7、人生で1番長い1日(1)

文字数 1,016文字

 大晦日の翌日は元旦である。初日の出は見ていない。大学生の頃に山小屋でアルバイトした時は日の出の美しさに感動したが、それは山の頂上付近の山小屋にいたからこそ見ることができた光景であった。ネパールの山のホテルは標高は高い場所にあるけど人が住んでいる村である。周りをぐるっと高い山に囲まれているので、明るくなっていてもまだ太陽は見えない。日本の海岸で見るようなはっきりとした初日の出はここでは見られない。

 食堂で朝食を食べる。カトマンズとかのホテルならきっとお正月は特別メニューが出るのかもしれないけど、山の中のホテルだから日本食は無理である。パンと卵焼き、ポテトフライなどの朝食を食べた。食事の時に少し離れた場所で日本からのツアーリーダーと2人のガイドが地図を広げて話をしていた。日本人のツアーリーダーは日本語、20代のガイドは英語、40代のガイドが日本語と英語を半々くらいでしゃべっていた。今日は前にもらった日程表では7時間歩くと書いてあったが、健脚でない私達はもっとかかるに違いない。20代のガイドが、ハードとかロング・ウェイなどの単語を口にしていた。まあエクスプレストレッキングという名前なのだからハードなのはしかたがないだろう。

 20代のガイドを先頭に歩き始めた。今日の彼は「ゆっくり、ゆっくり」という言葉を口にしない。ゆっくりなどと言ったら本当にゆっくり歩いて到着できなくなるとあせったのだろう。私達が少しでも遅れるとすぐに後ろを振り向いて
「Quickly, quickly」
と言ってくる。
「We must walk quickly」
この言葉を彼は何度言っただろうか。今日はもう反論する気力もない。とにかく速く歩いて差が出ないようにしなければならない。『ヒマラヤ・エクスプレストレッキング』は普通なら2週間以上かけて行くコースを全部で8日間、特急電車のように止まる場所を少なくして猛スピードで駆け抜ける健脚向けのツアーであった。
「トレッキングはネパールの人が普通に生活している道を通るから日本の山登りよりも楽だと思うよ」
私はそう言って友達をツアーに誘っていた。そして歩いている道は確かに時々村が出てきた。ネパールの人が普通に生活に使っている道は上り下りが激しい。ここで生活していたら健脚にもなるだろう。
「Quickly, quickly!」
先頭を歩くガイドは息切れもせず、猛スピードで歩いては、時々振り返って戻ってきていた、

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