第2幕

文字数 1,314文字




 だが、老いて尚、血気盛んだった先代とは違い、レグルス王は元々、帝王学には然程関心を持てずにいた。

 どちらかと言うと、芸術家気質の人間で、風が穏やかな日に、花盛りの藤棚の下で、小振りの弦楽器を爪弾く、ゆったりとした時間を、こよなく愛していた。

 そんな中で突然巻き起こった、当主交代劇だったのである。

 そういった曰(いわ)く付きの経緯があるだけに、激しい嵐が吹き荒れる度、レグルス王は、ランドラン王国の守護神であるファタリスファから、厳しく責め苛(さいな)まれている気がしてならなかった。

 お前には本当に、ランドラン王国を統治していく覚悟が出来ているのか、と。

 そんな折、離宮に住まわせている愛妾(あいしょう)のラウレリアを訪ねたところ、実に興味深い話を耳にした。

 ランドラン王国は、ディアモーガン大陸の中では、一、二を争う大国として名を馳せていたが、栄光を分け合うもう一つの大国であるムスタファ王国とは、面白い相関関係を成していた。

 国境線の輪郭を辿っていくと、ランドラン王国の場合、髪の毛を上品に結い上げた貴婦人の横顔が出来上がる。

 そしてムスタファ王国は、その貴婦人の首筋と、撫で肩の両肩として、国境線をなぞらえることが出来た。

 しかし、完全なる隣国とはならないところが、これまた面白いところで、その理由は、貴婦人の首元にあった。

 その首元には、豪奢な宝石を連ねたような首飾りを、巻き付けているように見える地帯が存在した。

 それがセタ王国である。

 セタ王国の国土は、ランドラン王国に比べると、ほんの三十分の一程度に過ぎない。

 それでも、セタ王国でのみ産出される品種の、穀類や花があった。

 そして、その土地で育てられた飼育用の鳥類は、華麗にさえずると評判で、同じように、その土地で造られた楽器を奏でれば、天上の音楽のように美しく響き渡ると言われていた。

 そのようにして、セタ王国は、国土こそ小さいが、美しく珍しい物にふんだんに恵まれている土地柄だった。

 それ故、近隣諸国からは、一目置かれる存在であり、また、ディアモーガン大陸の貴婦人の首飾りとの、異名を取る所以(ゆえん)ともなっていた。

 しかし、その反面、閉鎖的な色合いが強いことでも知られており、新たに住人になるためには、かなり厳しい審査を通過するか、または、セタ王国の古くからの住人の、血縁関係に当たる場合に限られていた。

 そんな秘宝とも言えるセタ王国にまつわる噂話を、ラウレリアがスークに買い物に出掛けた際、銀細工を商う露店商から仕入れてきたのだった。

 片目が不自由なその露店商は、過去にセタ王国で数年間暮らしていたことがあり、外部には滅多に漏れ聞こえてこないような、重要な情報を握っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第3幕へと続く ・・・


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