第参話 接近
文字数 3,296文字
「静 。無事に会えたようですね。こちらで色々と同じ教室で勉学できるように手回しましたしたけど」
「はい。壱与 様、ありがとうございました。辰時 様は守ってくださいました」
「それは良かったです。彼の担当は私たちではないのですが真っ直ぐ正義感のある男性として育っていることは確認していました。初日に垣間見えましたね」
「とても嬉しいです」
私は、心の中に広がる温かな想いから胸の中心辺りで左拳を右手で優しく包みながら返事をした。
そう会話していると綺麗な気高い濃紫の光が広がり、そこから女性が現れた。
「日向 様!!」
久しぶりにお会いする方に向かい正座をし礼をする。
「静、構いませんよ。それより初日の様子を見ていたかったのだけど色々と忙しいので許してね」
「勿体ないお言葉でございます」
日向様は、壱与様の師匠様なのです。
遥か古代の日本。地上の大和の國 で日向様がご活躍され、その後継者に指名されたのが壱与様とお聞きしている。
「日向様。わざわざ御出 くださったのですね。ありがとうございます」
壱与様も正座し礼をとる。
「いいのよ。今回の件は天照 様のご意向ですからね。私も壱与に任せっきりだったから初日くらいはと思って来たのよ。それより辰時は、ちゃんと育っていたようで安心しました。静は私たちが三年間鍛えてきたけれど彼は未だに何も知らない状態。そろそろアチラも彼の接触してくるでしょう。静、何度も伝えていますがあなた方は天照様よりの使命を帯びています。これから大変だと思いますが二人で、そして助けとなる人たちの力もかり見事、使命を果たしてくださいね」
「はい! この命にかけ使命を果たして参ります」
「いい返事ね。でも、せっかく発達した文明の今世ですから有意義に過ごしてください。ちゃんと辰時と再会できた訳だし大丈夫だと思うけど、高天ヶ原 からも霊的には支援しますからね」
「はい!」
「もう次に行かなくては。壱与、静、私は行くわね」
「わざわざ御出 くださり、感謝申し上げます」
壱与様がそのお言葉を聞き終えると同時に、また神聖なる濃紫の光の中に日向様はお消えになられた。
日本神道では最高位に格式の高い色は濃紫なのです。
そのため冠位十二階の最高位の色も紫。
だから日向様も、壱与様も、地上でいう巫女装束の緋色部分が濃紫色の衣装でいらっしゃる。
私は、こちらでの修行中は緋袴 の巫女装束でしたが、今回の修行の一区切りの際にほぼ同じ衣装を授かりました。
巫女装束の上に羽織る千早 も新しく、紫色の刺繍のついたものを賜りました。
なんと畏 れ多いことでしょう。でも光栄なことだと今は自信となっています。
お二方は金の刺繍 があるので、まったく同じではないのだけど。
「それでは壱与様。私はまた地上に戻ります」
「わかりました。ちゃんと見守っていますからね。頑張って」
「はい! それでは失礼いたします」
挨拶してから自ら柏を打ち、私は目を覚ました。
まだ新鮮な風景のこの新しい家での朝を迎えたのです。
『それでは今日も学業に努めましょう。そのうち来る使命の日までは平和に』
そう思いながら私は洗顔を始めた。
***
「ふわあぁぁぁ」
大きなあくびで俺は目を覚ました。
『何か変な夢を見たような? 記憶が曖昧だ。まぁ夢だから当然か。さてメシ食って朝練に行こう』
そういつもと変わらぬ朝だった。
*
朝練を終えて教室に戻る。
すると、あの転校生が近寄ってきて、
「熱田さん。昨日はありがとうございました。あのことで私、とても救われました」
とお辞儀をされ、流石に照れてしまった。
「いいよ、そんなこと。俺はああいうのは許せん性格 なんで気にしないで」
そういって、そそくさと席に向かおうとした瞬間、頭の中に閃きがあり、
「あ、そうそう。伊勢さん。男子生徒から嫌がらせとか嫌な思いをさせられたら俺に言って。告げ口じゃない。ちゃんと配慮するから。俺、剣道部だからさ。強いんだぜ! 女生徒の場合は椿 さんを頼るといい。彼女は賢い善人だから大丈夫だよ」
彼女にだけ聞こえるように伝えた。
「はい。頼もしいです。その時には、よろしくお願いいたします」
嬉しそうにほほ笑み返事をしてくれた。
その瞬間、不思議だが彼女のことを昔から知っている気がした。
こういうのを既視感 と表現するのだろうか?
でも悟られていないだろう。多分……
「じゃあね」
そういって俺は自席についた。
「徹、おはよう」
「正義 、おはよう」
いつもと変わらぬ日々が始まる。
二年生になると、この学校では面白い授業が一年間だけだが始まる。
それは、ナント弓道なのだ。
弓道が目的で入学した訳ではないが、自宅から通学しやすい場所、そして見合う学力で選んだ。
それでも、弓道は楽しみだった。
「徹よ。弓道の授業はいつから始まるんだっけ?」
「なんだ? 来週だったと思うぞ。剣道一本じゃないのか?」
「いや。武道としては動と静と対極で面白そうだなっとね」
「それな! わかるぜ」
「気が合うな~」
「小学からの付き合いだしな」
そう、徹は小学三年生でクラスが一緒になって以来、仲良くしている親友だ。
「その前に、一時限目は数学か……」
「正義は、理数系苦手だもんな。文系は成績いいのにさ。良くこの学校に入学できたもんだ」
「努力したんだよ。あと文系科目で偏差値を稼いだ」
「そう、この学校の偏差値は五十九と高いのだよ。明智君」
「お前だれに話しかけているんだ? とうとうボケたか! 可哀そうに若年性認知症だなんて」
「憐 れむなよ!」
「さて授業の準備しようぜ」
「おうよ」
こうして数学の教科書やノートを取り出し授業に備えた。
教卓の方を見ると、自然にあの転校生が目に入る。
『しかし綺麗な髪だな。肌も綺麗な感じだし、そばかす勿体ないな。でも逆にチャームポイントなのかもな』
そうぼんやりと考えていると、数学担当の伊東 先生が入室してきた。
男子の室長である篠崎 くんが、
「起立」
なかなか良いボリュームでハッキリと号令をかける。
と始まり、やっと苦手な数学の授業が終わった。
休憩時間になると転校生の周りには、まだ女生徒が集まる。
『仲良くできている感じだな。椿 さんもいるし大丈夫だな』
その様子から感じた。
「どうした? 転校生を見ていたのか?」
徹は気を使って、俺にだけ聞こえるように聞いてきた。
「いや。昨日のこともあったから、上手くクラスに馴染めるかなって思ってた」
「流石だな。しかし、ホントお前さ。女子にあまり興味ないよな。結構もてるのに、全然その気がないってわかるから近づいてこないけど俺のところには、たまに女生徒から探りが入るんだぞ?」
「そうかそうか。それは、ありがたい」
「そんな感じだからさ、あいつ女性と付き合う気、まるでないからやめとけって言っといた」
「サンキュ!」
「そんなに嬉しいか? なんだ? 俺の知らぬところで女絡みで酷い目にあってトラウマでもあるのか?」
「そんなのないの知ってるだろ? 単に興味が湧かないだけだ」
「思春期男子のセリフじゃないな。まったく!」
「人の心配より、徹こそどうなんだよ。好きな人はいないのか?」
勿論、知ってて聞いている。
「なっ! 俺のことはいいんだよ。今は正義の話をしているんだ」
『話を逸らしたな。いい奴なんだし、それこそ意外にいけるかも知れんのにな……』
「ん? なんか思ったか?」
「いいえ。べっつにぃ?」
「最後の? はなんだよ」
俺はわざとらしく椿さんに視線を向ける。
「……正義さ。性格悪くなったんでねぇのか?」
徹の精一杯の抵抗だったのだろう。ここで引いてやるのが親友ってもんだ。
「それはおいて置いてだ、昨日の奴ら俺に対して敵対心見え見えなんだよね」
「あんなことしたからだ。まぁ正義が正しいんだけどさ」
「あんな奴らなんて放っておけばいいさ。どうせ俺に手出しなんかしてこねーだろうし、転校生の聞こえるところでは悪口は言わなくなっているからな」
『陰口は言っているかも知れんが、そこまでは介入する必要なんてない』
「まぁな、さて三時限目の準備でもするか」
「うむ。そうすんべ」
こんな感じで、今日は一日平和に終わった。
「はい。
「それは良かったです。彼の担当は私たちではないのですが真っ直ぐ正義感のある男性として育っていることは確認していました。初日に垣間見えましたね」
「とても嬉しいです」
私は、心の中に広がる温かな想いから胸の中心辺りで左拳を右手で優しく包みながら返事をした。
そう会話していると綺麗な気高い濃紫の光が広がり、そこから女性が現れた。
「
久しぶりにお会いする方に向かい正座をし礼をする。
「静、構いませんよ。それより初日の様子を見ていたかったのだけど色々と忙しいので許してね」
「勿体ないお言葉でございます」
日向様は、壱与様の師匠様なのです。
遥か古代の日本。地上の
「日向様。わざわざ
壱与様も正座し礼をとる。
「いいのよ。今回の件は
「はい! この命にかけ使命を果たして参ります」
「いい返事ね。でも、せっかく発達した文明の今世ですから有意義に過ごしてください。ちゃんと辰時と再会できた訳だし大丈夫だと思うけど、
「はい!」
「もう次に行かなくては。壱与、静、私は行くわね」
「わざわざ
壱与様がそのお言葉を聞き終えると同時に、また神聖なる濃紫の光の中に日向様はお消えになられた。
日本神道では最高位に格式の高い色は濃紫なのです。
そのため冠位十二階の最高位の色も紫。
だから日向様も、壱与様も、地上でいう巫女装束の緋色部分が濃紫色の衣装でいらっしゃる。
私は、こちらでの修行中は
巫女装束の上に羽織る
なんと
お二方は金の
「それでは壱与様。私はまた地上に戻ります」
「わかりました。ちゃんと見守っていますからね。頑張って」
「はい! それでは失礼いたします」
挨拶してから自ら柏を打ち、私は目を覚ました。
まだ新鮮な風景のこの新しい家での朝を迎えたのです。
『それでは今日も学業に努めましょう。そのうち来る使命の日までは平和に』
そう思いながら私は洗顔を始めた。
***
「ふわあぁぁぁ」
大きなあくびで俺は目を覚ました。
『何か変な夢を見たような? 記憶が曖昧だ。まぁ夢だから当然か。さてメシ食って朝練に行こう』
そういつもと変わらぬ朝だった。
*
朝練を終えて教室に戻る。
すると、あの転校生が近寄ってきて、
「熱田さん。昨日はありがとうございました。あのことで私、とても救われました」
とお辞儀をされ、流石に照れてしまった。
「いいよ、そんなこと。俺はああいうのは許せん
そういって、そそくさと席に向かおうとした瞬間、頭の中に閃きがあり、
「あ、そうそう。伊勢さん。男子生徒から嫌がらせとか嫌な思いをさせられたら俺に言って。告げ口じゃない。ちゃんと配慮するから。俺、剣道部だからさ。強いんだぜ! 女生徒の場合は
彼女にだけ聞こえるように伝えた。
「はい。頼もしいです。その時には、よろしくお願いいたします」
嬉しそうにほほ笑み返事をしてくれた。
その瞬間、不思議だが彼女のことを昔から知っている気がした。
こういうのを
でも悟られていないだろう。多分……
「じゃあね」
そういって俺は自席についた。
「徹、おはよう」
「
いつもと変わらぬ日々が始まる。
二年生になると、この学校では面白い授業が一年間だけだが始まる。
それは、ナント弓道なのだ。
弓道が目的で入学した訳ではないが、自宅から通学しやすい場所、そして見合う学力で選んだ。
それでも、弓道は楽しみだった。
「徹よ。弓道の授業はいつから始まるんだっけ?」
「なんだ? 来週だったと思うぞ。剣道一本じゃないのか?」
「いや。武道としては動と静と対極で面白そうだなっとね」
「それな! わかるぜ」
「気が合うな~」
「小学からの付き合いだしな」
そう、徹は小学三年生でクラスが一緒になって以来、仲良くしている親友だ。
「その前に、一時限目は数学か……」
「正義は、理数系苦手だもんな。文系は成績いいのにさ。良くこの学校に入学できたもんだ」
「努力したんだよ。あと文系科目で偏差値を稼いだ」
「そう、この学校の偏差値は五十九と高いのだよ。明智君」
「お前だれに話しかけているんだ? とうとうボケたか! 可哀そうに若年性認知症だなんて」
「
「さて授業の準備しようぜ」
「おうよ」
こうして数学の教科書やノートを取り出し授業に備えた。
教卓の方を見ると、自然にあの転校生が目に入る。
『しかし綺麗な髪だな。肌も綺麗な感じだし、そばかす勿体ないな。でも逆にチャームポイントなのかもな』
そうぼんやりと考えていると、数学担当の
男子の室長である
「起立」
なかなか良いボリュームでハッキリと号令をかける。
と始まり、やっと苦手な数学の授業が終わった。
休憩時間になると転校生の周りには、まだ女生徒が集まる。
『仲良くできている感じだな。
その様子から感じた。
「どうした? 転校生を見ていたのか?」
徹は気を使って、俺にだけ聞こえるように聞いてきた。
「いや。昨日のこともあったから、上手くクラスに馴染めるかなって思ってた」
「流石だな。しかし、ホントお前さ。女子にあまり興味ないよな。結構もてるのに、全然その気がないってわかるから近づいてこないけど俺のところには、たまに女生徒から探りが入るんだぞ?」
「そうかそうか。それは、ありがたい」
「そんな感じだからさ、あいつ女性と付き合う気、まるでないからやめとけって言っといた」
「サンキュ!」
「そんなに嬉しいか? なんだ? 俺の知らぬところで女絡みで酷い目にあってトラウマでもあるのか?」
「そんなのないの知ってるだろ? 単に興味が湧かないだけだ」
「思春期男子のセリフじゃないな。まったく!」
「人の心配より、徹こそどうなんだよ。好きな人はいないのか?」
勿論、知ってて聞いている。
「なっ! 俺のことはいいんだよ。今は正義の話をしているんだ」
『話を逸らしたな。いい奴なんだし、それこそ意外にいけるかも知れんのにな……』
「ん? なんか思ったか?」
「いいえ。べっつにぃ?」
「最後の? はなんだよ」
俺はわざとらしく椿さんに視線を向ける。
「……正義さ。性格悪くなったんでねぇのか?」
徹の精一杯の抵抗だったのだろう。ここで引いてやるのが親友ってもんだ。
「それはおいて置いてだ、昨日の奴ら俺に対して敵対心見え見えなんだよね」
「あんなことしたからだ。まぁ正義が正しいんだけどさ」
「あんな奴らなんて放っておけばいいさ。どうせ俺に手出しなんかしてこねーだろうし、転校生の聞こえるところでは悪口は言わなくなっているからな」
『陰口は言っているかも知れんが、そこまでは介入する必要なんてない』
「まぁな、さて三時限目の準備でもするか」
「うむ。そうすんべ」
こんな感じで、今日は一日平和に終わった。