8、人生で1番長い1日(2)

文字数 984文字

 昨日は大晦日で今日は元日、年は変わったけど周りの景色はさほど変わらない。昨日トレッキングを始めた時は雪をかぶったヒマラヤの山々が見えることに感激したが、2日続くと見慣れてしまった。先頭を歩くガイドはもう「ゆっくり、ゆっくり」とは言わない。その意味を充分分かっているから、誰も何も言わずに黙々と歩いた。トレッキングで歩くところはいくつもの村がある。上り下りの激しい道を歩いて行くのだが、ここに暮らす人にとっては生活の道である。村の中を歩けば畑があり、たくさんのニワトリが歩いていた。自給自足の昔ながらの生活がそこにはある。

 いくつかの村を通り過ぎ、お腹がすいてきた頃に昼食を食べることになった。小さな村でも必ずトレッキングの客が泊まるための小さなホテルと食堂がある。食堂に入って荷物をおろし、英語のメニューを見た。
「あるものはどこもだいたい同じだね。ダルバート、チキンカレー、スプリングロール、ヤキソバ、フライドポテト・・・」
「あ、ここはフライドチキンもある」
「フライドチキンてまさか・・・」
別の村で歩いていたフライドチキンではなくてニワトリの姿が思い浮かんだ。もしここで私達がフライドチキンを注文すればこの村にいる1羽のニワトリが犠牲になる。
「山で食べるフライドチキンがどんな味なのか気になる」
「でも注文すると歩いているニワトリ1羽が犠牲になる」
散々迷った末、フライドチキンなどを注文することはやめ、ベジタリアンの料理を注文した。

 注文を聞いた食堂の店員はキッチンではなくドアを開けて外に行った。キッチンにも2人くらい人がいるのだが、ガイドと話などしていて料理を作り始める気配はない。日本のレストランならとっくに注文した料理が出て食べ終わるくらいの時間になって、店員が戻って来た。手には大きなカゴを抱えている。
「まさか、今まで食材を採りに行っていて、これから料理を始めるの?」
「信じられない・・・」

 かなり待たされて空腹の限界になった頃、ようやく目の前のテーブルに料理が並べられた。豆のカレーとご飯、野菜の炒め物のダルバート、フライドポテト、ヤキソバ、スプリングロールなどである。畑から採ったばかりの野菜と庭を歩いているニワトリの卵を使った料理は空腹もあってかなり美味しかった。お腹いっぱい食べてそこで休憩できれば幸せだが、その日はまだまだ歩かなければならなかった。

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