第1話(4) 2000円札オンリー

文字数 2,230文字

「くっ!」

 強盗の一人がバッグを持って走って逃げ出そうとする。平成が叫ぶ。

「待て!」

「そう言われて待つ馬鹿がいるかよ!」

「しょうがねえな……『両替』!」

「⁉」

 平成が両手を強盗に向かいかざす。令和が首を傾げる。強盗も思わず立ち止まる。

「へ、平成さん?」

「な、何をしやがった? 心なしかバッグが重くなったぞ?」

「中身の札束を全て『二千円札』に替えてやったぜ!」

「ど、どんな能力⁉」

「じ、地味な嫌がらせしやがって!」

「どうだ!」

 平成は胸を張る。

「か、考えてみれば金であることには変わりはねえ!」

 強盗は再び走り出す。平成は戸惑う。

「そ、そんな! 通用しないだと⁉」

「どうして通用すると思ったんですか! その能力!」

「ちっ! それならばこれだ! 『バカの壁』!」

「どわっ!」

 平成が再び両手をかざすと、強盗の走り去ろうとした先に壁が発生し、強盗がそれにぶつかって転倒する。

「よしっ!」

「ぐっ……な、なんで壁がこんなところに……」

「ちょっと待て! この脇から抜けられるぞ!」

 残っていたもう一人の強盗が壁と街並みのビルの間のわずかなスペースをすり抜けようとする。令和が驚く。

「平成さん⁉ これは⁉」

「……そこまで幅広い壁を生成することは出来ない……」

「それじゃ『バカな壁』じゃないですか!」

「ほお、言い得て妙だな」

 平成は感心する。令和は声を上げる。

「感心している場合ではないですよ!」

 令和が走りだす。平成が叫ぶ。

「どうするつもりだ⁉」

「壁の隙間から追いかけます!」

「待て! 待ち伏せをされている可能性があるぞ!」

「ではどうすれば!」

「こうするんだよ! 『崩壊』!」

「⁉」

「なっ⁉」

 令和も逃げようとした強盗も驚いた。壁があっという間に崩壊し、強盗と令和の間に障害物がなにも無くなったからである。

「逃がしませんよ!」

「ぐはっ……!」

 一瞬で間合いを詰めた令和が刀の柄を強盗の腹部に突き立て、強盗を無力化する。

「これで本当に片付きましたね……」

「まだだ!」

「なっ⁉」

 まだ残っていた強盗、しかも一番大柄な強盗が令和に思い切り殴りかかる。令和はなんとか受け止めるが、勢いを殺しきれず、後方に飛ばされ、地面に転がる。

「令和ちゃん、無事か⁉」

「受け身を取ったのでなんとか……」

「ちっ、うざってえ連中だな……どうせ捕まるんだ。せめてどちらか始末するか?」

「くっ……」

 大柄な強盗が令和に迫る。令和は二刀を構えながら後ずさりする。

「へっ、ビビッてんのか? ヒヨっこ時代が……」

「待て、デカいの! 俺が相手だ!」

 平成が叫び、大柄な強盗がゆっくりと振り返り、不敵な笑みを浮かべる。

「……てめえの攻撃手段なんざ読めている……どうせボールを投げるか、蹴るかだろう? 接近戦も油断さえしなければ……!」

 そう言いながら、大柄な強盗が目を丸くする。平成がやや大きめなボールを両手に持っていたからである。

「あ、バレた?」

 大柄な強盗は思わず噴き出す。

「また馬鹿の一つ覚えかよ! そんなボール遊びで何が出来る!」

「こうするんだよ!」

「む⁉」

 平成がボールを思い切り地面に叩き付け、大柄な強盗の頭のちょうど真上にくるまで弾ませたのである。

「『エアウォーク』!」

「ああん⁉」

 平成がまるで空中を歩くような飛躍を見せ、空中のボールを掴んでみせたのである。大柄な強盗も令和も驚く。

「『スラムダンク』‼」

「がふっ!」

 両手でボールを掴んだ平成はそのまま勢いよく落下し、大柄な強盗の脳天にボールを強烈に叩き込んだ。大柄な強盗はフラフラとなって、やがて倒れ込んだ。

「へっ、どうだ! おっと!」

 平成は着地を失敗して、尻餅をついてしまう。令和がそこに無言で近づく。

「……」

「い、いや~最後の最後でカッコ付かねえな……」

 平成は後頭部を照れ臭さそうにさする。令和が口を開く。

「……あのエアウォークは……」

「え?」

「アメリカのレジェンドバスケットボールプレーヤーが見せた、いわば『神業』です。どうしてそれを日本の一時代に過ぎない平成さんが出来たのですか?」

「ああ、それか……答えはこれだ」

 平成は両手と尻をついたまま自分の両足を大袈裟に上げる。令和が首を捻る。

「……靴ですか?」

「ご名答。これは今言ったレジェンドの名を冠したバスケットシューズ、通称『バッシュ』でね……あの選手のプレーに熱狂したものはこぞって買い求めたもんだよ……もちろん日本においてもそれは例外ではなかった……スポーツだけでなく、普段のファッションとしてのスニーカーで履いている人も多かったな……」

 立ち上がった平成は何故か遠い目をする。令和はため息をつく。

「思い出話、もとい、ご説明頂きありがたいのですが……」

「あれ? 俺、思い出を語っちゃってた? ノスタルジッちゃってた?」

「……それで高く飛べるのはどういう理屈ですか?」

「……あのレジェンドと同じシューズだぜ? それは誰だって飛べるだろうよ」

「いや、飛べないですよ、普通は! ……!」

 そこに警官隊の応援が駆け付け、強盗たちを確保していく。平成は苦笑する。

「とりあえず解決か……それにしても令和ちゃんにはすっかり助けられちまったな、見ているだけでいいからとか言いながら……カッコ悪りいなあ」

「国の内外にも天地にも『平和』が『達成』される……」

「ん?」

「一応成し遂げられましたね……これからよろしくお願いします、平成さん」

「おっ? 少しは見直してくれた感じ?」

 令和と平成は握手を交わす。
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