影の松本清張

文字数 1,434文字

母ちゃんが、「遠くからの声」「或る小倉日記伝」の2作品を、啓太に勧める理由は、この2作品が、お前と同じ短足だからだよ。

何それ?! 短足ッて?

母ちゃん、言葉の使い方が間違っているよ! 

短足じゃ無くて、短編と言う言葉だろが!

そうかね?  短足も短編も短いって事は同じじゃないか。

だけど お前、短足って言葉をソンナに気にすることは無いよ。

お前に彼女が居ない原因は、短足だけじゃないからね。

何を訳の解らない事を言っているんだよ!

僕が彼女を作らないのは、「母ちゃんと僕とボロ自動販売機の問題」の小説の中でも僕は主張したけど、面倒くさいからだよ。

それに、この2作品が短編だから、僕に勧めるって?

如何いう事なんだよ?

短編だったら、みんな良い作品に成るのかよ?

そういう事かね。

だけど、短編小説だけが好い小説に成るのは、お前だけかも知れないよ。

                    何で、僕だけなんだよ!?

短編は字数が少ないから、無知無学の敬太でも最後まで読める可能性が在るから、良い本なんだよ。

小説はね、最初から最後まで読んで、評価すべきなんだよ。


清張の作品は、短編に味の在る傑作が多いんだよ。


だけど「遠くからの声」は、最初に読み始めた時には、清張作品の中では特に凄い傑作だとは思わないかも知れないよ。

だけど、超上品で超美人で超優しい、母ちゃんには、傑作作品なんだよ。


                      何でソンナ小説を僕に紹介するの?
しょうがないだろ、お前は凄い小説家の清張さんの本を、500冊も読めないっていうから、2冊に絞るしか無かったんだよ、500冊って数字は500円と数字の値は同じだよ。大した数じゃないよ。


今から「遠くからの声」を、母ちゃん独自の見解で紹介するから、頭に叩き込むんだよ。

「遠くからの声」っていう本は、遠くからの声なんだよ。

                       何なのソノ解説!?

                       ふざけているの?!

今の啓太の言葉は、無視します。


正直に言うよ、この本を読んでいる時は、清張の本をイッパイ読んでいる私に取っては、大した物語じゃないと思っていたんだよ。


だけど、この「遠くからの声」っていう本の凄さは、読後、3年、5年、10年後に襲って来るんだよ。

主人公の啓子の切ない悲痛な声が、時々、先の見えない深くて遠い霧の空間から漂い、押し寄せて来て頭から離れなくなるんだよ。

松本清張の快い呪縛(じゅばく)が襲って来て、気が付けば、他の清張の本を500冊以上も読んでいたんだよ。


お前にも、清張の()の恐ろしくも心地好い呪縛を味わって欲しいから、絶対に読まなきゃダメだよ!

何でソンナ本を読まなきゃイケないんだよ!

ソンナ清張の呪縛に(かか)る本なんて、僕は、読まないよ。

ベツに読まなくても良いわよ。

仏の母ちゃんは、ソンナに無理には勧めないよ。

だけど啓太、この本を読まなかったら、3年間夕食が抜きに生る可能性が在る視たいだよ。

気を付けた方が良いよ。

何をバカな事を言っているんだ!?

解ったよ、母ちゃんは口だけではなく、本当に3日間ぐらいは飯抜きになるから、読むよ読めば好いんだろ。

そういう事かね。

お前も、この本を読んで、清張さんの呪縛に罹りなさい。

母ちゃんと同じように、本を読む面白さと心地よさと恐ろしさを味わいなさい。


次回は、もう一つの清張の小説「或る小倉日記伝」の文学的な価値と凄さを、優しく解説するよ。

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