第11幕
文字数 1,108文字
セタ王国から無事に戻ってきてからというもの、ラウレリアは、美しい夕陽がやけに胸に迫るように感じられ、その度に、涙が溢れて仕方がなくなるのだった。
帰国後に、レグルス王と再会の時間を持った時、彼がラウレリアの顔を見た途端、安堵で表情を緩ませたのが感じ取れた。
そして、無事に戻って来たのならそれで良い、というような、寛容な言葉を贈ってくれた。
ところが、ラウレリアの口から、風使いの血筋の子種を引き受けてきたので、上手く授かった場合、その子供を産み、育てたいと聞かされると、流石に顔色を変えた。
レグルス王の立場からすれば、それは裏切りに見える行為なのだろう。
ラウレリアとしても、離縁を言い渡される覚悟で挑んだことだった。
しかし、レグルス王は、ラウレリアを労(いたわ)るように優しく抱き寄せると、耳許で、こう囁いた。
ランドラン王国の重荷を、そなたにまで背負わせることになってしまって、本当に済まない、と。
それから幾月かが過ぎ去り、今、ラウレリアの子宮の中では、新しい生命が順調に発育を続けている。
王宮お抱えの薬草師の見立てでは、双子が産まれる可能性が高いとのことだった。
いよいよ産み月を間近に控えたラウレリアの胸元には、大粒のペンダントが飾られている。
それは、六角柱のローズクォーツに、銀の鎖を繋げてある物だった。
その淡い薔薇色の石を、陽光の中で透かし見ると、内部には、小さな虹が宿っているのが見える。
そのペンダントは、塔の中での別れ際、フェラールから譲り受けた物だった。
玉のような子を授かるようにとの願いが込められた石で、風使いの子供を産むように定められた女性に、代々受け継がれてきた宝珠のようだった。
満月の如く大きく迫り出した腹の中で、赤子がむずかるように暴れ回ることがある。
そんな時、ラウレリアは、首からペンダントを外して、六角柱のローズクォーツを、腹の上にぴたりと当てる。
すると、その柔らかな波動を感じ取るのか、赤子はやがて、見事に落ち着きを取り戻すのだった。
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セタ王国と並んで、ランドラン王国が、美しい風の吹く場所だと称えられるようになったのは、それから五年後のことである。
・・・風、美し王国 ここに完結・・・
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