とりあえずのおわり

文字数 3,242文字

                  終

「改めまして……加茂上晃穂の移送任務、本当にご苦労様でした」

 東京管区の隊舎の一室で光康が声をかける。神不知火が無言で頭を下げる。

「侵入が加茂上に見つかった隊員たちですが……奇跡的に全員一命をとりとめました」

「! そうですか、それは良かったです……本当に」

 太田原の言葉に神不知火が笑顔を見せる。光康が腕を組んで首を傾げる。

「しかし、晃穂ちゃん……加茂上があそこまでの過激思想の持ち主だったとはね~一応それなりに注意はしていたつもりだったんだけど……」

「これからはそれなりでは困るわよ」

「ああ、分かっているよ、雅さん。厳重に閉じ込めておいてある。警備もバッチリだ」

「本当に大丈夫かしらね~? どうにも嫌な予感がするのよね……」

 雅から向けられる懐疑的な視線に光康は苦笑いするしかない。

「話は少し変わるけど……件の研究施設は崩壊してしまったんだよね、山吹ちゃん?」

「ええ、恐らくは加茂上が自分自身になにか起こった際に崩れるような仕掛けをしてあったのかと推察されます。あそこでどのような研究がなされていたか、その全容を解明するには時間がかかりそうです。加茂上のある程度の回復を待たねばならないかと……」

「素直に教えてくれるとも考えにくいけど……そのあたりは後で考えることにしようか。それにしても、雅さんも神不知火副管区長も干支妖の相手、本当にご苦労様でした。雅さんに至っては撃破したとのこと、まことに天晴れなことでございます」

 光康が恭しく頭を下げる。雅が苦笑気味に首を左右に振る。

「あの辺一帯の狭世も崩れてしまったから、ちゃんと確認出来ていないわ。しぶとく生きているかも……あの連中の生命力を見くびってはいけないわ。まあ、それよりも……今回の騒動、鬼ヶ島姉弟にはちゃんと謝ったのかしら?」

「ああ、対面してきちんと謝意は伝えたよ。心から許してくれたかどうかは分からないけどね。その後、とりあえず御剣ちゃんたちの分も含めてあるものを送っておいたよ」

「あるもの? 何よそれ?」

「管区長、そろそろお時間の方が……」

「ああ、ごめん。お二人とも悪いけど、今日はこの辺で……ご苦労様でした」

「ご苦労様でした。失礼します」

「……ご苦労様」

 光康が頭を下げ、神不知火と雅も頭を下げて退室しようとする。光康が声をかける。

「ああ、神不知火副管区長、貴隊に合流した旧加茂上隊の面々の様子はどうかな?」

「加茂上四天王のユニークな皆さんをはじめ、皆さん私に協力的で助かっています……」

 振り返った神不知火は笑顔を浮かべる。

                  ☆

「あ~やっぱり納得がいかねえよ!」

 茶々子が画面に向かって叫ぶ。画面の先で由衣が尋ねる。

「なにがそんなに気に入らないのですか?」

「次期管区長がなんで岩手のあいつなんだよ、納得がいかねえ! これならかみしらさんがなった方がまだ納得出来たぜ! 加茂上隊も吸収してちゃっかり管区最大規模だしよ」

「神不知火さんが辞退し、彼女が上に提案してくれたことにより、管区長選出選挙が行われた……全国的にも大変珍しいことです。その選挙に貴女は敗れた……それだけのことです」

「だからなんでアタシじゃねえんだ! 実力・実績・ルックス、どれも文句なしだろう!」

「ルックスはそれぞれの好みですし……貴女に人望が決定的に足りないからでしょうね」

「な、なんだと⁉」

「ね、姉さん……いくら事実でももう少しオブラートに包んだ方が……」

 由衣の物言いに史人が慌てる。茶々子がさらに怒る。

「おい、史人もサラッと事実とか言ってんじゃねえよ!」

「なあ、もう抜けてもいいか? 俺も最近色々と忙しいんだよ……」

 高松がややウンザリした様子で口を開く。茶々子が語りかける。

「高松っちゃんは良いよな~なんか役職もらったらしいじゃん?」

「おいおい、カラミ酒はやめでぐれよ……」

「なに言ってんだ失礼だな、緑茶だよ。一体何をしたんだよ?」

「お茶でそんなテンションに? こないだ集めた干支妖の衣服の切れ端を提出したら、貴重な研究資料になるからとかなんとか言われて……その関係でちょっとな」

「へえ……思わぬところに出世の糸口があるものですね……」

「妖絶講で出世することが必ずしも良いこととは言えませんけどね」

 へらへらと笑顔を浮かべる高松を画面越しに眺めながら史人と由衣が小声で淡々と呟く。

                  ☆

「だからゲームで対戦だって!」

「いいえ、ここはやはり歌ってみたですわ!」

「やっぱり実験ものがウケると思うでござるが……」

 上杉山隊の隊舎で、億千万トリオが言い合いをしている。通りがかった愛が又左に尋ねる。

「……皆さん、一体何を言い合いしているの?」

「哀愁ツインズとのコラボ動画の内容をどうするかで揉めているにゃ……」

「お、思った以上にくだらない内容だったわね……」

「チャンネル登録者数百万人越えの配信者がコラボしてくれるとは思えないにゃ……」

「あ、誰の案がいいか、黒駆さんが聞かれているわ……。こんな時に限ってちゃんと呼ばれているなんてまったくお気の毒に……」

                 ☆

「……なかなか賑やかですね。病院とかとは違いますね」

 一美が廊下の方に目をやりながら笑う。勇次が片手で頭を抑える。

「隊長室の近くで何を騒いでいるんだよ、あいつら……注意してきましょうか?」

「いやいい、放っておけ……あいつらが大人しい方が不気味だからな」

 勇次の問いに御剣が答える。勇次が心配そうに尋ねる。

「でも……お体に障りませんか?」

「なんだそれは……そんなやわな体はしていない……」

「いやいや、出血多量で倒れたんですよ? たまたま近くに愛や武枝隊長がいて、迅速に治癒してくれたから良かったですけど……」

「ふむ、武枝に借りを作ったのは少々癪だな……」

「気になるところがそこですか……」

 勇次が呆れる。自身の席に座った御剣が俯きがちに口を開く。

「話は変わるのだが……勇次、そして一美さん……二人はこれからどうする?」

「どうすると言いますと?」

「妖絶講に入った目的は一美さんの行方を突き止めることだっただろう? とにもかくにもこうして一美さんは戻ってきたわけだ。二人が妖絶士を続ける理由はもはや無いのではないかと思ってな。ちょうどここに東京管区から送られてきた旅行券がある……」

「ああ、そのことですか。もちろん、続けますよ、妖絶講」

「弟と同じ意見です。私の場合は正式に入隊させて頂きます。どうぞよろしくお願いします」

「そうか、続けるに、入隊するか……なにっ⁉」

 驚いた御剣が顔を上げる。勇次と一美が笑う。

「いやいや、そんなに驚くことですか?」

「き、危険が伴うんだぞ?」

「だから何を今更……妖絶講を抜けても狙われるんでしょう?」

「ま、まあ、その可能性は極めて高いが……なんと言っても珍しい姉弟の半妖だからな」

「それなら……なあ、姉ちゃん?」

「ええ、億葉ちゃんに頼んでこれも作ってもらいましたし!」

 一美は御剣の机に大きな黒いケースをドカッと置く。御剣が訝しげに尋ねる。

「……さっきから気にはなっていたのですが……一美さん、なんですかこれは?」

「鎌ケースです! これでどこでも鎌を持ち歩けますよ!」

「! か、鎌ケース⁉ こ、これを作ったのですか⁉」

「ええっ! どんどん妖を狩っちゃいますよ! あ、私のことは一美でいいですから」

「はははっ! これはなんとも頼もしいことだ、頼むぞ、一美!」

 御剣が声を上げて笑う。次の瞬間、隊長室に警報が鳴り響く。御剣が真顔に戻り叫ぶ。

「よし、上杉山隊、出動するぞ!」

「「了解!」」

 走り出す御剣の後に勇次と一美が続く。

                  第二章~完~

(2022/11/13現在)

これで第二章が終了となります。第三章以降の構想もありますので、早い内に再開出来ればと考えております。良かったらまた宜しくお願いします。
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