第14話  殺戮者マサカー

文字数 1,071文字



ほんの数日前まで、リッパーはむやみやたらと人を殺すようなことはしなかった。

リッパーが攻撃対象としたのはモラルのない者や腐敗した政治家のみ。
選挙カーに至っては、二次災害を出さないようスピーカーだけを破壊する配慮まで見せた。

事の善悪はともかく、リッパーには信念があった。正義感があった。
そのリッパーが突然こんな殺戮を始めるとは考えにくい。

まともに考えるのであれば、別人。

では、同じ能力を持つ者が二人いるということか?

それも考えにくい。

リッパーがこんな殺戮行為を放置したままにするとは思えない。
つまりリッパーを敵に回すことになる。

監視カメラに頭が回るくらいの理性が残っていれば、そのような愚は侵すまい。

だとすれば、殺戮者が表に出てきた今、以前のリッパーは既に殺されたか無力化された可能性が高い。
どのような手段を使ったかは分からないが、この私よりも先にリッパーを見つけ出し、殺した。あるいは能力を奪った。

確証などない穴だらけの推理ではあるが、以前のリッパーと今回の殺戮者は、もはや別物と考えなければならないことだけは確かだ。

私は通信回線を開き、高らかに宣言する。

「捜査員並びに警察関係者に通達する。今回の殺戮者はリッパーとは別人の可能性が極めて高いと考えられるため、これをマサカー(虐殺の意)と呼称し、第二波の阻止を最優先事項として捜査する」

通信終わり。
今言えるのは、たったこれだけだ。

具体的な作戦は、これから立てなければならない。
時刻は深夜2時を過ぎたところだが眠ってなどいられない。

マサカーの能力範囲は半径300メートル程度。
ならば、マサカーはその円の中心部を移動していたはずだ。

つい先ほど入手した衛星画像を拡大し、その地点を見る。

……いた。

予想通り、自転車に乗った女性が。

真上からの画像なので顔は見えないが、髪型や肩幅などから、成人女性でほぼ間違いないことが判明した。

さすがに衛星画像を撮られることまで想定はしていなかったようだな。
この画像を辿っていけば、マサカーの居場所が分かるかもしれない。

問題は、この女性がマサカーであるという証拠がないこと。そして、殺さずに捕まえるのが非常に困難だということだ。

今までは、犯人に対して確たる証拠を突き付けた上で、生きたまま捕まえるのが私の探偵としての信条だった。
リッパーに対してもそのやり方を貫くつもりだった。

だが、この殺戮者に対してそんな悠長なことは言っていられまい。
発見次第、即処刑する。

仮に人違いだとすれば世界探偵の名は地に落ちる……どころでは済まない。
その時は事件解決後に死をもって償うとしよう。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み