第5幕
文字数 1,357文字
現在生存している風使いの性別が、どうやら男であるらしいと知った時、ラウレリアの腹は、ほぼ決まったも同然だった。
もしその情報が真実であるならば、自分が直接セタ王国へと出向いて、その男の子種を、身に引き受けてくるしかあるまい、と。
そうして、風使いの血筋を受け継いだ子供を産み、育ててみようと思い付いたのだった。
そうすれば、ゆくゆくは、その子供の特異な力を持ってして、ランドラン王国に吹き荒れる嵐の勢いを、食い止めることが出来るようになるかも知れない。
我ながら、それはかなり突拍子もない思い付きに思えた。
けれど、並々ならぬ恩義を感じているレグルス王が、これ以上苦悩する様子を、傍で見守っているのは辛かった。
それがどんなに無謀な策に見えようとも、何も出来ずに手を拱(こまね)いているよりは、どんなに気が楽になるか知れない。
ラウレリアは元々、その時に自分が出来ることを見付けては、それに向かって動いている方が、気が休まるタイプだった。
これはレグルス王には話していないことだが、彼女が時折スークへと出掛けていくのは、買い物が目的ではなかった。
家を持たずに路上で生活している人々や、病気がちで、思うように身体を動かせない者達の世話をするのが目的だった。
ラウレリア自身、随分と長い間、流しの大道芸人達の集団の中で、不安定な暮らしを強いられていたために、似たような境遇にいる人々の役に立ちたいという思いが強かった。
件の片目の不自由な銀細工の露店商を助けたのも、そういった流れからだった。
単純に、ただそれだけだったのに、全人類の救世主ででもあるかのように感謝され、そのことがきっかけとなり、セタ王国にまつわる貴重な情報を、伝え聞くことになったのだった。
ラウレリアが大道芸人達の集団に属していた頃は、その身体の柔軟性を生かして、小さい箱の中にすっぽりと隠れるという芸当を披露していた。
生まれつき備わっていた身体の柔軟性に加え、それを磨くための鍛練を、日々怠らなかった。
それが奇跡に祝福された出逢いによって、レグルス王の愛妾となってからは、流石に日々の鍛練からは遠ざかっていた。
それでも、気配や足音を消して、シャム猫のようにしなやかに移動していく術や、高い場所でもものともせずに、敏捷に伝い登っていく身のこなしなどは、今でも健在だった。
風使いが潜んでいる場所は、恐らく王宮の敷地内にある塔の中の何処かだろうというのが、銀細工の露店商の見解だった。
それが物見の塔としての役割を担っているのなら、一番最初に探りを入れるべきなのはそこだろうと、ラウレリアも考えた。
セタ王国随一の重要人物である風使いは、物見の塔の天辺にある小部屋に厳重に匿(かくま)われ、そこから国内の様子を逐一観察し、風の勢いを調整しているのだろうと思われた。
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・・・ 第6幕へと続く ・・・
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