第1幕
文字数 1,205文字
風は、世界を統べる。
何となれば、風を味方に付けることが出来れば、他の元素に関しても、自由自在に操ることが出来るからだ。
例えば、火。
火は、それ独自でもうごめき、うねり、広がりを見せるが、そこに風が加わった時の動きようと言ったら、まるで朱金色の龍が、縦横無尽に踊り狂うかのようだ。
そして、土。
土に至っては、自ら動こうとする素振りすら見せない。
けれども、そんな出不精な土すらも、猛(たけ)り狂った風は掘り起こし、竜巻という名の猛威を振るう籠(かご)の中に閉じ込めて、遥か遠くへと運び去ってしまう。
それから水は、言うに及ばず。
まるで赤子の手を捻(ひね)るように、自在に操られるのが目に見えている。
さて、これらの火、土、水、風。
それぞれの特性を持つ軍隊を率いる、四人の将軍が揃ったところで、有能な軍帥(ぐんすい)の立場にいる人間だったら、唯一無二の国土を守護する警備隊には、一体どの軍を使いたいと思うだろうか?
レグルス王は、軍帥の立場にいる人間ではないものの、一国一城を預かる当主として生まれついていた。
そうして、風の力を掌中に収めたいと望んでいた。
何となれば、レグルス王の御代(みよ)になってからこの方、国内には時折、激しい嵐が吹き荒れ、その度に、農作物が被害を受けていたからだ。
これこそが、風が敵側に回ると、恐怖の大王と化してしまう、格好の事例と言えるだろう。
ところで、レグルス王の先代は、突然原因不明の疾患に罹(かか)り、一月ほど悶え苦しんだ挙句、呆気ないほどの急死を遂げていた。
そんな不慮の事態に見舞われたものだから、急遽(きゅうきょ)嫡男(ちゃくなん)であるレグルス王が、即位することと相成った。
それが二年ほど前のことだ。
本来であれば、王子が正式に即位するまでには、様々な準備段階を必要とするものだ。
その充分に確保された時間の中で、国を統治していくという自覚が、少しずつ芽生えていく。
そうして、それに付随して、責任感や覚悟等が、徐々に育まれていくものなのである。
ところが、レグルス王の場合、先代が頑健で、人民を希望に満ちた未来へと統率していくことに、並々ならぬ使命感を燃やしていた。
いずれは後進に道を譲ることになるにせよ、それは当分先のことになるだろうと、誰もが悠然と構えていたのだ。
そんな背景も手伝って、レグルス王に、統治者としての自覚の芽生えを遅らせていたところも、あったに違いない。
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・・・ 第2幕へと続く ・・・
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