帰郷 #六月柿
文字数 354文字
「ただいま」
縁側に父の背中を見つけ、隣に腰をおろす。
何年ぶりの帰郷だろう。なかなか連休も作れずにあっという間に過ぎる毎日。
マンション生活をしているからか、変わらぬ小さな庭を見て懐かしさが込み上げた。
母が冷えたビールをふたつのグラスにそそぐ。まあるく切ったトマトが添えられている。
「この組み合わせ変わらないね」僕が言うと「トマトは体にいいし、二日酔い予防にもなるらしいぞ」と父は張り切り出す。
「そうだ、覚えてるか。トマトと言えば……」
始まった。思わず母と顔を見合わせ、目で笑いあう。
時間に追われる生活に疲弊しているからこそ、こんな些細な和みの時間が今は愛しい。
田舎の夕風が頬を抜けていく。
僕は、塩をほんのひとつまみ振りかけて、ゆっくりとそれを味わう。父の昔話に耳を傾けながら。
初出:2019/8
縁側に父の背中を見つけ、隣に腰をおろす。
何年ぶりの帰郷だろう。なかなか連休も作れずにあっという間に過ぎる毎日。
マンション生活をしているからか、変わらぬ小さな庭を見て懐かしさが込み上げた。
母が冷えたビールをふたつのグラスにそそぐ。まあるく切ったトマトが添えられている。
「この組み合わせ変わらないね」僕が言うと「トマトは体にいいし、二日酔い予防にもなるらしいぞ」と父は張り切り出す。
「そうだ、覚えてるか。トマトと言えば……」
始まった。思わず母と顔を見合わせ、目で笑いあう。
時間に追われる生活に疲弊しているからこそ、こんな些細な和みの時間が今は愛しい。
田舎の夕風が頬を抜けていく。
僕は、塩をほんのひとつまみ振りかけて、ゆっくりとそれを味わう。父の昔話に耳を傾けながら。
初出:2019/8