第11話 今日から俺は最高の人生を
文字数 1,371文字
コソコソしながらチマチマと稼ぐ日々は今日で終わりだ。
間もなく、俺はメジャーな存在となる。
まずはテレビ局のインタビューに応じる。
そこで今までの作品をさらに上回る超絶精巧な極小アートを披露すれば、俺の知名度はウナギ登りだ。
金はいくらでも入ってくる。
女も寄ってくる。
邪魔する奴、ムカつく奴がいたら、一切の証拠を残さず葬ることもできる。
最高じゃねえか。
もうじき、この安アパートともお別れだな。金が入れば高級マンションに移れる。もっと金が入れば家を建てることだってできる。
なんだったら、愛人用の別荘も建ててやる。
そんなことを考えながら、アパートを出たところ……
「お兄さん、こんにちは」
アイドル級の美女が声をかけてきた。
「え…あ…?」
突然のことに俺は戸惑う。
もしかしてドッキリ?
もう撮影が始まってる?
俺はカメラマンを探すが、それらしき人影はない。
「ごめんなさい、突然押しかけたりして。わたし、お兄さんのファンなんです」
美女が眩いばかりの笑顔を向けてくる。
そうかそうか、俺のファンか……って、早くない?
俺はこれから有名になるんだぞ?
今の時点ではまだ……
「あ、これ通販で買ったんです」
美女がハンドバッグから取り出したものを、こちらに見せてきた。
「これは…」
俺の作品だ。
米粒サイズの仏像が透明のプラスチックケースに収められている。
なるほど、客の一人だったか。
でも、住所はどうやって……?
問いかける前に、美女が声を上げる。
「あの、よかったらわたしとお話しませんか?」
「ああ、いいよ」
まだ時間には余裕があったので、俺は快く頷いた。
いや、多少遅れてでも承諾しただろう。こんなこと人生で一度だってなかった。
こんな綺麗な娘が俺のファンだなんて、幸先がいいにも程がある。本当にドッキリじゃないだろうな。
美女がさらに言う。
「ここで立ち話もなんですし、お部屋に入れてもらえませんか?」
おいおい、マジか?
男の部屋に一人で上がるって、それが何を意味するか知らないわけじゃあるまい?
「それで、よかったら作業場を見せてほしいんです。あと道具とかも。こんな精巧な作品、どうやって作ってるのか気になるんです」
そっちか。
「悪いけど、作業場は企業秘密みたいなものでね、見せるわけにはいかないんだ」
「そうですか…」
「でも、その部屋以外なら入ってもいいし、話も聞くけど、どうする?」
「ほんとですか! じゃあ、ぜひお邪魔させてください!」
「おっけー」
狭い部屋ではあるが、一応1DKなので椅子を並べてお話するくらいはできる。
「座るとこ準備するから、ちょっと待っててくれるかな?」
俺は先に入って、ダイニングに椅子を二つ並べてから、美女を招く。
作業場である俺の部屋は、もちろん扉を閉めてある。
「狭いところで悪いね」
「いえいえ、大丈夫です」
ヤバい、俺の部屋なのに良い匂いがする。
女の子を部屋に上げるなんて初めてだ。心臓がドクドクする。
「よかったらコーヒーか紅茶いれるけど、どっちがいい?」
「じゃあコーヒーお願いします」
俺はふわふわとした足取りでキッチンの戸棚にコーヒーカップを取りに行く。
困ったな。
まさかこんなに早く客が来ると思わなかったから、まるで準備ができてない。
コーヒーはインスタントでいいのかな?
カップは一応予備があるけど、皿なんかないし、砂糖とかあじぇ
………は?
なんで真っ暗?
俺……動けなぎぐげ