第壱話 親睦を深めよう

文字数 3,584文字

「伊勢さん、俺とデートしてください!」
 目の前には目を丸くしている伊勢さんがいる。
 体育の授業の移動時間の際、
「今日、放課後の教室の残って欲しい」とメモを机の中に入れておいたのだ。

「熱田さん、いきなりなんですね」
 やっと伊勢さんが口を開いた。
「やっぱ、こういうのは男から行動すべきだと思った。その……まだ恋愛という感じではないのだけど、正直いって今まで不思議と君に惹かれている自覚はあった。だから、今後の共闘のためにも信頼関係を築いた方がいいと考えた」
 真っ直ぐ目を見て返事をした。

 伊勢さんが、ちょっと動揺している。
『そりゃ、そうだよな。今朝、夢でああいう話を聞いた翌日にコレだからさ』
 じっと返事を待つことにした。
 が! 長い!!
 女性をデートに誘ったことないし、告白したこともない。実際にはほんの数秒かも知れないけど精神的に感じた時間は、むちゃくちゃ長かった。

 頬をほんりと赤らめ、
「そうですね。えっと、その……よろしくお願いします」
 お辞儀までしてきた。
 そして、上げた顔には笑顔があった。

 だけど余裕がない俺は言葉を失っていた。
「あ、あの? 熱田さん? OKしたつもりなのですが聞こえていませんでしたか?」
 気を使ってくれたのだろう。

「い、いや。女性を誘うの初めてだったもんだから、返事までの時間が十分くらいに感じて余裕がない……」

「ぷっ」
 思わす笑いだす伊勢さん。
「そうだったのですね。聞こえていて良かったです。それにしても熱田さん、決めたら行動力凄いんですね」

「その、さっき話した通りにお互いの信頼関係がこれから大事だと思ったのと」
 そこで、もにょもにょになってしまった。

「私のことを気にしてくれていたことですか?」
 すっごい突っ込みキター!

「う、うん。なんていうか昨日の出来事で君が高天ヶ原からのもう一人の使者と知った、今朝、地獄霊を一緒に討伐していく話を聞いたのだけど、正直いままで不思議と気になっていた」
 素直に答えた。

「なんていうのか……ありがとうございます、嬉しいです」
 そんな返事だった。

「だから、あ、あの! 今度の土曜にでも、一緒に何処かに出掛けてくれないか?」
「は、はい! もちろんです」

「あ、ありがとう。こういうのは照れるね……ははっ」
「そうですね」
 二人して青春していた。まさか俺に突然、こんな日が来るとは思わなかった。

「じゃ、メッセージアプリのフレ登録してもらっていい? また連絡するから」
「はい。お願いします」
 こうして俺たちはフレ登録しあった。

「では、部活があるから俺いくね。伊勢さん、ありがとう」
 そう言い終えると恥ずかしいのもあって、さっさと剣道場に向かった。



『……熱田さん、予想外だったけど嬉しいな……やっぱり出会うのを楽しみにしていたのもあるのかしら。先日はほとんど話をしたことがないから嫉妬もしないと思ったけど、なんていうのか私、傲慢だけど自信があったのかも知れないわね』
 胸の中心あたりがほんのりと温かくなるのを感じていた。

***

正義(まさき)、遅いぞ!」
 部長から叱られてしまった。

「青木部長、申し訳ございません。以後、気を付けます」
 素直に詫びた。
「まぁ今後、気を付けてくれれば良い。後輩の手本になってもらわないとな!」
 日頃、遅刻しないせいもあって、あっさり許してもらえた。
 叱ったのは部長への立場があってのことだろうと推測できた。
「はい!」

「正義。遅かったな? ホント珍しい。先日は、遅くなるって聞いていたから良かったけど、今日は聞いてなかったしな」
 (とおる)が、もっともなことを言った。
『椿さんのときは徹に部活を遅刻すると伝えたが、今日は忘れたな……伊勢さんをデートに誘うことで頭がイッパイだった。俺、よゆーねーな』
「教室に忘れものがあったんだ」

「それにしては、遅かったじゃないか?」
『うっ……突っ込むなよ。空気読んでくれよー』
「忘れ物は、教室に行ったがなくって結局、体育館までいったからだよ」
『なんとか、お言い訳を考えれたけど、怪しまれなかったかな……』
「まぁ、いいけどさ。では、練習に入ろうぜ」
 俺は、ほっとした。

 部活帰りに本屋に寄って、東海ウォーなんたらという情報誌を購入した。
 もちろんデートプランを考えるためだ。
 夜、宿題を済ませ、(予習する余裕はないから)復習をしっかりして、風呂に入り寝るだけどなった。

 情報誌を見て、
『伊勢さんの好みもあるだろうし勝手に全部決めるものな』
 そう感じたが、
『いやいや、誘っておいてノープランって男らしくないな』
 悩んでいた。

『こういうときはAかBじゃなくて第三の選択のCを見つけるもんだな』
 母から、こういった知恵を日頃聞かされていて、自然にそう思えた。
『母さん、サンキュー』
 心の中で母に感謝すると、一階から母のくしゃみが聞こえてきて笑えた。
『ぶっ、噂をすればなんとやらだな。本当にくしゃみって出るんだ』
 そう思ったらリラックスでき、第三の選択を思いついた。
『伊勢さんは静岡から引っ越してきたけど、まだ三ヶ月くらいしか経っていない。椿さんと仲がいいけど一緒に遊びに行っているかは分からない』
 情報誌である程度、候補地を見つけておいて提案して伊勢さんの行きたいところに行く。これが第三の選択の結果だった。
『ウィンドショッピングで栄のオアシス21、白川公園の名古屋市博物館でプラネタリウム、名古屋港水族館、東山動物園、あとは名古屋駅のミッドランドスクエアシネマで映画』
 こんなもんかな?
『名古屋市博物館は、真ん丸な大きな球体の中にプラネタリウムがあるから、きっと驚くだろうし良いかもな。ではメッセージアプリをと』

―こんばんは。今、大丈夫ですか?―
 メッセージアプリの上にはフレ登録時に交わした、よろしくねのスタンプが二つ並んでいる。
 伊勢さんのスタンプは、先入観からお堅いかと思ったけど、めっちゃ可愛いアザラシくんだった。

 しばらくすると既読になる。
『返事こないな……』
 そう思っていたら返事がきた。
―こんばんは。はい、大丈夫です―

―俺は、あと寝るだけだけど伊勢さんは用事済んでる?―
―私も、あとは寝るだけですよ―

―そっか、それはよかった―
―はい―

―えっと土曜日のことなんですが、いくつか候補地をあげたので、その中から行きたいところを教えてもらっていいかな? もちろん、伊勢さんが行きたいところがあるなら優先するから言ってね―
―あまり、まだ名古屋は詳しくはないのでお任せします―

―椿さんたちとかとお出掛けしたりしないの?―
―していますよ。主に名古屋駅ですかね―

―名古屋って遊べるところが限られているから、そうなるね―
―椿さんとはスイーツを一緒に食べに行ったり、服を買いに行ったりですね―

―学校の外でも仲良しなんだね。良かったよ―
―心配いただきまして、ありがとうございます―

―それほどのことではないよ―
―いえ、気遣いを感じましたよ―

―そっか。そういうことにしておこう―
 そう返事をして、出掛ける候補地を伝えた。
 その結果、オアシス21でぷらぷらとして、プラネタリウムにいくプランとなった。

―では、集合どうしようか?―
―名古屋駅の金時計の近くのエスカレーター横なら椿さんとよく使います―

―名古屋から栄方面だと地下鉄使うけど良い?―
―はい。大丈夫です―

―じゃ、迷わないように、そこにしよう。時間は十時でいいかな?―
―はい。楽しみにしていますね―
 こうして初メッセージを終えた。

『金時計は、みんなが待ち合わせにしているから中々見つからないだよなー。だから、エスカレーター横か! あれ? エスカレーターの北側? 南側?』
 しまった……まぁ当日動けばいいっか。

***

 就寝すると、いつものように高天ヶ原。
『いつものように……か。当然になっているなんて不思議なんだけど慣れって凄いな』
 目の前の千葉先生が、歯をキラっと光らせていた。

「愛弟子よ! 女性の誘い方を教授しようと思ったが、やるなお主」
「先生にお褒め頂いて光栄です。でも、先生のアドバイスって時代遅れっぽいな」

「失礼な奴だな。ちゃんと地上の情報がとっておる! ちゃんと名古屋の地理も見ておいたのだぞ!」
「そうだったのですか! これは失礼しました」

「うむ。素直が一番だ。では、今後は一層厳しい修行としよう。正義、天翔を抜け」
「え? 木刀でないのですか?」

「今後は真剣での修行だ。地獄霊は手加減など、しれくれんからな」
「かしこまりました! よろしくお願いいたします」
 剣道の試合前のようにお辞儀で答えた。

***

 朝、起きると体中に赤い線が入っていた。
『先生のモードが変わった。本気の真剣勝負になっていた。それでも、思いっ切り手加減されているから赤い線で済んでいるけど、これから本当に地獄霊と戦えるのだろうか?』
 一抹の不安を感じた。
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