水面に揺れる風景 #涼み客

文字数 379文字

 少しの晴れ間が池の水面を煌めかせ、旭岳を映し出した。

 肌寒い気温の中にも小さな野花が咲いていて、けなげな力強さを受けとりながらトレッキングコースを歩く。

 相棒が池の前で立ち止まり「風が強いな」と呟いた。水面のさざなみが旭岳を揺らす。私は並んでそっと手を繋ぐ。
 目の前のことで沈んだり浮かれたり。それは水面に映る私だ。

 同じ景色を見ているはずでも毎年感じ方や視点が違うことで、自分が以前の自分と少し変化していることに気付く。だから毎年ここのきりりとした涼風にあたりたくなる。

「来年も来ような」と隣から声が聞こえた。
 手の温もりとその一言で、明日からの入院生活をきっと乗り越えられる。

 風が雲を運び水面の景色を変えていく。流れる風を感じながら私はそっと池を覗き込み、そして山を見上げる。
 水面から消えても旭岳は揺るぐことなく私を見ていた。





 ※初出:2019/7
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み