第29話(4) 風来坊とジャージ女

文字数 1,817文字

「なんだ?」

 御剣が怪訝な顔で問う。

「なんだじゃねえよ!」

「お嬢さん、悪いがナンパならお断りだ」

「誰がこんなとこでナンパするんだよ!」

 ジャージの女は一慶に向かって声を荒げる。

「すみません、ちょっと黙っていてもらえますか?」

「ああん⁉」

 一美の言葉にジャージの女は顔をしかめる。

「実力者同士の本気の立ち合いが見られる貴重な機会なんだよ」

「アタシは本気でお前ら姉弟を捕らえに来たんだが⁉」

 ジャージの女が、勇次に向かって怒鳴る。

「え?」

 勇次と一美が振り返る。

「え?じゃねえよ!」

「ひょっとして……半妖の方?」

「まともな人間がこんなとこで胡坐かいてられんのかよ⁉」

「ああ、そう言われると……」

「確かに……」

 勇次と一美がお互いを見つめ合って頷く。

「言われる前に気付け!」

「そうか! その為にお二人は機外に出たんですね?」

 勇次が御剣たちに尋ねる。

「あ、ああ……」

 御剣が目を逸らす。

「ま、まあ、そんなところだ……」

 一慶は無い髪をかき上げる。

「き、気付いてなかったっぽい!」

「ちょ、ちょっと待て、マジか⁉」

 ジャージの女が立ち上がって愕然とする。

「妖力は感じていたが、微弱だったものでな……」

「び、微弱だあ~⁉」

 御剣が手を挙げ、自らの発言を訂正する。

「いや、今のは少し言い方が悪かった……なんというか、今まで感じたことのない種類の妖力だったものでな……」

「ふん、確かにこの辺に来るのは初めてだからな……」

「それはほとんどみんなそうだろう。こんな空の上はそうそう来ない……」

「新潟方面ってことだよ! 大体分かるだろうが!」

「それで貴様は何者だ?」

「アタシは焔血(えんけつ)だ!」

「……知らんな」

「んなっ⁉」

「知っているか?」

 御剣が一慶に尋ねる。

「真面目なお前さんが知らないのを俺が知っているわけねえだろう?」

 一慶はわざとらしく両手を広げる。

「ああ、アタシを舐め腐っているということはよく分かったよ……」

 焔血が歯ぎしりする。御剣は申し訳なさそうに右手を挙げる。

「……すまん」

「そこで謝んな! マジで舐め腐ってんのかよ! もういい! 半妖姉弟だけさらおうと思っていたが、てめえらはここで仕留める! 喰らえよ!」

「!」

 焔血が右手を振ると、御剣の体の何か所かに切り傷がつく。

「へっ! 反応出来てねえじゃねえか!」

「これは……血の刃か?」

「へえ、察しは良いな」

「なるほど、自らの血を自由に操る半妖か……そういえば、そういう種類の妖がいると昔書物で見たことがあるな……」

「本では分からねえことを教えてやるよ!」

 焔血が右手を素早く振る。

「はっ!」

「なにっ⁉」

 御剣が刀を振るうと、血の刃が凍り付き、翼に落ちる。

「確かに書物にはそこまでは書いていなかった気がするな。だが、一度見た攻撃なら対処することは十分可能だ……」

「くっ……」

「根絶するかと思ったが、身柄を確保するか……」

 御剣が焔血に向かって歩き出す。

「ちょっと待て」

 一慶が御剣を遮る。御剣が首を傾げる。

「なんだ?」

「ここは俺に任せてくれよ」

「何故だ?」

「何故って……惚れた女に良い所を見せたいって男心が分からないのかよ?」

「分からん」

「あ、そう……」

「まあいい……任せる」

 御剣が刀を鞘に納め、腕を組む。一慶が鼻の頭をこする。

「へへっ、そうこなくっちゃな」

「と、とことん舐めやがって! これでも喰らえ!」

 焔血が両手を交差させて振る。炎が巻き起こる。勇次が驚く。

「ち、血を燃やしたのか⁉」

「そういうこった! 火だるまになりやがれ!」

「だるま? だから丸みで判断……するな!」

「むっ⁉」

 一慶に向かって飛んでいた炎の渦が消え去る。

「ふっ……」

 一慶は槍を立てる。御剣が呟く。

「槍さばきの腕は上がったようだな……」

「ああ、前よりも高速で突けるぜ」

 一慶が腰を若干動かしてみせる。御剣が冷たい声色で応える。

「……蹴り落とすぞ」

「いや、今のは悪ノリが過ぎた、すまん……」

「ふん……」

「ぐっ……」

「さて、自らが流した血を燃やすというメンヘラを拗らせまくったお嬢さん……」

「みょ、妙な呼び方をするな!」

「身柄を確保させてもらう……ぜ!」

「‼」

 一慶が一瞬で焔血との距離を詰める。勇次がまたも驚く。

「速い!」

「風に乗ったまでさ……」

「クソが! 覚えていろ!」

「⁉」

 焔血が自らの体を炎で包んで、機体から飛び降りる。

「そういやさらうとか言っていたな、近くに味方がいたのか? しくじったな……」

 一慶は頭をかく。
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