冬・静謐の中で #静謐

文字数 362文字

 寒さに身を縮めても、じっとファインダーを覗く人たち。
 静謐な顔つきをした樹氷は美しいという言葉を超えていた。丹頂が休む空間を静かに静かに氷の粒が舞い、冷たい空気は、吸い込むと体の奥まで澄んだ気持ちになった。

 風に雪煙が舞い、丹頂の鳴き声も 人々の囁き声も シャッター音も、
 一瞬、遠のく。
 音が消えてしまった、と錯覚する。

 その中を丹頂が一斉に飛び立つ。
 樹氷が微かに揺れる。
 一気にシャッター音が響き全ての音が戻ってくる。

 皆、自らの心が動く瞬間を逃すまいとしていた。

 自然がつくる景色は「無」だ。
 心はない。丹頂も人を喜ばそうなどとは思っていないだろう。ただそこに存在するだけ。

 でもそこに、ただ静かに存在することが、見つめる人の心を動かす。優しく強くありたいと感じさせる尊い力は、この大地に在る。


 ※初出2019/8
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