第19話(4) チャンネル登録よろしく哀愁
文字数 2,378文字
「直接佐渡へ向かおうかと思ったが、一応来てみて正解だったようだな……」
御剣が甲板に刺さった刀を抜く。勇次が尋ねる。
「隊長、これはどういうことですか?」
「た、隊長⁉」
「まさか……」
勇次の質問に黒髪の女の子は驚き、白髪の女の子は首を捻る。刀を鞘に納めた御剣は振り返って勇次を指し示す。
「そうだ、この男は鬼ヶ島勇次、数ヶ月前に入隊したばかりの新人隊員だ」
「よ、妖力を感じますけど⁉」
「当然だ、鬼の半妖だからな」
「は、半妖⁉」
「そうだ。両親や祖父母も至って普通の人間だが、血筋に関係なく妖力の高い半妖として生まれた男だ。そう珍しいことでは無い」
「聞いたことがあります。確率としては……百人に一人位だと」」
白髪の女の子が冷静に呟く。御剣はあらためて勇次を指し示す。
「この男は“そう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖”だ」
「や、ややこしいな!」
「いやあ~照れるな」
「全然照れるところじゃないでしょう……」
黒髪の女の子の反応に勇次は鼻の頭をこする。愛が呆れる。御剣が愛を指し示す。
「彼女は曲江愛だ。神社の家系故に神力が高く、形代を使った術に長けている。貴重な治癒要員でもある。隊への入隊時期は……貴様らと近いな」
「そうなのですか……」
「あの……? 隊長、彼女たちは?」
愛が御剣に問う。御剣が二人を指し示す。
「この二人も我が上杉山隊の隊員だ。見ての通り双子の姉妹で、黒い髪が姉の豊園寺哀 、白い髪が妹の豊園寺愁 だ」
「哀さんと愁さん……」
「覚えづらかったら『哀愁コンビ』とでも呼べばいい」
「うおい! 隊長! その雑なくくりやめて下さいよ!」
「……むしろ『哀愁ツインズ』です」
「いや、愁もそこは否定しろよ!」
愁に対し、哀が突っ込みを入れる。愛が重ねて尋ねる。
「私と入隊時期が近いとのことですが……?」
「そうだな。正確な日時は忘れたが」
「全くの初対面なのですが……」
「この姉妹には、主に別働隊として動いてもらっていた」
「別働隊?」
「ああ、この佐渡を中心にな。知っているかもしれんが、転移鏡というのは、海を隔てると移動障害が発生する場合もある。そうなると、佐渡に緊急出動するのが難しい。よって、この姉妹に担当してもらっている。もちろん、他の地域に出動してもらうこともあるが」
「そうだったのですか……ですが、初対面という理由にはあまりならないような……」
「この姉妹は戦闘能力も高いが、より優れているのは諜報活動だ」
「諜報活動?」
「ああ、よって隊の中でもその存在は出来る限り秘密にしておきたかった……」
「なるほど、野球でいう『隠し球』ってやつですね!」
勇次が手を打つ。御剣が一呼吸置いて話を続ける。
「何故野球で例えるか分からんが……いうならば『切り札』だな」
「……実際は?」
「ん?」
「実際のところはどうなのですか?」
愛が目を細めながら尋ねる。御剣が言いづらそうに答える。
「……紹介するのをすっかり忘れていた」
「やっぱり……そんなことだろうと思った……」
「まあいいだろう。こうして会えたのだから」
「よくないです。交戦状態になったんですよ?」
「その辺はよい演習になったと前向きに捉えてくれ」
「前向き過ぎますよ……」
「っていうか、待って下さいよ、隊長!」
「どうした哀?」
「うちら別働隊だったんですか⁉」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ!」
哀が声を上げる。愁が淡々と呟く。
「道理で……活動範囲も狭く、隊長との交信も頻繁ではなかった点が気になってはいたのですが……そういうことでしたか。納得がいきました」
「納得するなよ、愁!」
「……まだお前らは若い。体力的な問題もあるから、そこまで大変な任務は任せたくなかったのだ。その分、諜報活動という面では大いによくやってくれている。そのことについては感謝している」
「勿体ないお言葉です……ありがとうございます」
「なんか言いくるめられているような……」
「哀……」
首を傾げる哀に対し、愁が鋭い視線を送る。哀が頭を下げる。
「はいはい! お褒めにあずかり光栄です!」
「諜報活動というのはどんなことを?」
「ここではなんだ、もうすぐフェリーが着く。哀たちが使っている隊舎で話そう」
御剣の言葉に愛が頷く。フェリーが佐渡ヶ島に到着後、狭世にある隊舎に移動する。
「……改めまして、我が隊舎にようこそいらっしゃいました」
愁が丁寧に頭を下げる。
「俺らの隊舎より小さいな……痛っ⁉」
「余計なことは言わない……」
勇次の足を愛がぎゅっと踏む。愁が尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません。隊長、それでお二人の具体的な活動なのですが……」
「諜報活動がメインだが……他はよく知らんな」
「は?」
「二人の自主性を重んじている。よって、あれこれとうるさく指示は出していない」
「……面倒だからじゃないですか?」
「……そういう部分があることも若干否めないな」
「はあ……」
御剣の返答に対し、愛が露骨にため息をつく。御剣が哀たちに話しかける。
「今回聞こうと思ったのだが……愁、普段はどのような活動を行っているのだ?」
「そうですね……妖絶士というのは言ってみれば日陰の存在ですよね?」
「まあ、言ってしまえばそうだな……」
「なので目立つようなことは極力避けています」
「良い心掛けだ。それで?」
「口で言うよりも見てもらった方が早いと思います。哀、準備を……少々お待ち下さい」
二人は手際よく準備を進め、カメラに向かって話し出す。
「どうも~哀で~す!」
「愁です……」
「今日も生配信始めて行くよ~。おお! 武原さん、早速スパチャありがと~」
愁がマイクに声が入らないように御剣たちに語りかける。
「暇な……もとい待機時間を有効活用しようとこのように配信などをしております」
「思いっきり目立っている⁉ チャンネル登録者数……百万人越え⁉」
愛が愕然とする。
御剣が甲板に刺さった刀を抜く。勇次が尋ねる。
「隊長、これはどういうことですか?」
「た、隊長⁉」
「まさか……」
勇次の質問に黒髪の女の子は驚き、白髪の女の子は首を捻る。刀を鞘に納めた御剣は振り返って勇次を指し示す。
「そうだ、この男は鬼ヶ島勇次、数ヶ月前に入隊したばかりの新人隊員だ」
「よ、妖力を感じますけど⁉」
「当然だ、鬼の半妖だからな」
「は、半妖⁉」
「そうだ。両親や祖父母も至って普通の人間だが、血筋に関係なく妖力の高い半妖として生まれた男だ。そう珍しいことでは無い」
「聞いたことがあります。確率としては……百人に一人位だと」」
白髪の女の子が冷静に呟く。御剣はあらためて勇次を指し示す。
「この男は“そう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖”だ」
「や、ややこしいな!」
「いやあ~照れるな」
「全然照れるところじゃないでしょう……」
黒髪の女の子の反応に勇次は鼻の頭をこする。愛が呆れる。御剣が愛を指し示す。
「彼女は曲江愛だ。神社の家系故に神力が高く、形代を使った術に長けている。貴重な治癒要員でもある。隊への入隊時期は……貴様らと近いな」
「そうなのですか……」
「あの……? 隊長、彼女たちは?」
愛が御剣に問う。御剣が二人を指し示す。
「この二人も我が上杉山隊の隊員だ。見ての通り双子の姉妹で、黒い髪が姉の
「哀さんと愁さん……」
「覚えづらかったら『哀愁コンビ』とでも呼べばいい」
「うおい! 隊長! その雑なくくりやめて下さいよ!」
「……むしろ『哀愁ツインズ』です」
「いや、愁もそこは否定しろよ!」
愁に対し、哀が突っ込みを入れる。愛が重ねて尋ねる。
「私と入隊時期が近いとのことですが……?」
「そうだな。正確な日時は忘れたが」
「全くの初対面なのですが……」
「この姉妹には、主に別働隊として動いてもらっていた」
「別働隊?」
「ああ、この佐渡を中心にな。知っているかもしれんが、転移鏡というのは、海を隔てると移動障害が発生する場合もある。そうなると、佐渡に緊急出動するのが難しい。よって、この姉妹に担当してもらっている。もちろん、他の地域に出動してもらうこともあるが」
「そうだったのですか……ですが、初対面という理由にはあまりならないような……」
「この姉妹は戦闘能力も高いが、より優れているのは諜報活動だ」
「諜報活動?」
「ああ、よって隊の中でもその存在は出来る限り秘密にしておきたかった……」
「なるほど、野球でいう『隠し球』ってやつですね!」
勇次が手を打つ。御剣が一呼吸置いて話を続ける。
「何故野球で例えるか分からんが……いうならば『切り札』だな」
「……実際は?」
「ん?」
「実際のところはどうなのですか?」
愛が目を細めながら尋ねる。御剣が言いづらそうに答える。
「……紹介するのをすっかり忘れていた」
「やっぱり……そんなことだろうと思った……」
「まあいいだろう。こうして会えたのだから」
「よくないです。交戦状態になったんですよ?」
「その辺はよい演習になったと前向きに捉えてくれ」
「前向き過ぎますよ……」
「っていうか、待って下さいよ、隊長!」
「どうした哀?」
「うちら別働隊だったんですか⁉」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ!」
哀が声を上げる。愁が淡々と呟く。
「道理で……活動範囲も狭く、隊長との交信も頻繁ではなかった点が気になってはいたのですが……そういうことでしたか。納得がいきました」
「納得するなよ、愁!」
「……まだお前らは若い。体力的な問題もあるから、そこまで大変な任務は任せたくなかったのだ。その分、諜報活動という面では大いによくやってくれている。そのことについては感謝している」
「勿体ないお言葉です……ありがとうございます」
「なんか言いくるめられているような……」
「哀……」
首を傾げる哀に対し、愁が鋭い視線を送る。哀が頭を下げる。
「はいはい! お褒めにあずかり光栄です!」
「諜報活動というのはどんなことを?」
「ここではなんだ、もうすぐフェリーが着く。哀たちが使っている隊舎で話そう」
御剣の言葉に愛が頷く。フェリーが佐渡ヶ島に到着後、狭世にある隊舎に移動する。
「……改めまして、我が隊舎にようこそいらっしゃいました」
愁が丁寧に頭を下げる。
「俺らの隊舎より小さいな……痛っ⁉」
「余計なことは言わない……」
勇次の足を愛がぎゅっと踏む。愁が尋ねる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません。隊長、それでお二人の具体的な活動なのですが……」
「諜報活動がメインだが……他はよく知らんな」
「は?」
「二人の自主性を重んじている。よって、あれこれとうるさく指示は出していない」
「……面倒だからじゃないですか?」
「……そういう部分があることも若干否めないな」
「はあ……」
御剣の返答に対し、愛が露骨にため息をつく。御剣が哀たちに話しかける。
「今回聞こうと思ったのだが……愁、普段はどのような活動を行っているのだ?」
「そうですね……妖絶士というのは言ってみれば日陰の存在ですよね?」
「まあ、言ってしまえばそうだな……」
「なので目立つようなことは極力避けています」
「良い心掛けだ。それで?」
「口で言うよりも見てもらった方が早いと思います。哀、準備を……少々お待ち下さい」
二人は手際よく準備を進め、カメラに向かって話し出す。
「どうも~哀で~す!」
「愁です……」
「今日も生配信始めて行くよ~。おお! 武原さん、早速スパチャありがと~」
愁がマイクに声が入らないように御剣たちに語りかける。
「暇な……もとい待機時間を有効活用しようとこのように配信などをしております」
「思いっきり目立っている⁉ チャンネル登録者数……百万人越え⁉」
愛が愕然とする。