第16話  爆殺

文字数 1,332文字

M3は生きていた。
それどころか軽い怪我で済んだ。

切り裂かれたのは、電動バイクの前輪のみ。身体に直接攻撃された跡はなかった。怪我は転倒した際に負った打ち身と擦り傷だけだ。

あくまでも殺すのは男性。
たとえ生命を狙ってくる者であっても女性は殺さない。
一応、大量殺戮犯にも信念のようなものがあるということか。

だが…
優秀な部下を失わずに済んだものの、殺戮進行が止まったわけではない。

彼女がただそこを通過するだけで、半径300メートル内の男性が無造作に殺されていく。
深夜であるため、そのほとんどはカメラに映らないが、今まさに住宅という住宅の中で静かな惨劇が起こっているのだ。

いったい何の恨みがあるというのだ。

…いや、今はそれを考えている場合ではない。

怒りを抑えろ。
屈辱は忘れろ。

まだ次の手は打ってある。

マサカーの進行方向にある橋に先回りして、爆薬を仕掛けておくよう指示しておいたのだ。

爆薬の量は、優に橋を崩壊させるほど用意させた。
真上を通った瞬間に起爆すれば確実に爆殺できるはず。

現在マサカーが走っているのは川に囲まれた地区だ。どこへ進むにしても必ず橋を渡る。
どの橋に向かっても先回りできるよう地上部隊を複数配置してある。

問題は起爆させる前にセンサーを切られて解除されてしまうことだ。

もちろん、爆薬は橋の上からでは見えないところに仕掛けてある。普通に考えれば爆破する前に気付くはずがない。

だが、マサカーは先ほどのライフルやランチャーによる攻撃を見て防いだわけではない。殺傷圏内に入った瞬間、自動的に迎撃システムが働いたような感じだった。

一方で、M3の近接攻撃には不殺で対処してきた。
何もかもが自動というわけではないのか?

ならば爆薬が通じる可能性はある。
爆薬そのものは解体工事用のものであって兵器ではない。
爆発させるまでは攻撃と認識されないかもしれない。

そして、爆発させてしまえば『切る能力』では対処できないはずだ。
飛んでくる破片や瓦礫を切り裂くことはできても、爆風までは切れない。熱は切れない。

やってみる価値はある。

『N.G、対象が間もなく橋に差し掛かります』

上空のヘリから通信が入る。
手元にある映像でも確認できた。

マサカーが渡り始めたのは全長600メートル超の大橋だ。
爆薬は橋の中央辺りに仕掛けてあるため、周辺の住宅街に爆発の被害が及ぶことはない。
無論、一般車両の通行は制限してある。

マサカーが速度を緩める気配はない。

『対象が爆破地点へ到達するまで、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……』

さあ、どうなる?

『起爆します!』

通信使の声が耳に届いた瞬間、
私は…

この世のものとは思えない不可思議な光景を目にした。

爆発は起きなかった。
が、橋が消失した。

マサカーが乗っていた原付きバイクも消失した。

崩壊したのではない。
いきなりパッと消えたのだ。

突然、何もかもが消え失せ、マサカー本人だけが宙に投げ出される形となった。

なんだ!?
何が起きた!?

マサカーが川へ落ちる。

しばらくして、彼女が被っていたフルフェイスのヘルメットだけが浮いてきた。

本体は浮いてこない。

やった…のか?

空はまだ暗く、ヘリのサーチライトだけではよく見えない。

いや、泳いで逃げた可能性が高い。
奴は、まだ死んではいない。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み