3、「ゆっくりゆっくり」は「速く速く」という意味ではない

文字数 950文字

 ポカラの空港でネパール人ガイド2人と会い、トレッキングが始まった。普通ヒマラヤトレッキングはネパール人のガイド以外にコックやキッチンボーイ(調理の下働き)ポーター(テントや食材などの荷物運び)など多くのスタッフが一緒の大部隊になると聞いていたが、今回私達が参加した『ヒマラヤ・エクスプレストレッキング』はテントではなく行く先々のホテルに泊まるのでネパール人ガイドが2人だけという小さなグループであった。

 最初にポカラのレストランに入った。今回ツアーの途中での食事も全部料金に含まれていたから、自分でお金を払うことは殆どなかった。外国人観光客向けのきれいなレストランである。日本人のツアーリーダーはネパール人ガイドにも一緒に食べようと誘っていたが、彼等は外で待っていた。その時何を食べたかは全く覚えていない。

 山道に入ると、20代の若いガイドを先頭に、私達女子4人、ツアー参加者の男性2人、日本人のツアーリーダー、40代のガイドという順番で歩き始めた。その日は天気も良く、のどかなネパールの村から真っ白なヒマラヤ山脈がよく見えた。ネパールに来たということを実感する。だが、20代の若いガイドは足が速過ぎて、ついていくのが難しい。そして振り返っては、ただ1つ知っている日本語「ゆっくり、ゆっくり」を繰り返す。「ゆっくり、ゆっくり」と言いながら、本人はちっともゆっくり歩いてくれない。
「Please walk slowly」
「OK、ゆっくり、ゆっくり」
そう言っても全然ゆっくり歩いてなどくれなくて、差はどんどん広がるばかりである。
「You walk quickly」
「Thank you」
いや、別に足が速いと褒めたつもりはない。ただもう少しゆっくり歩いて欲しかった。大学生の時はワンダーフォーゲル部でかなり山を歩いていたが、卒業して数年、山に登ることはほとんどなかった。それに比べてネパール人ガイドの彼らはそれが仕事だから歩くのは速くて当たり前である。
「I can speak English well. Do you understand English?」
「Of course!」
ネパール人ガイドの彼らも、日本人の私達も英語はかなりしゃべれるはずである。それなのにうまく伝わらないもどかしさを感じた。
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