君はやっぱり変でした Part①

文字数 2,809文字






「花音ちゃん!」


 突然呼ばれた声に振り返ると、いつぞやの何とか君。


(えっと……。確か名前は……山崎くん、だったかな? 確か、お兄ちゃんが危ないって言ってた気がする)


 それを思い出した私は、何が起こるのかと身構える。
 ポケットに手を入れた山崎くん。その行動を、ビクビクとしながら見守る。


「……これ。良かったら一緒に行かない?」


 突然差し出された何かに思わず目を(つぶ)ってしまった私は、ゆっくりと瞼を開くと恐る恐る目の前を見た。
 ニッコリと微笑む山崎くんの手元には、ヒラヒラと揺れる細長い紙切れが……。


「……あっ! これ、行きたかったスパ!」


 差し出された手をガシッと掴むと、その手に握られたチケットを覗き込む。

 ここは今話題の、最近出来たばかりの巨大スパ──。中には色んな施設が揃っていて、岩盤浴や温泉やプールがあって、施設内は全て水着で移動ができる。
 勿論、中には飲食店も色々とあって、一日中いても楽しめる。夢のような施設だ。


「あっ、あの。花音ちゃん……」


 頭上からの声に視線を上げてみると、山崎くんの顔が何だか少し赤い。


(熱でもあるのかな……?)


「二人きりじゃあれだから……お互い、友達でも誘って行かない?」

「うんっ! 行きたい!」


 笑顔でそう答えると、一度ホッとした様な顔を見せると笑顔になった山崎くん。
 その後、お互いの連絡先を交換した私達は、そのまま廊下で立ち話しを始めた。

 お兄ちゃんは危ないと言っていたけれど、今、目の前で話している山崎くんは全然危なそうな人には見えない。


「花音ちゃん。俺の事は斗真って呼んでくれると嬉しいな」

「うん、わかった。斗真くん」


 私がそう答えれば、嬉しそうに微笑む斗真くん。


(お兄ちゃん……。斗真くん、凄くいい人だよ)


 そんな事を考えていると──。
 突然後ろから肩を掴まれて、私の身体が反転させられた。



 ────!?



 何事かと驚いていると、目の前にはいつの間に来たのかひぃくんの姿が。


(あぁ……。なんだか、またデジャヴが……)


 不安が頭をよぎった、その時。目の前のひぃくんが口を開いた。


「花音……! 初めては……っ、花音の初めては、俺に捧げてくれたのに……っ!」


 大きな声でそう言い放ったひぃくんは、瞳を潤ませるとメソメソと泣き始める。


(泣きたいのは私だよ、ひぃくん……)


 ひぃくんの放った言葉で騒然とする廊下。


(あぁ……。今すぐこの場から消えたい……)


 私の腰あたりに抱きついて、メソメソと涙を流し続けるひぃくん。
 そのつむじを見つめながら、私は呆然と立ち尽くしたのだった。






◆◆◆






 私の隣で、ニコニコと嬉しそうにお弁当を食べているひぃくん。私はそんなひぃくんに向けて、ため息混じりの声を上げた。


「ひぃくん。さっきのあれ……、何?」


 メソメソと涙を流すひぃくんに連れられて、屋上へとやってきた私。すっかりとご機嫌になったひぃくんに反して、私は未だにさっきの出来事を引きずっていた。
 怨めしい気持ちでひぃくんを見つめる。


(あの時、私がどんなに恥ずかしかったか……)


「え? だって……花音がスパに行こうとしてたから」


 スパに行くのと、さっきの発言に何の関係があるのか……。私にはサッパリ意味がわからない。
 ひぃくんの思考を読み取るのは、一生無理なのかもしれない。


「それと、あの発言に何の関係があるの?」


 小さく溜息を吐くと、呆れながらひぃくんを見る。


「忘れちゃったの!? 花音!! 俺に初めてを捧げてくれたのに……っ!」


 ひぃくんの言葉に、ピクリと眉を動かして反応を見せたお兄ちゃん。
 そのままゆっくりと視線を動かすと、その瞳に私を捉える。


(えっ……。お、お兄ちゃん……私を見ないで。私だって、意味がわからないんだから……)


 思わず顔が引きつる。


「花音! ……っ花音の公園デビューは、俺に捧げてくれたでしょ!? 忘れちゃったの!?」


 私の肩をガッチリと掴んで、ユサユサと揺らし始めたひぃくん。


(あぁ……もう、嫌だ……。何て紛らわしい言い方をするんだろう、この人は。初めからそう言ってくれればいいのに……)


 私の身体を揺らしているひぃくんを見てみると、泣きそうな顔をして私を見つめている。


(だから、泣きたいのは私だよ……ひぃくん)


 ひぃくんの言葉で、あらぬ誤解を受けたであろう私。何で普通に話せないんだろう。やっぱり、ひぃくんはちょっと変。
 ガクガクと揺れる頭で、そんな事を考える。


「──スパって何?」


 私達の会話を黙って聞いていたお兄ちゃんは、ひぃくんの腕を引っ張るとそう尋ねた。


「さっき廊下で話してたんだよ……男の子と。……ねぇ、花音の初めては俺に捧げてくれるでしょ?」


 お兄ちゃんの方をチラリと見たひぃくんは、再び私に視線を向けるとそう告げる。
 さっきの発言からすると、初めてスパに行くのはひぃくんと一緒に。って意味なんだろうけど……。


(何でそんな変な言い回しをするの? ……わざとなの?)


 目の前で瞳を潤ませているひぃくんを見て、思わず溜息が出る。


「それは無理だよ、ひぃくん。もう約束しちゃったもん」


 そう答えれば、瞳を大きく見開いて固まってしまったひぃくん。


「花音。男と一緒に行くのか?」

「えっ? あ……、うん。何人かで行くんだよ」


 お兄ちゃんからの質問に、チラリと横目でひぃくんを確認しながらもそう答える。


(ひぃくん、大丈夫かな……?)


 ピクリとも動かなくなってしまったひぃくん。
 そんなひぃくんのことを少し心配しながらも、お兄ちゃんの方へと顔を向ける。


「ダメ」

「へっ……?」

「危ないから、行ったらダメ」


 素っ頓狂な声を出した私に、再度ダメだと告げたお兄ちゃん。驚いた私は、一瞬固まってお兄ちゃんを見つめる。
 すると突然、固まったまま動かなかったひぃくんが大声を出した。


「花音っ!!」



 ────!?



 ひぃくんに抱きつかれて、ゆっくりと後ろへ向かって倒れてゆく私の身体──。
 気が付くと、私はひぃくんに押し倒されていた。


「花音……っ。花音……っ」


 私を抱きしめたまま、胸元でスリスリと顔を動かしながら涙を流すひぃくん。突然の出来事に、そのまま呆然とする私。
 ゆっくりと視線を下げてみると、そこに見えてきたのはひぃくんのつむじ。その更に下の方へと視線を向けると、私の胸元で泣いているひぃくんがいる。


(私の胸元で……。胸……、元……)


「っ……いやぁーーっっ!!!」


 突然の叫び声で、驚きに身を固めていたお兄ちゃんが慌てて動き始める。
 お兄ちゃんが私から引き離そうとしても、中々離れてくれないひぃくん。そんなひぃくんの姿を眺めながら、私は一人呆然と考えていた。


(そんな事で泣かないでよ……。ひぃくん、鼻水が垂れてるよ。あぁ……っ、私の制服にひぃくんの鼻水が……)


 何だか急に阿呆らしく思えてきた私は、その場をお兄ちゃんに任せて身体から力を抜くと、ただジッと目の前の光景を眺め続けた。


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登場人物紹介

♡結城 花音♡(ゆうき かのん)


身長150cm  高校一年生



✨性格✨

良く言えば天真爛漫で純粋な性格だが、悪く言ってしまえば無鉄砲で自分勝手なところがある……と、お兄ちゃんが言っていた事は本人にはヒミツ。

基本的には、単純なおバカさん。



✨好き✨

食べる事!



✨嫌い✨

勉強(꒦ິ⌑꒦ີ)




♡榎本 響♡(えのもと ひびき)



身長178cm  高校三年生



✨性格✨

常に成績はトップクラスで頭の回転はすこぶる早いが、変わり者故その思考回路は斜め上をゆく。

頭の中にあるのは常に花音のことばかり。

もはや彼の瞳には花音しか見えていない模様。



✨好き✨

花音♡



✨嫌い✨

花音をいじめる人



♡結城 翔♡(ゆうき かける)



身長180cm  高校三年生



✨性格✨

頭脳明晰で冷静沈着。

年齢よりも年上に見えるほどの落ち着きがあるが、それは本人曰く、「あんな頭のおかしい幼なじみと危なっかしい妹がいたら、俺がしっかりするしかないだろ」との事。

そんな冷静な彼を慌てさせる事ができるのは、血の繋がった妹である花音とお隣に住む変人幼なじみの響ぐらいなのかもしれない……。



✨好き✨

家事

……それと、可愛い妹



✨嫌い✨

花音に近づく男ども



♡望月 彩奈♡(もちづき あやな)



身長160cm  高校一年生



✨性格✨

一見するとクールで塩対応だが、とても優しい女の子。

小学生の頃からの幼なじみである花音の事は、親友であるのと同時に可愛い妹のようにも思っている。



✨好き✨

……///



✨嫌い✨

しつこい男



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