第9話 離婚、ダメ。絶対!

文字数 1,680文字

 フィリピンには離婚という制度がありません。そのため、離婚届というものがありません。国民の8割が信者であるといわれているカトリックでは、離婚が認められていないからです。
 とはいうものの、仕事などで海外に移住し、離婚が認められている国の人と結婚するフィリピン人が増えました。日本も、離婚が認められている国のひとつです。日本人と離婚が成立したフィリピン人は、その離婚をフィリピンの裁判所に認めてもらう必要があります。日本人との離婚は日本で認められただけ、だからです。
 フィリピンの裁判所で、日本人との離婚が認められれば、フィリピン人は再婚する資格が得られます。裁判手続きの為にフィリピンと日本を往復しなければならないこと、弁護士費用も裁判に要する日数もかかることから、裁判に消極的な人が多いのが実情です。

「ご相談なんですけどね」
 フィリピンでの離婚手続きについて、電話で問い合わせした日本人男性。声は大変落ち着いていました。
 私は、フィリピンには離婚という制度がないこと、離婚が認められている国の配偶者と離婚が成立した場合は、フィリピンの裁判所で「外国離婚の承認裁判」を行わなければならないことを説明しました。
 この説明をすると、ほとんどの日本人男性は怒ります。
「日本で離婚が成立したのに、フィリピンで裁判っておかしいだろ! 何考えてんだ!」
 しかし、この男性は、違ってました。口調を変えることなく、こう言ったのです。
「それで、フィリピンで離婚できないようにするには、どうしたらいいのでしょうか?」

 (゜_゜) はへ?

 男性によると、フィリピン人妻は日本の永住ビザを取得した途端に、男性に対する態度が冷たくなりました。そして、ある日、突然、男性の許可なく市役所に離婚届を提出してしまったそうです。
「今、弁護士を通して離婚無効の裁判を起こしているところですよ。でも、その判決が出る前に、妻がフィリピンで、その、外国離婚の裁判を起こす可能性があるわけです。知り合いに聞いた話ですが、日本で離婚が成立していたら、向こう(フィリピンの裁判所)は、離婚を認めるっていうじゃありませんか」
 奥様と離婚したくないと、何度も繰り返す男性。理由は言わないのですが、奥様に未練があるとみた……。
「あなた、さっき、フィリピンには離婚がないと、おっしゃいましたね?」
 突然、男性が、私に質問しました。
「フィリピンには、離婚という制度がありません。カトリック教徒が多く、宗教上、離婚は認められないからです。国際結婚が一般的となっている現在、宗教の違う外国人と結婚されているフィリピンの方もいらっしゃいます。配偶者の国で認められた離婚をフィリピンの裁判所で認めてもらうことで、フィリピンでは離婚とみなしているだけです」
 私は、自分の持ち合わせた知識を使い、できる限り詳しく、男性に話しました。
「なるほど。ということは、フィリピン人同士だと、離婚できないってことだよね?」

 (゜_゜) ほへ?

 男性の言わんとしていることがわからず、ポカンとしてしまいました。
 男性は、声を弾ませながら言いました。
「私がフィリピン人になれば、妻は私と離婚できないね?」

 え? ええっ? えええっ??
 どっひゃ~! (ノ゜O゜)ノ

 男性に、フィリピン人同士でも婚姻無効の裁判を行い、フィリピンの裁判所が認めれば、婚姻が解消、つまり離婚ができることを説明しました。
「はいはい」
 自分のアイデアに酔いしれていた男性は、生返事で電話を切りました。

 男性がフィリピン国籍を取得する手続きを行っている間、奥様がフィリピンで、男性抜きに日本で成立した離婚の認知裁判を終えてしまうかもしれません。フィリピン人になる手続きなんてしないで、奥様が進めているフィリピンの離婚認知裁判に出て、「日本でも離婚無効の裁判を起こした。妻と離婚する意思がない」と、堂々と主張すればいいと思うのですが……。

 奥様の心は、すでに男性から離れているなと感じました。
 男性がどんな手段を講じても、奥様とヨリを戻すのは難しいと思うのは、私だけでしょうか?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み