11、エクスプレスから各駅停車に

文字数 991文字

 翌朝になると雨は止み、よく晴れた良い天気になった。前の日に到着した時は暗くなって雨も降っていたので周りの景色は何もわからなかったが、高台の開けた場所にある村に来ていた。食堂での朝食は注文してから裏の畑に野菜を取りに行き、鶏の卵も取ってきているようだった。素朴な味のパンやスープ、卵焼きなどを味わって食べた。

 歩く順番は前日と変わらず20代のガイドが先頭だったが、今日の彼はゆっくり歩いていた。いや、いつも早く歩くのに慣れているからゆっくり歩くということはできないのかもしれない。それでも私達との間に距離ができると、途中で待っていてくれた。そして笑顔で
「ゆっくり、ゆっくり」
と言う。昨日の会議で目的地を変えて歩く距離を大幅に縮めたから余裕が出てきたのだろう。本心でゆっくりと言っていた。昨日までの2日間、ツアーとしてはエクスプレスなのにメンバーは鈍行、彼はどうやって歩いたらいいか悩んだに違いない。それは日本人のツアーリーダーも同じだったに違いない。山の雑誌で募集したのだから健脚ばかり集まると予想したのにそうでもないメンバー、いつもならネパール人ガイドも日本語がある程度話せるのに今回は全く話せない、予想外のことばかりなのにガイドと意志の疎通ができないから随分悩んだに違いない。それでもコースを変えることに決まってほっとしたのだろう。昨日の険しい表情とはうって変わって笑顔が戻っていた。

 本来のヒマラヤトレッキングはきっとこうであろう。山を見ながらゆっくりゆっくり歩き、景色のいいところで止まってお茶を飲む、コックなどが同行する大人数のツアーなら先に行ったスタッフがお茶を用意して待ってくれるのだが、そうではないので村の食堂に入ってお茶を楽しむ。ネパールのお茶はスパイスの香りがする甘いミルクティーである。私はミルクティーは好きではなかったが、ネパールの山の中を歩いて飲みたくなるのはやっぱりチャイと呼ばれる甘いミルクティーであった。チャイを飲んでたっぷり休憩してまた歩き始める。エクスプレスから各駅停車に変わったので本当に楽になった。村では鶏の鳴き声や犬の吠える声が聞こえる。そしてまた山道を歩き始める。昨日は雨が降る中暗くなり、いつまで続くのかと恨めしい気持ちで歩いていたが、今日は晴れて明るい光の中、休憩もたっぷり取っているから、このままいつまでも歩き続けたいと思っていた。

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