第10話  芸術家になろう③

文字数 758文字

目論見通り、俺の能力を使った極小アートは順調に売上を伸ばした。

決め手となったのは作品の値段だ。
なにせ元手や時間がほとんどかからないから、かなり安く売ることができる。

材料になる木や石は裏山で拾ってこればいいし、道具はいらない、作業場を借りる必要もない。
ネット通販で売るから梱包するための箱や緩衝材などの費用がかかるだけだ。

一方で、作品の精度に関しては現行のプロレベルをわずかに上回るくらいに抑えておいた。あまりに神懸かった物を作ると世界探偵や他の能力者たちに目を付けられてしまうからだ。

取材の依頼も来たがすべて断った。
今はまだ目立つわけにはいかない。

そうして、しばらくの間、出品と搬送と材料調達に追われる日々を送った。

もちろん、ニュースのチェックは欠かさない。
もし俺と同等の能力を持つ人間がいるなら、何らかの事件を起こす可能性が高いだからだ。

人智を超えた能力を持ちながら、何もせず今まで通りの生活を送るなんてあり得るか?
あり得ない。

能力があれば使う→欲望を満たす→調子に乗る→社会に影響を及ぼす

これが人間だ。
俺なんかはよく抑えている方だ。

それともなにか?
俺以外の能力者は全員が悟りの境地に到達したお釈迦様みたいな人間ばかりだってのか?

んなわけねーだろ。

それでも、念のため三ヶ月間はおとなしくしていたが、これといった大きな動きはなかった。
世界探偵も、あれ以来配信をおこなっていない。

やはり、あれはハッタリだ。
俺以外に能力者はいなかった。

バカバカしい、これ以上付き合っていられるか。

これからは作品の精度を徐々に上げていこう。
取材にも積極的に応じる。
そうすれば、富と栄誉は約束されたも同然だ。

俺はミケランジェロや運慶快慶をも超える偉人になる。
しかも、それは表の顔に過ぎない。

裏ではリッパーとして世界の法秩序を作る。
最強だな。



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