第3話(4) クッキー、土偶、貝塚にて。
文字数 2,463文字
「ふふっ、土偶ちゃん、気に入っちゃった?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが……」
令和は起き上がりながら『遮光器土偶 』をそっと置く。縄文が笑う。
「良かったらあげる?」
「い、いや、そういうわけには参りません……しかし、なんとも不思議なフォルムかつビジュアルをしていますよね……」
「実はこの遮光器土偶こそ、古代の宇宙飛行士の存在を示すものだったんだよ‼」
「……」
「ふふっ……」
突如叫んだ平成を令和は冷ややかに、縄文はにこやかに見つめる。
「い、いや、そこはお二方とも、『な、なんだってー!』って言ってもらわないと……」
「……なんでそんなことを言わなければならないのですか?」
「お約束だからだよ」
「そんなお約束知りませんよ」
「でもそういう説を聞いたことないか?」
「トンデモ説の類でしょう」
「じゃあ、この遮光器はどう説明する?」
平成は遮光器土偶の顔の部分を指差す。
「……北方に住む、イヌイットやエスキモーの方々が雪焼け防止の為に着けていた遮光器、スノーゴーグルに似ています。そこから遮光器土偶という名称がつけられました」
「むむう……」
「別に遮光器を着けているというわけではなく、ただ単に目の誇張表現だと考えられます」
「でっかい目ってことか、マンガやアニメに出てくるキャラみたいなもんか?」
「……近いものはあるかもしれませんね」
「俺の集めている美少女フィギュアもわりと目がデカいしな、くびれもあるし……」
平成が土偶の腰の部分を指差す。
「まあ、くびれていると言えばそうかもしれませんが……安産祈願や日々の安寧を祈念して作られたものだと言われています。愛でる意味合いで作ったわけではありませんよ」
「いいや、人形を愛でる趣味は古代からきっとあったはずだぜ!」
「何故、そう言い張れるのですか?」
「分からないかな~性癖ってものは脈々と受け継がれるんだよ」
「嫌な伝承ですね……結局のところどうなのでしょうか?」
平成に呆れながら令和は縄文に問う。
「う~ん、その辺りもご想像にお任せするわ♪」
縄文は遮光器土偶を手に取りながら微笑む。
(さっき脳内に語りかけてきたのは……いや、きっと夢でも見ていたのでしょう……)
令和は土偶を見つめながら静かに首を左右に振る。平成が尋ねる。
「令和ちゃん、まだ酔っぱらっているのか?」
「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
「それならそろそろお暇するか」
「そうですね」
平成と令和が立ち上がる。
「あらそう? それじゃあお見送りするわ。あ、悪いけどちょっと待っていてくれる?」
「え、ええ……」
縄文の問いに令和は頷く。
「よっと!」
「⁉」
縄文は石の上に大量のドングリやクルミを置き、別の石で割る。令和たちが驚く。
「ドングリがかなり多いですね……」
「ムラの外れに『貯蔵穴 』があるから、大量に保存することが可能なのよ」
「殻を割って出てきた実をすり潰して粉状にして……すった山芋や鶏卵に塩を加えて……」
「塩? このころ既に製塩が?」
「ええ、あったわよ……固まるまで手で混ぜ混ぜして……」
縄文は手際よく生地を作り上げる。令和がじっと見つめる。
「む……」
「生地を適当な大きさに分けて、熱した石の上で焼いて……はい、出来上がり!」
「こ、これは……」
「『縄文クッキー』よ!」
「ク、クッキーですか?」
「よく分からないけど、以前時管局に持っていたら、現代課の方にそう言われたわ」
「まあ、確かにクッキーに見えますが……」
「帰り道もお腹が空くでしょ? これを持っていきなさい。この小袋……『ポシェット』って言うんだっけ? これもお土産にあげるわ」
「あ、ありがとうございます……」
クッキー入りのポシェットを手渡された令和は戸惑いながらお礼を言う。平成が笑う。
「『ラッキー・クッキー・八代亜紀―』だな!」
「……今『デスノート』があれば平成さんの名前を迷わず書き込みますよ」
「ええっ⁉ そんなに気に障った⁉」
令和の言葉に平成は狼狽する。縄文が声をかける。
「……お待たせしちゃったわね、それじゃあ行きましょうか」
縄文たちは揃って住居を出る。
「……ムラにはワンちゃんがいましたね。狩猟の際には相棒に?」
「そうよ、落とし穴に上手く追い込んだりしてくれているわ」
「そうですか……ん? あれは……」
令和はムラの周囲にある場所に目を付ける。平成が答える。
「あれは『貝塚 』だ」
「大森貝塚などで有名なあの貝塚ですか! ちょっと、見てきてもいいですか?」
「ああ……」
令和が貝塚をじっくりと観察する。
「ふむ……貝がらがやっぱり多いですね。その他にも様々に生活廃棄物なども多いですが」
「こんなゴミ捨て場に興味があるの?」
「ええ、当時の生活状況について知ることが出来ますから……例えばこれ!」
令和は二つの欠片を拾って縄文に見せる。
「ああ、鏃 と釣針ね」
「前者は弓矢を使っていた証拠ですし、後者は言わずもがな、釣りをしていた証拠です」
「『丸木舟 』を造って、海などに乗り出しているわ」
「色々な動物や魚の骨だけでなく、植物の種子なども確認できる」
「平成さん、ということは?」
「すでにこの段階で植物栽培を行っていたということが伺いしれる」
「なるほど……」
「各地にある貝塚の研究で縄文さんの時期にはかなり高度な社会生活を営んでいるということが分かってきています」
「ふふっ、おちおちゴミも捨てられないわね」
平成の言葉に縄文は冗談めかして笑う。平成が令和に向かって呟く。
「消したかったけど、どうしても消せなかったとっておきのエロ画像や動画入りの古いハードディスクの山が築かれたら、そこはなに塚になるんだろうな……」
「エロ塚ですかね……せっかくですから平成さんも一緒に埋葬してあげますよ」
「ちょ、ちょっと待て、今のは冗談だ、何を持っている?」
「石を磨き上げて作った『磨製石器 』の一種、『石剣 』です。武具というよりは呪具ですが、平成さんをここに封印した方が良いのではないかと思いまして!」
「待て! 落ち着け! 令和ちゃん!」
平成の必死な叫びが貝塚にこだまする。
「い、いえ、そういうわけではないのですが……」
令和は起き上がりながら『
「良かったらあげる?」
「い、いや、そういうわけには参りません……しかし、なんとも不思議なフォルムかつビジュアルをしていますよね……」
「実はこの遮光器土偶こそ、古代の宇宙飛行士の存在を示すものだったんだよ‼」
「……」
「ふふっ……」
突如叫んだ平成を令和は冷ややかに、縄文はにこやかに見つめる。
「い、いや、そこはお二方とも、『な、なんだってー!』って言ってもらわないと……」
「……なんでそんなことを言わなければならないのですか?」
「お約束だからだよ」
「そんなお約束知りませんよ」
「でもそういう説を聞いたことないか?」
「トンデモ説の類でしょう」
「じゃあ、この遮光器はどう説明する?」
平成は遮光器土偶の顔の部分を指差す。
「……北方に住む、イヌイットやエスキモーの方々が雪焼け防止の為に着けていた遮光器、スノーゴーグルに似ています。そこから遮光器土偶という名称がつけられました」
「むむう……」
「別に遮光器を着けているというわけではなく、ただ単に目の誇張表現だと考えられます」
「でっかい目ってことか、マンガやアニメに出てくるキャラみたいなもんか?」
「……近いものはあるかもしれませんね」
「俺の集めている美少女フィギュアもわりと目がデカいしな、くびれもあるし……」
平成が土偶の腰の部分を指差す。
「まあ、くびれていると言えばそうかもしれませんが……安産祈願や日々の安寧を祈念して作られたものだと言われています。愛でる意味合いで作ったわけではありませんよ」
「いいや、人形を愛でる趣味は古代からきっとあったはずだぜ!」
「何故、そう言い張れるのですか?」
「分からないかな~性癖ってものは脈々と受け継がれるんだよ」
「嫌な伝承ですね……結局のところどうなのでしょうか?」
平成に呆れながら令和は縄文に問う。
「う~ん、その辺りもご想像にお任せするわ♪」
縄文は遮光器土偶を手に取りながら微笑む。
(さっき脳内に語りかけてきたのは……いや、きっと夢でも見ていたのでしょう……)
令和は土偶を見つめながら静かに首を左右に振る。平成が尋ねる。
「令和ちゃん、まだ酔っぱらっているのか?」
「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
「それならそろそろお暇するか」
「そうですね」
平成と令和が立ち上がる。
「あらそう? それじゃあお見送りするわ。あ、悪いけどちょっと待っていてくれる?」
「え、ええ……」
縄文の問いに令和は頷く。
「よっと!」
「⁉」
縄文は石の上に大量のドングリやクルミを置き、別の石で割る。令和たちが驚く。
「ドングリがかなり多いですね……」
「ムラの外れに『
「殻を割って出てきた実をすり潰して粉状にして……すった山芋や鶏卵に塩を加えて……」
「塩? このころ既に製塩が?」
「ええ、あったわよ……固まるまで手で混ぜ混ぜして……」
縄文は手際よく生地を作り上げる。令和がじっと見つめる。
「む……」
「生地を適当な大きさに分けて、熱した石の上で焼いて……はい、出来上がり!」
「こ、これは……」
「『縄文クッキー』よ!」
「ク、クッキーですか?」
「よく分からないけど、以前時管局に持っていたら、現代課の方にそう言われたわ」
「まあ、確かにクッキーに見えますが……」
「帰り道もお腹が空くでしょ? これを持っていきなさい。この小袋……『ポシェット』って言うんだっけ? これもお土産にあげるわ」
「あ、ありがとうございます……」
クッキー入りのポシェットを手渡された令和は戸惑いながらお礼を言う。平成が笑う。
「『ラッキー・クッキー・八代亜紀―』だな!」
「……今『デスノート』があれば平成さんの名前を迷わず書き込みますよ」
「ええっ⁉ そんなに気に障った⁉」
令和の言葉に平成は狼狽する。縄文が声をかける。
「……お待たせしちゃったわね、それじゃあ行きましょうか」
縄文たちは揃って住居を出る。
「……ムラにはワンちゃんがいましたね。狩猟の際には相棒に?」
「そうよ、落とし穴に上手く追い込んだりしてくれているわ」
「そうですか……ん? あれは……」
令和はムラの周囲にある場所に目を付ける。平成が答える。
「あれは『
「大森貝塚などで有名なあの貝塚ですか! ちょっと、見てきてもいいですか?」
「ああ……」
令和が貝塚をじっくりと観察する。
「ふむ……貝がらがやっぱり多いですね。その他にも様々に生活廃棄物なども多いですが」
「こんなゴミ捨て場に興味があるの?」
「ええ、当時の生活状況について知ることが出来ますから……例えばこれ!」
令和は二つの欠片を拾って縄文に見せる。
「ああ、
「前者は弓矢を使っていた証拠ですし、後者は言わずもがな、釣りをしていた証拠です」
「『
「色々な動物や魚の骨だけでなく、植物の種子なども確認できる」
「平成さん、ということは?」
「すでにこの段階で植物栽培を行っていたということが伺いしれる」
「なるほど……」
「各地にある貝塚の研究で縄文さんの時期にはかなり高度な社会生活を営んでいるということが分かってきています」
「ふふっ、おちおちゴミも捨てられないわね」
平成の言葉に縄文は冗談めかして笑う。平成が令和に向かって呟く。
「消したかったけど、どうしても消せなかったとっておきのエロ画像や動画入りの古いハードディスクの山が築かれたら、そこはなに塚になるんだろうな……」
「エロ塚ですかね……せっかくですから平成さんも一緒に埋葬してあげますよ」
「ちょ、ちょっと待て、今のは冗談だ、何を持っている?」
「石を磨き上げて作った『
「待て! 落ち着け! 令和ちゃん!」
平成の必死な叫びが貝塚にこだまする。