第20話(3) 白熱の模擬戦

文字数 2,875文字

「さてと……」

「あの三人のことだけど……」

 準備を終えた哀たちに愛が話しかける。愁が首を振る。

「ああ、それでしたら大丈夫です」

「え? で、でもどんな戦い方をするか知っておいた方が……」

「向こうも知らないでしょう。その方が公平です」

「出来るだけフェアな条件で倒す!」

「ええ……ま、まあ、あまり無理はしないでね」

 意気込む哀に愛は優しく声をかける。そして、互いの隊が顔を合わせる。

「準備は良いな? それでは……始め!」

「はあっ!」

 御剣の掛け声と同時に哀が億葉に飛びかかる。億葉が面食らう。

「こ、こっちに来た!」

「そんな馬鹿でかいリュックを背負って、まともに動けるんですか⁉」

「ふん!」

 哀の攻撃を千景が受け止める。哀が舌打ちする。

「ちっ!」

「狙いを億葉に定めるのは読めていたぜ!」

「腕を止めたくらいで良い気になるな!」

「むっ⁉」

 棒から飛んだ玉が弧を描いて千景を狙う。

「『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」

「なにっ⁉」

 億葉の繰り出したマジックハンドが玉を弾く。千景が笑う。

「ナイスだ、億葉! そらっ!」

「くっ!」

 千景の振り下ろしたパンチを哀が後方に飛んでかわす。千景が感心する。

「へえ、よくかわしたじゃねえか……それにしてもけん玉か、なかなかトリッキーだな」

「はっ!」

「なんの!」

「なっ⁉」

 万夜に向かってヨーヨー攻撃を繰り出した愁だったが、万夜の振るう鞭に弾かれる。

「妹さんはヨーヨーですか!」

「鞭とは!」

 万夜と愁はお互いの武器を確認し、一旦距離を取る。万夜は愁と哀を見て考えを巡らす。

(けん玉とヨーヨーとは……少々意表を突かれましたが、分かってしまえばそれほどの脅威ではありません。トリッキーな軌道にさえ気を付ければ大丈夫でしょう。どちらもリーチが精々中距離くらい……わたくしの鞭や億葉さんの珍妙な発明品ならば、そちらの面でも優位に立てそうですね……)

「おらおらっ!」

 万夜の考えている横から千景が果敢に飛びかかる。万夜が驚く。

「な、なにを! わざわざ飛び込むなど!」

「意表を突くんだよ!」

「~~! 仕方ありませんわね!」

 千景に万夜が続く。哀たちが身構える横で愛が叫ぶ。

「……お貸し給へ!」

「ん⁉」

「こ、これは……⁉」

 千景たちが驚いて足を止める。千景と万夜の式神が二体ずつ立ちはだかったからである。

「ご自分を攻撃するのは抵抗があるでしょう⁉」

「ちっ、愛め……」

「た、確かにあまり良い気分はしませんわね……」

「『一億個の発明! その579! 強化フレイムスプレー!』」

「はい⁉」

 億葉がスプレーを使い、そこから噴き出した火が式神をあっという間に燃やす。

「ふっふっふ! 形代を用いる愛殿の術には火が有効! 対策はバッチリであります!」

 胸を張る億葉に対し、千景と万夜が振り返って声を上げる。

「あります!じゃねえよ! 億葉!」

「す、少しは躊躇うということが無いのですか⁉」

「お二人とも! そんなことより突破口が開けましたぞ!」

「ちっ! おらあ!」

「億葉さん! 後で覚えてらっしゃい!」

「来るか! そら!」

「せい!」

「甘えよ!」

「むっ!」

「なんのこれしき!」

「むう!」

 哀と愁の繰り出した攻撃は鋭さがあったが、千景と万夜はそれをあっさりとかわし、二人の懐に入る。愛が心の中で舌打ちをする。

(二人の攻撃スピードやセンスは決して悪くない! ただ、トリッキーな手の内がバレてしまうと分が悪い! やはり経験では千景さんたちが勝る!)

「もらった!」

「お終いです!」

 千景たちが拳と鞭を振りかざす。愁がふっと笑う。

「……それで勝ったおつもりですか?」

「なっ⁉」

「そらそら!」

「お覚悟!」

 哀がマシンガンを、愁がバズーカを取り出し、発射する。

「どわっ⁉」

「きゃっ⁉」

 銃撃を喰らった千景と万夜が倒れ込む。愛が唖然とする。

「マ、マシンガンとバズーカ……?」

「アタシらゲーム配信もやっているんで」

「もちろん、模擬戦用にゴム弾に変えてあります。とはいえ、かなり痛いと思いますが……」

 哀と愁が振り返って笑顔を浮かべる。

「ち、ちっくしょう……」

「ほう……まだ動けるとは、流石ですね。とどめといかせて頂きます……」

 愁と哀が銃口を起き上がろうとする千景たちに向ける。哀が叫ぶ。

「これでアタシらが本隊だ!」

「『一億個の発明! その182! ぶっぱなしボム!』」

「うおっ⁉」

 億葉が双方の間に爆弾を投げ込むと、爆風が発生して哀たちの銃撃を阻止する。

「『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」

 億葉がマジックハンドを伸ばして、千景と万夜を回収する。千景が呟く。

「た、助かったぜ、億葉……反撃といこうか」

「はっ、そんなボロボロで大丈夫ですか?」

「ちょうどいいハンデだよ……」

「強がりを!」

 千景の言葉に哀が銃を向ける。突如として御剣が声を上げる。

「盛り上がってきたな! 気が変わった! 私も混ぜてもらおう!」

「⁉」

 全員が驚きの表情で御剣を見つめる。

「ど、どういうことですか?」

「言葉の通りだ、私たちが全員まとめて相手をしてやる」

 愛の問いに御剣が答える。万夜が訝しげに口を開く。

「まさか六人をお一人で相手するつもりですか?」

「私たちと言っただろう? 又左と勇次、黒駆も一緒だ」

「にゃ⁉」

「マジで⁉」

「わ、忘れられてなくて良かった……じゃなくて! た、隊長⁉」

「お前らも隊員なのだから、演習に参加しない手はないだろう? 又左、変化しろ」

「ご、強引だにゃ!」

 又左が戸惑い気味に巨大化し、御剣がそれにまたがる。

「さあ、かかってこい」

「な、なめやがって! 愛、治癒してくれ!」

「は、はい!」

 愛が駆け寄り、千景と万夜を回復する。千景が叫ぶ。

「うっし、回復! おい、哀愁ツインズ! 一時休戦だ! ここは共闘と行くぜ!」

「ははっ! 分かりました!」

「覚悟しな、姐御!」

 千景たちが御剣の方に向き直る。御剣が静かに睨みつける。

「ほう……私に勝てるつもりか?」

「……まずは野郎二人を潰す!」

「ええっ⁉」

 御剣の迫力に圧されたのか、千景たちが勇次たちに襲いかかる。

「うおりゃあ!」

「「ぐああっ!」」

 千景たちの猛攻に勇次と三尋があっという間に倒されてしまう。御剣が感心する。

「ふむ……突然の共闘だが、意外と連携が取れているな……」

「こ、今度こそ姉様、お覚悟を! わたくしの声で動きを止めます!」

「ま、待て! 全員分の耳栓を準備してねえよ! 味方のことも考えろ!」

「巻き添えは御免であります!」

「……前言撤回。連携はまだまだこれからだな……上杉山流奥義『凍風』……」

「うおっ⁉」

 刀をかざした御剣の周囲に冷気を帯びた強い風が吹き、トリオとツインズが凍り付く。

「……あ、危なかった……」

「お、愛、回避していたか。なかなかの危機察知能力だな」

「……初めからこれが狙いだったんですね?」

「あれこれと説明するよりは、直接戦った方が互いの理解が進むと思ってな」

「それでも文句が出そうですが……」

「まあ、ご機嫌取りは一応考えてあるさ……」

 御剣は刀を納めて呟く。
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