第9話(4) 源平運動会

文字数 2,397文字

「え、そんなに驚くこと?」

「驚きますよ!」

「動き易い恰好で来いって言っていただろう?」

「だからって仕事中に運動会をやることになるとは思いませんよ!」

「まあ良いじゃん」

「良くないです! 百歩譲って源さんと平さんで競い合ってもらえば良いでしょう⁉」

「いまいち華に欠ける気がしてな……そこで!」

 平成が令和をビシッと指差す。

「いや、そこで!じゃないですよ!」

「欠けていたピースがこれで埋まった」

「勝手にパズルをしないで下さい!」

「まさか……参加しないのか?」

「しませんよ!」

「豪華商品を用意したぞ!」

「……豪華賞品?」

「お、興味が湧いてきたな?」

「……一応うかがいましょうか」

「源平ならぬ『横井軍平』氏発案の3Dゲーム機、『バーチャルボーイ』だ!」

「なんとも言い難いものを出してこないで下さい!」

「ん? 食い付きがいまひとつだな」

「むしろよく入手出来ましたね⁉」

「まあ、ちょっとしたコネでな……」

「おい、さっきからなにをごちゃごちゃ言っておる?」

「さっさと始めようではないか」

 源と平が声をかける。令和が戸惑う。

「やる気十分⁉」

「当然だ。いかなる勝負事においても公家かぶれに負ける気などせん」

「ふん、粗暴な輩に後れをとるつもりはない」

「ちっ……それで令和、貴様は参加するのか?」

「え? い、いや、出来れば遠慮させて頂こうかなと……」

 令和は苦笑を浮かべる。源が呟く。

「まあ、無理もあるまい。現代のもやしっ子には厳しかろう。なあ、平よ」

「ん?」

「ああ、怪我をしたら危ないからな。大人しく下がっておれ」

「……お二方、舐めてもらっては困りますよ、私と平成さんの身体能力を!」

「ええ⁉ 俺も出るの⁉」

「当たり前でしょう! 私は平さんの紅組として参加します! 平成さんは白組で!」

「な、なんで……」

「現代が舐められているのですよ! ここは意地を見せなくては!」

「し、仕方がないな……では、場所を移動しよう」

 令和の迫力に圧されて、平成も参加することとなった。

「……場所を移しましたが、これは?」

 令和が問う。目の前には障害物等が置かれているアスレチックステージが広がっている。

「1180年から1185年にかけて巻き起こった『治承(じしょう)寿永(じゅえい)の乱』、いわゆる『源平合戦』を模したフィールドアスレチック、『IKUSA』だ!」

「『SASUKE』みたいに言わないで下さい!」

「時間もない! さっさと始めよう!」

「話が早いですね!」

「順番に挑戦してもらうかと思ったが、面倒だから2対2のチーム戦にしよう!」

「面倒だからって!」

「ルールは簡単! 先にゴールした方が勝ちだ! よし、スタート!」

「問答無用が過ぎる!」

「行くぞ!」

 赤色の帽子を被った平と令和、白色の帽子を源と平成がスタートする。

「こ、これは……!」

 スタート直後に大きな壁がそそり立つ。

「1184年に行われた『一ノ谷(いちのたに)の戦い』のハイライト、『鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし』を再現した!」

「え? あれは崖を下ったのですよね?」

「それは流石に危ないから、逆に登る仕様にした!」

「いや、逆に厳しいでしょう! ほぼ直角ですよ⁉」

「『そり立つ壁』みたいものだな!」

「もはや『そびえ立つ壁』ですよ! !」

 物音がしたので、令和が後方に目をやると、角に松明を付けた牛が数頭迫ってきている。

「1183年に行われた『倶利伽羅峠(くりからとうげ)の戦い』のハイライト、『源義仲(みなもとのよしなか)』が用いたとされる『火牛の計』を再現してみた!」

「あ、あれは創作では⁉」

「とにかく早く登らないと、牛の角に突かれるぞ!」

「くっ、ごめんなさい!」

 令和はわりと躊躇いなく、平を足蹴にして崖を登る。平が驚く。

「なっ! 我を踏み台にするとは!」

「なるほど、その手があったか! 源くん、悪い!」

「のわっ!」

 平成も源を踏み台にして崖を勢いよく登る。平が叫ぶ。

「おのれら! 時代の先輩に対する敬意は無いのか!」

「えっ⁉ なんですか⁉ よく聞こえません!」

 崖を登った令和が耳を澄ます。物凄い数の鳥の羽音がするため、聞き取りづらいのだ。

「1180年に行われた『富士川(ふじがわ)の戦い』のハイライト、『水鳥の羽音』を再現した!」

「それもフィクションでは⁉ そんなところ再現しないで下さいよ! これでは意思の疎通が出来ないじゃないですか! あ! 縄があった! これにつかまって下さい!」

 令和が縄を投げ、平がそれを掴んで崖を登る。平成も同様にし、源を引き上げる。

「ここまでは同じペースか!」

「次のステージで差をつけます! ! これは細い一本道! 落ち着いて渡れば……!」

 令和が驚く。どこからともなく鋭い矢が飛んできたからである。令和はなんとかかわす。

「1185年に行われた『屋島(やしま)の戦い』のハイライト、『扇の的』を再現した! 弓の名手、『那須与一(なすのよいち)』なみの正確な矢が飛んでくるぞ! 急いで渡らないと当たってしまうぞ!」

「き、危険極まりない再現は止めて下さいよ! ……なんとか渡った! 次は⁉」

 令和はまたも驚く。水の中に船が数艘浮かんでいたからである。

「1185年に行われた、源平合戦のクライマックス! 『壇ノ浦(だんのうら)の戦い』のハイライト、『源義経(みなもとのよしつね)』による『八艘飛(はっそうと)び』を再現したステージだ! この先がゴールだぞ!」

「文字通りレジェンド級の動きを求められても! というか、海の再現度が凄い!」

「義経に出来て我に出来ぬ道理はない!」

「なんの! 負けるか!」

 源と平が勢いよく船を飛び移っていく。しかし、両者とも、途中で落水してしまう。

「お、お二方とも、大丈夫ですか⁉」

 令和と平成が源と平を引き上げる。源が肩で激しく呼吸しながら呟く。

「はあ、はあ……流石に厳しいか……」

「それはそうでしょう。出来たらそれこそ歴史に残りますよ。無茶な話です」

「我には……IKUSAしかないのだ」

「ミスターSASUKEみたいなこと言わなくて良いですから」

 何故か感極まる源の言葉に令和は冷淡に答える。
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