニコと微笑むひぃくんは、震えている私を抱きしめると「翔怖いねー」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。


「そうだぞ? 翔。ヤキモチなんて妬いてないで、お前も子作りに励めよ」


 お兄ちゃんの肩にポンッと手を置くと、ニコッと爽やかに笑ったお父さん。
 その横で一部始終を見ていたはずのお母さんは、「そろそろご飯作らなきゃ。今日は皆んな、お夕飯食べていってね?」と優しく微笑むとキッチンへと消えてゆく。


(なんて自由なの……この状況で私を置き去りにするなんて……。薄情すぎるよ、お母さん……っ)


 自分の置かれた状況に愕然(がくぜん)とする。
 今私の目の前にいるのは、爽やかに笑っているお父さんと、呑気にニコニコと微笑んでいるひぃくん。そして、そんな二人を恐ろしい顔で睨みつけている鬼なのだ。
 そんな三人の姿を前に、薄情なお母さんを怨めしく思う。

 ワナワナと震えて恐ろしい顔をしているお兄ちゃんからは、今にも爆発してしまいそうなほどの怒りを感じる。
 そのあまりに恐ろしい光景を目の当たりにした私は、思わず目眩で気が遠のいてゆく。今にも気絶してしまいそうだ。

 怒り狂う鬼の背後にいる彩奈をチラリと見てみると、随分と冷静にこの光景を眺めている。
 ──否。むしろ呆れているといった感じだ。「やれやれ」といった風に、小さく溜息を吐いている。


(目の前にあんなに恐ろしい鬼がいるっていうのに……よくもまぁ、そんな呑気に。背後にいるから見えてないのね、きっと……)


 そんな事を考えながら見つめていると、私の視線に気付いた彩奈と視線が絡まり、反射的に引きつった笑顔を見せる私。


(彩奈……。あなたのダーリン、今とんでもなく恐ろしい顔してますよ……?)


 引きつった笑顔のまま、私は堪らずフヒッと変な声を漏らす。


「……っ、誰がヤキモチだよ!? ふざけた事ばっか言ってるなよっ!!」



 ────!!!?



 突然の鬼の大噴火に、驚いた私の身体はビクリと小さくその場で飛び跳ねた。


「どうしたんだよー、翔。糖分足りてないんじゃないか? ホラ、飴でも食べとけ」


 ポケットから飴を取り出したお父さんは、爽やかに笑うとお兄ちゃんに向かって飴を差し出す。
 それを見ていたひぃくんは、ニッコリと微笑むと口を開いた。


「お父さんの言う通りだよー? 翔。あっ……間違えちゃった、お兄ちゃん」


 そう言って、フニャッと笑って小首を傾げる。


「……っ!? 何が間違えただっ! お兄ちゃんて呼ぶなっ! それに、何ちゃっかりお父さん呼びしてるんだよ! お前の親父じゃないだろ!?」


 お兄ちゃんの言葉に、キョトンとした顔を見せるひぃくん。


「え? だって……花音と結婚するんだから、翔はお兄ちゃんだしおじさんはお父さんだよ? ……そうだよね?」

「うんうん。そうだぞー、響。怒りん坊なお兄ちゃんだけど、よろしく頼むな?」


 首を捻るひぃくんに対してそう答えると、ニコニコと嬉しそうな顔で微笑むお父さん。


「うん。でも、お兄ちゃんて本当に怒りん坊さんだね。まだヤキモチ妬いてるのかなー?」

「そうだなぁ、花音と響がラブラブすぎるからな〜。……ほら翔、飴」


 ひぃくんと楽しそうに会話を弾ませるお父さんは、その視線はひぃくんへと向けたまま、お兄ちゃんの目の前で飴をヒラヒラとさせる。そんな二人を見て、ハラハラとする私とプルプルと震えて俯くお兄ちゃん。
 その姿を目にして流石に心配になったのか、お兄ちゃんの袖をキュッと掴んだ彩奈。そんな彩奈の行動にピクリと肩を揺らしたお兄ちゃんは、フッと肩の力を抜いて彩奈の手に触れると、一度小さく息を吐いてからゆっくりと顔を上げた。


(あ……、あれ? 鬼じゃ、ない? ……よ、よかったぁ)


 ビクビクとしていた私は、お兄ちゃんの顔を見るとホッと安堵の息を吐く。けれど、何だかその表情はやけに真剣な面持(おもも)ちで、一体どうしたのかと様子を伺う。
 すると、ツカツカと無言のままひぃくんの元へとやってきたお兄ちゃんは、ポンッとひぃくんの肩に手を置くと、横にいる私をチラリと見下ろした。


(え……な、何ですか……?)


 反射的に怯えて引きつる私の顔。
 そんな私を見て小さく溜息を吐いたお兄ちゃんは、ひぃくんの耳元に顔を寄せると口を開いた。


「響。頼むから避妊だけはちゃんとしろよ」



 ────!!!?



 お兄ちゃんの口から出てきた言葉に、驚きで我が耳を疑う私。


(お兄ちゃん……今、なんて……っ?)


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。花音の事はずっと大切にするから。だから安心してね?」


 答えになっているのか、いないのか……。そんな返事を返したひぃくんは、フニャッと笑うと小首を傾げた。
 そんなひぃくんを見て、一瞬眉をひそめたお兄ちゃん。チラリと私を見て一瞬寂しそうな顔を見せると、その視線を再びひぃくんへと戻す。


「……お前のこと信じてるからな」

「うんっ」


 ひぃくんの返事に静かに目を伏せたお兄ちゃんは、そのままクルリと背を向けると彩奈のいる方へと戻ってゆく。


(え……、お兄ちゃん? 私、まだ無理だよ……子作りなんて……っ)


 お父さんに捕まり、「翔、飴いらないのかー?」と絡まれているお兄ちゃんの姿を見つめながら、私は一人取り残された気分になる。


(ねぇ……、私の気持ちは……? それって一番大事なとこじゃ……)


「良かったねー、花音。これで安心だね?」


 私の隣で嬉しそうな声を上げるひぃくん。
 そんなひぃくんを見上げて、私は盛大に顔を引きつらせた。


(……とっても不安。むしろ、不安しかないよ……っ)


 今や、ひぃくんの暴走を止めてくれる味方が、誰一人としていなくなってしまったのだ。


(お兄ちゃん……っ。どうして私を見捨てるの? ……なんで? お願いだから私を見捨てないで……っ)


 ひぃくんを見上げたまま情けない顔で懸命に笑顔を作った私は、心の中でお兄ちゃんに向けて必死にそう願い続けた。


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登場人物紹介

♡結城 花音♡(ゆうき かのん)


身長150cm  高校一年生



✨性格✨

良く言えば天真爛漫で純粋な性格だが、悪く言ってしまえば無鉄砲で自分勝手なところがある……と、お兄ちゃんが言っていた事は本人にはヒミツ。

基本的には、単純なおバカさん。



✨好き✨

食べる事!



✨嫌い✨

勉強(꒦ິ⌑꒦ີ)




♡榎本 響♡(えのもと ひびき)



身長178cm  高校三年生



✨性格✨

常に成績はトップクラスで頭の回転はすこぶる早いが、変わり者故その思考回路は斜め上をゆく。

頭の中にあるのは常に花音のことばかり。

もはや彼の瞳には花音しか見えていない模様。



✨好き✨

花音♡



✨嫌い✨

花音をいじめる人



♡結城 翔♡(ゆうき かける)



身長180cm  高校三年生



✨性格✨

頭脳明晰で冷静沈着。

年齢よりも年上に見えるほどの落ち着きがあるが、それは本人曰く、「あんな頭のおかしい幼なじみと危なっかしい妹がいたら、俺がしっかりするしかないだろ」との事。

そんな冷静な彼を慌てさせる事ができるのは、血の繋がった妹である花音とお隣に住む変人幼なじみの響ぐらいなのかもしれない……。



✨好き✨

家事

……それと、可愛い妹



✨嫌い✨

花音に近づく男ども



♡望月 彩奈♡(もちづき あやな)



身長160cm  高校一年生



✨性格✨

一見するとクールで塩対応だが、とても優しい女の子。

小学生の頃からの幼なじみである花音の事は、親友であるのと同時に可愛い妹のようにも思っている。



✨好き✨

……///



✨嫌い✨

しつこい男



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