第8話(4) ギザギザコインの子守唄
文字数 2,140文字
「ライバル関係と言えば、むしろあの二人の方じゃないのかしら?」
「え?」
「まあライバルと言うと語弊があるかもしれないけど……」
「どなたたちのことをおっしゃっているのですか?」
令和が問う。国風が答える。
「804年に同じタイミングで唐に渡った……」
「ああ……」
「それは俺も知っているぜ」
「珍しいですね」
「『ヒカキンとはじめしゃちょー』だろ?」
「『空海 と最澄 』です……」
令和が頭を抑える。平成が首を傾げる。
「あれ? そうだっけ?」
「そうですよ……なんでユーチューバーが遣唐使になっているのですか……」
「『遣唐使船に乗ってみた』って動画上げてなかったっけ?」
「どんな動画ですか……すぐには帰ってこれませんよ」
「そうなの?」
「ええ、最澄は805年、空海は806年に帰国。最澄は『比叡山延暦寺 』を拠点に『天台宗 』を、空海は『高野山金剛峰寺 』を拠点に『真言宗 』を、それぞれ開宗しました」
「へえ……」
令和の説明に平成は頷く。平安が補足する。
「空海……『弘法大師 』さまの学んできた『密教 』が大層流行しましたどすなあ」
「バズっちゃったか……」
「バ、バズ……?」
「空海さんもボイパとか得意だったのかな?」
「ボイパ……?」
国風が首を傾げる。令和がため息まじりに呟く。
「平成さんの言うことは気にしないで下さい」
「それもそうね」
「まあ元々あまり気には留めてまへんけど」
「酷くない?」
国風と平安の言葉に平成は悲しそうな顔を見せる。令和が話題を変える。
「ライバルと言うと……この頃は藤原氏の他氏排斥の動きもいよいよ活発化してきますね」
「承和の変、応天門の変を経て、887年から888年にかけて『阿衡 の紛議 』が起こりましたな」
平安が頷く。平成が令和に尋ねる。
「どんなことだっけ?」
「簡単に言えば、『宇多天皇 』からの命令に容易に従わない姿勢を見せて、藤原氏の権力を誇示したのです」
「へえ、それはまたおそれ多いことだな……」
「その後、藤原氏の専横に反感を抱いた宇多天皇は『菅原道真 』を抜擢します」
「おおっ! 学問の神様だな!」
「ええ、ですがその道真も901年の『昌泰 の変』で失脚し、『大宰府 』に左遷されます」
「そんな……」
「しばらく間が空きますが、969年に『安和 の変』で藤原氏はライバルと言える他氏を完全に排斥することに成功します」
「おお、これで怖いものなしだな」
「ですがその後は、藤原氏同士での権力争いに移行します」
「争い好きだな!」
平成が思わず声を上げる。平安が目を細める。
「摂関の地位を巡っての争いどしたなあ……」
「『鉄拳』? 確かに独特のポジションを築いてはいるが……」
「誰がピン芸人さんの地位を巡って争うのですか……」
令和がため息をつく。国風が代わって説明する。
「天皇の政務を補佐する役職、『摂政 』と『関白 』略して『摂関 』……10世紀後半から11世紀後半にかけて、その役職を藤原氏の方々が独占されましたわ……」
「約100年も……」
「まさにこの世の春を謳歌されておりましたなあ……ねえ、国風?」
「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」
「1018年に『藤原道長 』が詠んだ『望月の歌』ですね」
「『友達の唄』?」
「それは『ゆず』の曲でしょう……そのようなポップなものではありません」
「ではどのようなものなんだ?」
「この世界は自分のためにあるようなものだ。満月のように欠けたところがない……現代語にざっと訳すとこんな感じですかね」
「ご、傲慢だな……」
令和の説明に平成が戸惑う。
「それだけ比類なき権勢を手中に収めたということでしょう……これを見て下さい」
令和は10円硬貨を取り出して平成に渡す。
「うん、タネも仕掛けもないな」
「手品をするわけではありません……裏面をご覧下さい」
「裏面?」
「そこに描かれているのが、国宝の『平等院鳳凰堂 』……1052年に道長の子、『藤原頼通 』が建立した寺院です。厳密に言うと、道長の別荘を作り替えたものですが」
「こ、これを……⁉」
「権力の誇示とは違う意味合いで建立したものですが、それだけの建築物を残すことが出来たということで、当時の藤原氏の権勢ぶりを伺いしれるものでしょう」
「違う意味合いとは?」
「当時はお釈迦さまの没後から約千年が経過し、仏教の教えが廃れて滅び、乱世がやってくるといういわゆる『末法思想 』が流行していました」
「皆さん揃って現世の不安から逃れて来世での幸福を願ったものどすなあ……」
令和の説明に平安がうんうんと頷く。
「『極楽往生 』を望んだものよね……」
国風がふむふむと頷く。平成が呟く。
「『ノストラダムスの大予言』みたいなものが定期的に流行るんだな」
「少し違うような気もしますが……」
令和が苦笑する。国風が10円硬貨を手に取ってまじまじと見つめる。
「現代にも伝わっているとは何だか誇らしいことね……」
「まあ、見事な建物どすからなあ」
国風の呟きに平安が微笑みを浮かべる。国風が令和たちに尋ねる。
「さぞかし、この銭貨は価値のあるものなのでしょう?」
「え? えっと……」
「側面がギザギザしているもの、『ギザ10』は通常の何倍もの価格で取引されています」
(へ、平成さん、珍しく良いことを言う!)
令和はほっと胸をなで下ろす。
「え?」
「まあライバルと言うと語弊があるかもしれないけど……」
「どなたたちのことをおっしゃっているのですか?」
令和が問う。国風が答える。
「804年に同じタイミングで唐に渡った……」
「ああ……」
「それは俺も知っているぜ」
「珍しいですね」
「『ヒカキンとはじめしゃちょー』だろ?」
「『
令和が頭を抑える。平成が首を傾げる。
「あれ? そうだっけ?」
「そうですよ……なんでユーチューバーが遣唐使になっているのですか……」
「『遣唐使船に乗ってみた』って動画上げてなかったっけ?」
「どんな動画ですか……すぐには帰ってこれませんよ」
「そうなの?」
「ええ、最澄は805年、空海は806年に帰国。最澄は『
「へえ……」
令和の説明に平成は頷く。平安が補足する。
「空海……『
「バズっちゃったか……」
「バ、バズ……?」
「空海さんもボイパとか得意だったのかな?」
「ボイパ……?」
国風が首を傾げる。令和がため息まじりに呟く。
「平成さんの言うことは気にしないで下さい」
「それもそうね」
「まあ元々あまり気には留めてまへんけど」
「酷くない?」
国風と平安の言葉に平成は悲しそうな顔を見せる。令和が話題を変える。
「ライバルと言うと……この頃は藤原氏の他氏排斥の動きもいよいよ活発化してきますね」
「承和の変、応天門の変を経て、887年から888年にかけて『
平安が頷く。平成が令和に尋ねる。
「どんなことだっけ?」
「簡単に言えば、『
「へえ、それはまたおそれ多いことだな……」
「その後、藤原氏の専横に反感を抱いた宇多天皇は『
「おおっ! 学問の神様だな!」
「ええ、ですがその道真も901年の『
「そんな……」
「しばらく間が空きますが、969年に『
「おお、これで怖いものなしだな」
「ですがその後は、藤原氏同士での権力争いに移行します」
「争い好きだな!」
平成が思わず声を上げる。平安が目を細める。
「摂関の地位を巡っての争いどしたなあ……」
「『鉄拳』? 確かに独特のポジションを築いてはいるが……」
「誰がピン芸人さんの地位を巡って争うのですか……」
令和がため息をつく。国風が代わって説明する。
「天皇の政務を補佐する役職、『
「約100年も……」
「まさにこの世の春を謳歌されておりましたなあ……ねえ、国風?」
「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」
「1018年に『
「『友達の唄』?」
「それは『ゆず』の曲でしょう……そのようなポップなものではありません」
「ではどのようなものなんだ?」
「この世界は自分のためにあるようなものだ。満月のように欠けたところがない……現代語にざっと訳すとこんな感じですかね」
「ご、傲慢だな……」
令和の説明に平成が戸惑う。
「それだけ比類なき権勢を手中に収めたということでしょう……これを見て下さい」
令和は10円硬貨を取り出して平成に渡す。
「うん、タネも仕掛けもないな」
「手品をするわけではありません……裏面をご覧下さい」
「裏面?」
「そこに描かれているのが、国宝の『
「こ、これを……⁉」
「権力の誇示とは違う意味合いで建立したものですが、それだけの建築物を残すことが出来たということで、当時の藤原氏の権勢ぶりを伺いしれるものでしょう」
「違う意味合いとは?」
「当時はお釈迦さまの没後から約千年が経過し、仏教の教えが廃れて滅び、乱世がやってくるといういわゆる『
「皆さん揃って現世の不安から逃れて来世での幸福を願ったものどすなあ……」
令和の説明に平安がうんうんと頷く。
「『
国風がふむふむと頷く。平成が呟く。
「『ノストラダムスの大予言』みたいなものが定期的に流行るんだな」
「少し違うような気もしますが……」
令和が苦笑する。国風が10円硬貨を手に取ってまじまじと見つめる。
「現代にも伝わっているとは何だか誇らしいことね……」
「まあ、見事な建物どすからなあ」
国風の呟きに平安が微笑みを浮かべる。国風が令和たちに尋ねる。
「さぞかし、この銭貨は価値のあるものなのでしょう?」
「え? えっと……」
「側面がギザギザしているもの、『ギザ10』は通常の何倍もの価格で取引されています」
(へ、平成さん、珍しく良いことを言う!)
令和はほっと胸をなで下ろす。