6、ネパールで食べる年越しそば

文字数 906文字

 ネパールに来て2日目の夜は大晦日だった。カトマンズのホテルの豪華な朝食に感激したり、ポカラの空港でたくさんの山羊を見たり、トレッキングで「ゆっくり、ゆっくり」と言いながら先頭を歩くガイドはものすごく早かったり、日程表に書いてあった1日の歩行時間はものすごい健脚の人を想定して書いていたということがわかったり、山のホテルで本格的なネパール料理を食べたり、いろいろな体験をしたから年末だということをすっかり忘れていた。でも友人が年越しそばとして小さなカップ麺を持ってきてくれたので、みんなで食べることにした。

 カップ麺にお湯を入れて食堂のテーブルに並べ、割りばしも出してガイドの2人にも配った。40代のガイドの人はきっと前にも日本人観光客を案内してこのような場面も体験していたのだろう。慣れた手つきでカップ麺のそばを食べていた。だが、20代の人は割りばしを持ったままカップ麺を睨んでいて、なかなか食べようとしない。
「What is this?」
「This is soba. In Japan eat soba noodles on New Year's Eve 」
「Soba is OK. But I don't like shrimp」
 確かにカップ麺には乾燥したかき揚げが乗っていて、エビも入っている。でもそれはとても小さなものだが、においで何か得体のしれないものと気づいてしまったのだろう。
「I never eat shrimp!」
カップ麺のかき揚げくらいでネバーを使わなくてもいいのにと思ったが、彼は真顔である。
「OK. You don't have to eat shrimp 」
 そう答えたら、彼はやっと安心して食べ始めた。英語での会話は聞き返したり単語を思い出したりするからスラスラとしゃべれるわけではない。それでも年越しそばを食べて大晦日であることを実感した。彼は小さなかき揚げは食べる前にしっかりつまみ出していた。

 夜、満天の星空を見た。灯りの少ない山の村では信じられないほどたくさんの星が見えた。明日もきっといい天気でよいお正月になるだろう、とその時は思っていた。
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