第13話 バディ、次なる舞台へ

文字数 3,761文字

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「原始課への所属変更の件って、結局うやむやになったみたいね……」

 時管局の会議室で弥生は頬杖をつきながら呟く。縄文が答える。

「空ちゃんと白くんの処遇もあるから一旦棚上げになっただけみたいよ」

「このまま半永久的に先送りになって欲しいわ」

「そういうわけにもいかないでしょ……ねえ、所属変更ってそんなに嫌?」

「なによ? 未開扱いされても良いって言うの?」

「名称については検討してもらいたいところだけど、今後更に研究が進めば私たちへの理解もより深まってくることでしょう」

「それは……そうかもしれないけど……」

 弥生は両腕を組んで首を捻る。

「別にみんなと永久のお別れになるわけじゃないしね。それに古代課はやや定員オーバーの感も否めないし、これくらいの頭数の方が色々と気楽だわ」

「……奈良や平安に比べてアタシだけの方が御しやすいと思っていない?」

「……」

「なんでそこで無言になるのよ!」

「旧石器くんはどう思う? あれから考えは変わった?」

 縄文は旧石器に話を振る。しばらく黙っていた旧石器が口を開く。

「時の流れが進む以上、所属変更も致し方ないかと思う。それよりもだ……俺の名称を変更して欲しい! なんだ“旧”石器って! 俺にとっては今なんだよ!」

「あ~とうとうそこに気付いちゃったか……」

 縄文は片手で頭を抑えながら苦笑を浮かべる。

「気付くだろう! 大体お前は新石器って呼ばれていないし! 色々と不公平だ! 上に抗議してやりたい!」

「名称変更を認める代わりに所属変更を強引に進められるかもしれないわね」

 そう言って弥生が笑みを浮かべる。

「それでも構わない!」

「おお、相当な覚悟のようね……それなら……『氷河(ひょうが)』っていうのはどう?」

「なかなか響きは良いわね」

「いや、氷河期を前面に押し出されてもな! 暖かい時期もあるぞ!」

「じゃあ氷河で申請してみましょうか」

「それ良いわね、面白そう」

「待て、縄文! 弥生! そうやって俺をいじる時だけ妙に気が合うのはやめろ!」

 会議室に旧石器の叫びが虚しく響く。

                  ♢

「……ということで白鳳くん、ひとつよろしく頼む!」

 時管局の別の会議室で古墳が白鳳に頭を下げる。

「……お断りします」

「なんでやねん!」

 古墳が頭を上げる。白鳳が冷静に話す。

「理由は複数個あります」

「一個じゃないんかい!」

「まず旧石器さんたちの所属変更は本決まりではないこと。その状態でそういった仮定の話を進めることに意義を感じられません」

「せやから本決まりになったとき話がスムーズに進むようにお願いしてんねん!」

 古墳の言葉に白鳳は首をゆっくりと左右に振る。

「もう一つ……空さんと白さんの処遇をどうするのかという重要な話がありますので……その件はしばらく先送りになるでしょう」

「あ、せやな、そういう話もあったわ……」

 古墳が頭を抱える。白鳳が話を続ける。

「そもそも……奈良さんと平安さんが納得するでしょうか?」

「納得せんやろうな。せやからこうして根回しをしとんねん」

「両者が手を組む可能性もあります。そうなると確実に天平さんと国風さんもそちらに付くでしょう。頭数で不利ですね」

「いやいや、それはないやろ。ありえへん、ありえへん」

 古墳が笑って片手を振る。

「最後に……」

「え? まだあんの?」

「率直に申し上げて……根本的に古代課リーダーとしての資質が不足しているかと思われます。申し訳ありませんが推薦することは出来ません」

「根本的に⁉ 酷ない⁉」

 ドアが開き、飛鳥が入ってくる。飛鳥は爽やかな笑顔で告げる。

「ご苦労様。三種の神器に関しては無事だということがきちんと確認出来たよ」

「お疲れ様です……このように重要な要件は飛鳥さまに回ってくることが多いです。上層部からの信頼の証です。以上のことを鑑みても……」

「も、もうええ! 分かった! ならせめて『大和』への名称変更運動に賛同してくれや! 何で“古い墳”やねん! わにとっては今やっちゅうねん!」

「そ、そう言われましても……急に話のベクトルが変わりましたね……」

「さっき廊下を通ったら似たようなことを言っている声が聞こえてきたな……」

 困惑する白鳳の傍らで飛鳥はいつものアルカイックスマイルを浮かべながら呟く。

                   ♢

「……そろそろ本題に入ってもらえますか? 色々と忙しいのです」

「あらら、随分とせっかちどすなあ……」

 奈良の言葉に平安は口元を隠して笑う。両者は平城京と平安京の中間あたりに位置するとある寺院で顔を合わせている。奈良の隣には天平が、平安の隣には国風が座っている。

「まあ、言いたいことは大体の見当はついています」

「へえ……さすがどすなあ。積み重ねた年輪の違いを感じますわ」

「たかが数十年くらいしか差はないでしょう……!」

 平安の物言いに天平がムッとした表情になる。国風が口を開く。

「まあまあ落ち着いて下さい。せっかくの綺麗なお顔立ちが台無しですわ」

「生憎だけど貴女たちと違って表情豊かなの」

「……私と姉さまが感情に乏しいとでも言いたいのですか?」

「どのように受け取ってもらっても構わないわ」

「……」

「……」

 天平と国風が静かに睨み合う。平安がポンポンと両手を叩く。

「はいはい、そこまでどす。ここまでわざわざにらめっこをしにきたわけではありまへん……それではお考えを伺いたいのですが?」

 平安は小首を傾げて奈良に問う。奈良はゆっくりと口を開く。

「……貴女が古代課のリーダーの座にこだわっているのは意外でした」

「誰しもそれぞれ相応しい地位というものがあります。そこに就きたいと考えるのは極めて自然なことどす……違いますか?」

「では貴女の補佐が私の相応しい地位ということですか?」

「補佐ではなく、良き相談相手になって頂けたらと思っております」

 平安の発言に奈良は苦笑する。

「物は言いようですね……こちらにメリットは?」

「千年王城は伊達ではありまへん……他の課、つまり下の世代との強いパイプがあります」

「それだけじゃ弱いわね……奈良姉さま、帰りましょう」

「……京の都には立派なイケメンはんがようさん訪れます。良ければ私たちの方からその方たちをご紹介させて頂いても……」

「今後ともよろしくね」

「天平⁉ なんという変わり身の速さ……」

 天平の掌返しに奈良が驚く。話はまとまり奈良たちは去った。平安がニヤリと笑う。

「『南都北都の和議』成立……正に時代が動きました。これで飛鳥はんを出し抜けます」

「はて、どなたか大事な方を忘れているような……まあ、別に気にしないでいいですわね」

 国風は考えを早々に打ち切り、平安と微笑み合う。

                  ♢

「そういえば平よ、平安さまと奈良さまが同盟を結んだらしいぞ」

「源……お主の情報網はどうなっているのだ? そんなこと我はとうに知っている」

「ね、念の為に確認をしたまでだ! ところでどうだ? 我々も手を組むというのは……」

「お主がどうしてもというのならな」

「な、何故に我が頭を下げなければならないのだ!」

「あの~わざわざ現代課まで来て言い争いしないでもらえる?」

 平成がうんざりしたように源と平を見つめる。平が頭を下げる。

「す、すまない」

「今のやり取りを聞く限り、また融合についてのご相談?」

「「融合なんか二度とごめんだ!」」

 源と平の声が揃う。両者が顔を合わせる。源が苦笑する。

「珍しく意見が合ったな」

「そうだな……平成、今日のところは失礼する」

「あ、行っちゃった……なんだったんだよ……」

 平成は後頭部をぽりぽりと掻く。令和がデスクワークをしながら呟く。

「どうせまた平成さんが妙なことをしたのではないですか?」

「『新時代の誕生にご興味はありませんか?』ってSNSで宣伝してみただけだよ……」

「妙なことをしているじゃないですか⁉ 訪れた方々にあの奇妙奇天烈摩訶不思議な融合の技を教えるのですか? どうするのです? 『鎌戸』時代とかが誕生してしまったら?」

「融合の技はすぐに解除されるからさほど問題はないよ」

「そうは言ってもですね……」

「互いの時代を見つめ直すのはウィンウィンな関係を築き上げるのに役立つと思うんだよ」

「それはそうかもしれませんけど……」

「令和ちゃんは?」

「え?」

「俺とのバディ活動を通じて、色々思うことがあったんじゃないの?」

「え、ええと……」

 平成が急に顔を近づけてきたため、令和の顔が少し赤くなる。

「ん? なんか顔赤くなってない? どわっ⁉ な、なんだよ急に……」

 令和が平成の顔を押しのけて声を上げる。

「時管局でもソーシャルディスタンスは徹底です!」

「現代課にまで持ち込まなくても良いんじゃないか? うん? 課長から通信だ」

「令和ちゃんと平成くん、頼みたいことがあってね……」

 令和と平成は声を揃えて課長からの通信に答える。

「「新たな時代、創りあげます‼」」

                  ~第一章完~



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(2022/08/17現在)

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