出会った蕎麦屋とクロッカス #催花雨
文字数 403文字
霧雨の中、両脇に緑が生い茂る山道をひた走り、小さな家々の集まりが見えてきたとき心底ホッとした。道路脇に自転車を停めて寂びれた蕎麦屋に入る。
テレビを見ていたおばちゃんが立ち上がり「あら驚いた、びしょ濡れ」とタオルを差し出してくれ「お昼これから?」と聞かれる。
時計をみるともうすぐ二時だ。「はい、大丈夫ですか?」「もちろん。どこから来たの?」おばちゃんは昔からの顔なじみのように僕に話しかける。
「自転車で?」と驚いたおじちゃんが天ぷらをおまけしてくれた。
人を癒す力って誰もが持っているのだろうか。僕は穏やかな気持ちに満ちて蕎麦をすする。
普通の蕎麦だ。でも泣きたくなるくらい美味しい。
外を眺めると自転車の脇に、先刻は気にならなかった小さな花が咲いていた。
「クロッカスよ」この辺では春を知らせる花だと、おばちゃんが教えてくれる。春の温もりと共に、僕はこの町で一泊することに決めた。
※初出:2020/11
テレビを見ていたおばちゃんが立ち上がり「あら驚いた、びしょ濡れ」とタオルを差し出してくれ「お昼これから?」と聞かれる。
時計をみるともうすぐ二時だ。「はい、大丈夫ですか?」「もちろん。どこから来たの?」おばちゃんは昔からの顔なじみのように僕に話しかける。
「自転車で?」と驚いたおじちゃんが天ぷらをおまけしてくれた。
人を癒す力って誰もが持っているのだろうか。僕は穏やかな気持ちに満ちて蕎麦をすする。
普通の蕎麦だ。でも泣きたくなるくらい美味しい。
外を眺めると自転車の脇に、先刻は気にならなかった小さな花が咲いていた。
「クロッカスよ」この辺では春を知らせる花だと、おばちゃんが教えてくれる。春の温もりと共に、僕はこの町で一泊することに決めた。
※初出:2020/11