4、「We must go down×3and up×3」

文字数 972文字

 『ヒマラヤ・エクスプレストレッキング』の日程表には、2日目はポカラから3~4時間歩いた村に泊まると書いてあった。もうとっくに4時間以上歩いている。いくつか小さい村を通り過ぎ、そのたびに今日泊まるのはこの村ではないと言われた。見通しのいい場所まで来て、ガイドが遠くを指さした。
「Please look at that village」
「Yes」
「Today we stay the village」
言われた村はかなり遠い。そして今いる場所と標高は同じくらいだが、そこに行く道が見えない。
「Where is the road?」
「No road, only mountain path」
車が通るような道路はなく、山道だけと言いたいのだろう。
「Where is the mountain path from here to that village?」
「We must go the path down down down and up up up to the village」
「私達はあの村に行くために、山道を下がって下がって下がって、登って登って登らなければならない」
思わず日本語で繰り返してしまった。
「You can't speak English」
「No!」
英語がわからないわけではない。ただ日程表では今日歩くのは3~4時間と書いてあったのに、今から谷まで下りてまた登らなければならないというのが信じられないだけだった。急いで後ろを歩いている日本人のツアーリーダーの人の所まで戻って確かめた。




「あの、先頭を歩いているガイドの人が今日泊まる村は谷を越えた向こうにあると言っているのですけど・・・」
「ああ、そうだけど」
「でも日程表には3~4時間程度と書いてありました」
「ああ、それね。計画を考えたうちの山岳会のリーダーが、エクスプレストレッキングだからそれぐらい速く歩ける人ばかり集まるだろうと・・・」
「・・・・・」
エクスプレストレッキングの意味をここでようやく理解した。つまりこのツアーは健脚の人ばかり集めてガンガン歩く予定のツアーだったらしい。3人の友人が疲れた顔をしている。このツアーがいいと誘ったのは私だった。
「今日泊まる村はまだ先の方だけど、大丈夫。まだまだ明るいし天気もいいから」
友人達の前では明るく振る舞うことにした。
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