第壱肆話 結界

文字数 3,638文字

 その女性を見ると、伊勢さんとは分かったがメガネもしていないし、そばかすもなかった。
 そして、なにより神々しい!
「え? い、伊勢さん?」
「はい、伊勢です。熱田さん」
 躊躇(ちゅうちょ)なく返事があった。

「な、なんで伊勢さんが狭間に……あ!」
 聞いている最中に自ら答えに行きついた。
「高天ヶ原の天照大神からの使いと言うのは、伊勢さんだったんだね」
「そうです。こうしてご挨拶するのは初めてですね。熱田さん」

「伊勢さんは、俺のことを知っていたりした?」
「はい。存じていました」

「いつから知っていた?」
「三年以上前から存在は知らされていました。実際にお会いしたのは転校したからですよ」

「え? そんなに前から?」
「はい。私が中学生になって、しばらくしてから高天ヶ原に呼ばれ修行をしておりました」

『!!』
 驚いた。俺は高校二年になってからだというのに彼女は中学生になってからだと言う。

「伊勢さん、メガネもそばかすもないから一瞬わからなかったよ」
「霊体ではメガネがなくともハッキリと視えますし元々、伊達メガネでした。そばかすは自分で描いてました」

「へ? なんで?」
「色々と男子が寄ってきたので、できるだけ目立たないようにとしていました。それよりも熱田さん、椿さんをこれからどうされるのですか?」
「そ……そうだったのか……。椿さんのことは天界の先生からは考えろと言われていたけど、結局どうして良いか思いつかなかった。そういった技は教えてもらってないんだ。だから椿さんに、また辛くなったら言ってもらってコレを繰り返そうと考えてた」

「そうですが、それでは出しゃばることにはなりませんね。私が行います」
 そう話し終えると、伊勢さんはとても優雅な動きで椿さんの周りを舞ながら一周すると、
「結界の舞!」
 凛とした声を発する。
 次に、柏手を時計回りに十一回打ち、最後に胸の中心で十二回目を打った。
 すると、椿さんの上の方から金色(こんじき)の光が彼女に降り注ぐ。
 俺は、唖然とその光景を見ているだけだった。
 金色の光が消えると、椿さんの周りに金色のオーラが残り彼女を守っているようだった。
「これで結界を作りました。椿さんの意思で受け入れれる方の好意は結界を無視しますが嫌がっている方からは結界が弾くようになりました」

「凄い! 凄いよ!! 伊勢さんは神楽を舞うんだね。剣道場のあのときに助けてくれたのも伊勢さんなんだよね?」
「はい。助太刀いたしました」

「では何故、あのまま去ってしまったの? あのときに挨拶できたよね?」
「あのときは、まだ高天ヶ原からの許可が出ていませんでした。今朝がた、今回の件を知らされたと同時に顔を合わせても良いと許可がでました」

「そういうことだったのか! 先生たちが隠していたことは伊勢さんのことだったのか……」
 そう話していると、伊勢さんの身体(霊体)がブレだした。
 そして、俺自身も何故かブレだしていた。

「なんだ? 伊勢さんがブレているように見える」
「私からも熱田さんがブレて見えます」
 二人で何が起こっているのか、分からなかった。
「伊勢さんも、何故か分からない?」
「はい。存じませんが悪いことではないとだけ分かります」

 その言葉に安心して、しばらく様子を見ていると、二人の身体(霊体)が分身したようで横にもう一人現れた。
 俺の横にもだ。
 伊勢さんの横には緋色の巫女装束の女性、俺の横には戦国時代の男性が。

「静! やっと会えたね」
 俺はその声にびっくりして横の男性を見る。顔は俺とそっくりだ!

「はい。辰時(たつとき)様!」
 驚いたことに巫女装束の女性は伊勢さんとそっくりさんだった。

『辰時! 俺の戦国時代の魂!』
 ぼーぜんと見ていると二人はお互い近づいて、そして抱き合った!

「お会いしとうございました」
 静と呼ばれた女性がうれし泣きをしている。
「拙者も会いたかった! 静を嫁にできず無念の死を遂げたが、これで報われる」

『え? 嫁に? 婚約していたのか!?』

「これから、お互い協力していこう!」
「はい! 辰時様とずっと一緒に居られますね」
 するとお互い涙しながら接吻を交わした。

『!! ちょっと待ってくれ。俺と伊勢さんのそっくりさんが抱き合ってキスしているのを見ると、むちゃくちゃ照れる』
 二人の姿が金の粉に変わっていき、俺と伊勢さんの身体(霊体)の中に吸収されていった。

 俺と伊勢さんはしばらく呆然としていた。

「いや。これは驚いたね。辰時のことは聞いていたけど婚約者の話は知らなかったよ」
「私は知らされていましたが、姿を見るのは初めてでした。こんな奇跡が起こるなんて……」
 伊勢さんは感動している。

 しかし、しばらく時間が経つとお互い気恥ずかしくなってきた。
「なんだか照れるね……」
「……はい。私も穴があったら入りたいです」
 日頃はクールな彼女が、恥ずかしそうにしているのは新鮮だ!

 俺も恥ずかしいし、話題を変えよう!
「えっと、高天ヶ原の神々からもう一人、天照大神からの使命を帯びた人がいると今朝聞いたばかりだけど、今後は協力して地獄霊退治を行う認識でいいのかな?」
「はい。私はずっとそうお聞きしておりました」

「そ、そっか……じゃぁ。えっと、今後ともよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「じゃ、現世に戻ろうか?」
「はい」
 そうして俺は、大きな柏手を打った。



 目の前の椿さんは、ポカーンとした表情のままだった。

「椿さん、終わったよ」
 そう告げると、椿さんの表情が驚きに変わった。
「え? もう終わったの?」

「うん」
「熱田くんが、朱雀・玄武・白虎っと四方位の霊獣の名前を言い始めて手を叩いたと思ったら、もう終わり?」

『え? あぁ、地上時間にすると数秒の出来事だな』
 時間の流れが地上と狭間では違うのだ。

「そう、終わり。ちょっと陰陽ぽかったでしょ。御まじない」
「そんなこと習ってたんだね」

「ま、まぁね」
 あまり突っ込まれると答えられないからやめて……

「面白いものが見れました。熱田さん、変わった趣味をお持ちなんですね。ちょっと驚きましたが、未来さんに触れていませんでしたし御まじないが効くといいですね」
 伊勢さんがフォローに入ってくれた。サンキュー!

「そう言われると、すっごく身体が軽いわ! 肩も本当に楽になった。熱田くん、凄いんだね。実家が神社だったりする?」
「いや、普通のサラリーマン家庭だよ」

「そうなんだ。法力とかあるのかもね。陰陽師かっこいいじゃん!」
「あははは、ありがとう。さて時間取らせちゃったね。お互い部活あるから、解散しよっか」

「そうだね。今日はとっても調子がいいから、バシバシ的に当てれそう!」
 椿さんは、とても嬉しそうにしている。
 早速、机と椅子を戻して部屋から出る。 
 その際、伊勢さんからこっそり次のことを聞かされ、あちゃーと思った。
「狭間ではコチラの物質は関係ないので机と椅子を移動させる必要なかったですよ」

『そりゃ、そうだよな……まだまだ慣れてないんだな……』

***

 こうして無事に夜を迎え、眠りに就く。
『ん? 今日は初めてみる大きな社が前にあるな……』
 そう考えていると隣に気配がしたので見てみると伊勢さんだった。
 天界だからメガネもそばかすもない顔で、あの神楽装束をまとっていた。

「伊勢さん!」
 伊勢さんも驚いていた。
「え? 熱田さん?」
 二人で驚いていると、社から声が聞こえてきた。

正義(まさき)、中に入ってきなさい」
(しず)、一緒に中で御出でなさい」
 日本武尊の声と初めて聞く女性の声だった。

 二人で中に入っていくと左側には男性たちが、右側には緋色の巫女装束の女性たちが並んで座っていた。
 その中を奥へを進み、最奥の部屋のふすまを開けると神々が揃っていた。

 部屋の真ん中には祭壇があり、その左側の一段高いところには天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、右側の一段高いところには女性神が座っておられた。
 そして日本武尊と千葉先生と神々しい二人の女神もおられた。

 中に入り、ふすまを閉め正座して座る。

「御中主神、お久しぶりでございます」
 頭を畳までつけ挨拶をした。

 伊勢さんも同様にし、
「天照様、ご無沙汰しております」
 そう挨拶していた。

『天照大神! そうか、そうだよな。日本神道の二柱神が揃っているんだ!! ん? 最高神が揃っているのに真ん中に祭壇?』
 感動とともに疑問も湧いた。

 その思考が伝わったのだろう、天之御中主神が、
「正義。お主は竹之内文書(たけのうちもんじょ)というのを知っておるか?」
 そうお聞きしてきた。

「いえ、存じません」
 素直に答えた。

「我と天照は日本神道の最高神となっているが、この日本という國を建國した神は天御祖神(あめのみおやがみ)と呼ばれておる。我々より高き天界の神がおられるのだ」
 衝撃的なお言葉だった。
「今はこの天照と御中主とで日本を護り導いていますが、更に親神様がいらっしゃるのですよ」
 天照大神も同様のご意見を述べられた。

「そうでございましたか! この先、忘れないようにいたします」
 またも畳の頭を付けた。
 隣の伊勢さんも同様にしていた。
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