第拾壱話 ダブルデート
文字数 4,647文字
あの寝不足の週を過ぎ、テスト期間に突入。
懸念していた立脇家には何も起きず、今日無事に終了した。
「やっと、終わったぁぁぁ」
クラスのみんなが一斉に同じ声を上げた。
明日は、土曜日。更に解放感が重なる。
「徹、お疲れさん」
「正義 もな。今回のテストの手応えは?」
「いつもと変わらんかな。いや、少し悪いか……徹は?」
「さして順位は変わらんと思うけど、今回は少し良い感じだ」
「そうかそうか! それならご褒美をあげよう」
「おぉぉ! いいね。何くれるんだ?」
「明日の土曜日、暇だよな? どうせ」
「どうせは余分だ!」
徹が、ちょっと拗 ねている。
『ふふっふ。何も知らぬ友よ。明日、驚くぞ~』
「じゃ、明日の九時半に名古屋駅のナナちゃん人形に集合な」
「へ? どこ行くん?」
「秘密だ。だが、少しオシャレしてきな。後は秘密だ。明日を楽しみにするがいい」
「うわぁ、何となく嫌な予感がするな……まぁいいさ。付き合ってやろう!」
親友の誘いを無碍にはできないとの感じで引き受けた徹……しめしめ。
ちなみにテスト週間も高天ヶ原での修行は変わらずあった。
地獄霊にはテストなど関係ないのだ。
***
そして、翌日の土曜日。
ナナちゃん人形の辺り。
「正義、待たせたな。ホント、どこ行くんだよ。大須のメイド喫茶とかか!?」
「ほぅ、それも良いかもな。一度は行ってみるものいいな」
「なんだ、大須じゃないのか」
「オシャレしてこいと言ったじゃないか。大須にオシャレして男二人で出歩く趣味はないぞ」
大須……上前津。そこは東京で言えば秋葉原にあたる。まったくもって比較にもならん小さい規模だが……
「ちょっと地下街、ふらつくか」
「なんだ? ミッドランドで映画でも観るんか?」
「いや。違うが、たまには良いだろ?」
「まぁ、良いんだけどな。でも部活もあったから、こうして正義と出掛けるのは久しぶりだな」
「だな」
地下街に潜り、サンロードからユニモールを経由してゲートタワーまで移動。
時計を見ると、九時五十分。
『そろそろ、いいか』
そこで地上に上がり、金時計を目指す。
「ん? 地上に出るんか? ゲートタワーに行くかと思った」
「気のままに移動しているだけだよ」
「ふ~~~ん」
『ふふっふ、徹。何も知らぬ君は可愛いぞ!』
これからのことを考えると、ウキウキしてきた。
金時計の辺りのエスカレータの北側を背にして止まる。
「ん? 誰か来るんか?」
「いや、ちょっと休憩」
「こんな混んでるところで休憩せんでもいいじゃん」
「いや、ここなら背中をもたれれるからな」
『??』
流石の徹でも、頭に?マークはついたたしい。
メッセージアプリで伊勢さんに到着の連絡をすると、―こちらも到着しました―との返事があった。
「徹、移動しよ」
「おう」
そして、エスカレータの南側に移動した。
『おぉぉ! 伊勢さん、今日はポニーテールだぁ! めっちゃ可愛い。この前はジーンズだったけど今日はロングスカートなんだ』
今回も大人し目の服装で、伊達メガネもそばかすもない。
『椿さん、オシャレだな』
でも肌の露出は少ない服装だった。
「二人とも、お待たせーーー」
俺が二人に声を掛けると横には、見たかった徹の反応があった。
「なっ! ええ? え? えぇぇぇ」
しどろもどろだ。
「おはよー。熱田くん、桜木くん」
「おはようございます」
椿さんと伊勢さんが挨拶を返してくる。
「待たせたかな?」
「いいえ。私たちも九時半に集合して今、ここに到着したところです」
伊勢さんが答える。
「えっと……ちょっと訳が分からない」
徹は、まだパニック中だ。
「挨拶くらいしな」
「お、おう。えっと、おはようございます。椿さんと……誰?」
二人はニッコリ笑顔をかえしてくれた。
「正義、ちょっとこっちへ」
強引にエレベーター北側に引っ張ってかれた。
「二人とも、ちょっと待ってて」
俺は抵抗しながら二人にそう伝えると、笑っていた。
*
「正義、聞いてないぞ! 椿さん……いたよな」
「いたね」
「もう一人いたけど、椿さんの友人か」
「友人だな」
「正義が、椿さんを誘ったのか?」
「うんにゃ」
「へ?」
「椿さんを誘ったのは伊勢さんだよ」
「伊勢さん!? でも来てないじゃん」
「もう一人いただろ? あの子、伊勢さんだよ」
「えぇぇっぇぇぇぇ!!」
ものすげー声で反応する徹。
「という訳で、俺と徹、伊勢さんと椿さんの四人で今日はお出掛けなんだ」
「なんで? いつの間に?」
「まぁ。色々ありまして」
「最近、秘密が多かったが、これは予想してなかった」
「徹をビックリさせたくて秘密にしていたんだ! 今日、予定がないことを、それとなく事前に聞いていたのはこのためさ」
ガシっと徹が、俺に抱き着く。
「うえぇ? キモいからやめて」
「正義、サンキュ。嬉しいよ」
呟く徹。
「良かった。予想通りの反応と喜んでくれて。さて、落ち着いたか?」
「あぁ、なんとかな」
「じゃ、二人のところに戻ろうか」
俺は勝手に歩き出した。徹もついてくる。
*
「改めてお待たせ。椿さんも、来てくれてありがと」
「いえいえ。ちょっとドキドキしてるけど青春してるって感じで嬉しいわ」
椿さんも嬉しそうだ。
「じゃ、移動しようか?」
「はい」
ゲートタワーに向けて移動を開始した。
中のショッピングモールでウィンドショッピング。
俺は徹と、伊勢さんと椿さんと並んで歩いている。
「あの子、本当に伊勢さん?」
「そうだよ」
「全然、分からんかった」
「普通は、分からんと思う」
「あれ? そうか! 正義のあのデートの相手って伊勢さんだったのか!!」
「ピンポーン!」
「これはビックリだ。俺にも今まで秘密だったなんて、ちきしょー」
「でも、徹のお目当ては椿さんだろ?」
「しっ! 本人に聞こえるじゃん!」
口に手を当てオーバーアクションをする徹。面白れぇ!
「今日の予定は、午前中はゲートタワー。昼食を済ませて名古屋港水族館に行く」
「わ……わかった」
「まぁ、頑張りたまえ」
俺は徹の背中を手のひらで叩いた。
「うっせーーーよ」
その顔は嬉しそうだが、緊張していた。
『うーん。このままだと徹と椿さん、会話できんな』
俺は前に出て伊勢さんに声を掛ける。
「伊勢さん。俺、スマホのカバーで新しいの見たいんだけど一緒に選んでくれる?」
「はい、いいですよ。でも熱田さんが気に入ったもので良いのでは? あっ」
意図を気づいてくれたらしい。
「俺と伊勢さん、スマホカバーのコーナーに行くから、二人は興味あるところに自由に行っていいよ。お目当てを買ったらメッセージアプリで知らせるから、後で合流しよう」
「え? ええ?」
「わかりました」
徹と椿さんから同意の返事? があったので、さっさと伊勢さんと移動を開始した。
*
「まったく世話の焼ける徹だ」
「桜木さん、凄い緊張してましたね。二人にして大丈夫でしょうか?」
「そう思ったけど、あのままだと今日一日中、俺は徹と歩くことになりかねない」
「確かにそうですねー」
「そういえば俺だって慣れていないけど、伊勢さん相手だと不思議と自然でいられるな……」
「……そうですね」
あぁ青春だなぁー
「遅くなったけど伊勢さん、とってもその服装、似合ってるよ」
「あ……ありがとうございます」
お互い今さら照れ始めた。
「前のデートではジーンズだったから私服スカートは新鮮だよ。ってあの騒ぎ のときにも見てはいるけど、今日はオシャレしてきてくれてるし……」
鼻をポリポリ……
「地味かなっと思ったのですが、そう言っていただけて嬉しいです」
伊勢さんも恥ずかしそうにしている。可愛い!!
「スマホカバー、別行動するための口実にしただけだから適当に三十分くらい二人で居よう」
「はい!」
嬉しそうにしてくれている。
*
三十分ほど経過した十一時過ぎ。
メッセージアプリで徹に連絡すると、カバン売り場にいるというので伊勢さんと向かった。
カバン売り場に到着すると、徹と椿さんは意外と仲良くカバンを通して「ああだこうだ」と会話できていた。
『案ずるより産むがやすしか……』
親心になってしまった。
「徹、椿さん、お待たせ」
「お、おう」
「いえいえー」
「少し早いけど、上で昼食にしようか?」
「了解」
「なんにしよう? 何か食べたいものある?」
みんな特にはなさそうだ。
「じゃ、名古屋名物を伊勢さんに食べてもらうかな?」
「なんです? 名古屋名物って?」
伊勢さんが興味を示す。
「味噌カツ、ひつまぶし、きしめんもあるけど、あんかけスパなんてどう? ちょっと匂いが服につくけど、みんな一緒なら鼻が麻痺して分からないから大丈夫かな」
「正義、お前な……匂いものは、こういうときにはセレクトしないのがセオリーだぞ」
徹が真っ先に否定した。
が……伊勢さんの反応は違った。
「一度、食べてみたかったんです!」
「おぉ! それは良かった。椿さんはどう? 嫌なら無理せず嫌って言ってね」
「私も久しぶりだから、いいよ」
「じゃ、決まりだね。元祖はヨコイのスパだけど、コショウがキツイからチャオの方がいいか」
「椿さんと伊勢さんがいいなら、俺は構わん」
「椿さんは? ヨコイがいい? チャオがいい?」
「私もチャオがいいかな」
「じゃ、決まり。チャオに決定」
*
「わぁ、凄い量ですね」
俺は、ミラネーズのジャンボ。徹はキャベツベーコンのジャンボ。
その量は、最初に見る人はビックリするだろう。
「俺たち食べ盛りだからね!」
「ふふっ」
四人の注文が揃ったので、「いっただきまーす」と一斉に食べだした。
伊勢さんは、最初恐る恐るって感じで食べ始めたが、
「!! 美味しいです!」
と気に入ったようだ。
「それは良かった。たまに、あんかけスパはダメって人がいるからさ。でも、何となく伊勢さんは気に入りそうだと思ったから決めちゃった」
「これが、あんかけスパなんですね」
女性二人はスプーンも出してもらったので、上手にクルクルと巻きながらソースが飛ばないように食べていた。
*
「ごちそーさま。では、名古屋港水族館に行こう!」
それぞれ会計を済ませ、水族館に移動。
入場して直ぐにあるイワシの大水槽。
エントランスでは光がユラユラとしていて不思議な雰囲気だし、なんといってもイワシの群れが綺麗だった。
『最初は、これに目を奪われるんだよなー』
あとイルカのショーもあったが、何と言ってもシャチ!
ここにはシャチがいるのだ。
シャチのショーでみんな大喜び。
くらげコーナーも堪能し、お土産コーナーで小物を買った。
カバンのコーナーで打ち解けれたようで、その後も徹と椿さんはちょくちょく話をしていた。
『これからは徹自身の努力と勇気だな』
*
その後、金山 まで戻り、喫茶店で水分補給をして今日は解散となった。
と言っても全員、JRの同じ電車だったが……
金山の次の熱田駅で伊勢さんが下車。
俺と徹は、その次の笠寺駅で下車。
「椿さん、今日は来てくれてありがとう」
「ううん。男の子と初めて出掛けるからドキドキしたけど、私も楽しかった」
徹も頑張って挨拶する。
「椿さん、とっても楽しかった。良かったら、またみんなで出掛けたい!」
「うん、そうだね。また出掛けましょ」
そう話をして俺たちは下車した。
椿さんと言えば、その次の大高駅だから意外とみんな近くに住んでいたのだった。
徹との別れ際、
「正義、今日は本当にありがと。むちゃくちゃ感謝してる」
心底嬉しそうだった。
その夜、電話で伊勢さんにお礼を伝えた。
次いでに会話も弾み、楽しい一日を過ごした。
懸念していた立脇家には何も起きず、今日無事に終了した。
「やっと、終わったぁぁぁ」
クラスのみんなが一斉に同じ声を上げた。
明日は、土曜日。更に解放感が重なる。
「徹、お疲れさん」
「
「いつもと変わらんかな。いや、少し悪いか……徹は?」
「さして順位は変わらんと思うけど、今回は少し良い感じだ」
「そうかそうか! それならご褒美をあげよう」
「おぉぉ! いいね。何くれるんだ?」
「明日の土曜日、暇だよな? どうせ」
「どうせは余分だ!」
徹が、ちょっと
『ふふっふ。何も知らぬ友よ。明日、驚くぞ~』
「じゃ、明日の九時半に名古屋駅のナナちゃん人形に集合な」
「へ? どこ行くん?」
「秘密だ。だが、少しオシャレしてきな。後は秘密だ。明日を楽しみにするがいい」
「うわぁ、何となく嫌な予感がするな……まぁいいさ。付き合ってやろう!」
親友の誘いを無碍にはできないとの感じで引き受けた徹……しめしめ。
ちなみにテスト週間も高天ヶ原での修行は変わらずあった。
地獄霊にはテストなど関係ないのだ。
***
そして、翌日の土曜日。
ナナちゃん人形の辺り。
「正義、待たせたな。ホント、どこ行くんだよ。大須のメイド喫茶とかか!?」
「ほぅ、それも良いかもな。一度は行ってみるものいいな」
「なんだ、大須じゃないのか」
「オシャレしてこいと言ったじゃないか。大須にオシャレして男二人で出歩く趣味はないぞ」
大須……上前津。そこは東京で言えば秋葉原にあたる。まったくもって比較にもならん小さい規模だが……
「ちょっと地下街、ふらつくか」
「なんだ? ミッドランドで映画でも観るんか?」
「いや。違うが、たまには良いだろ?」
「まぁ、良いんだけどな。でも部活もあったから、こうして正義と出掛けるのは久しぶりだな」
「だな」
地下街に潜り、サンロードからユニモールを経由してゲートタワーまで移動。
時計を見ると、九時五十分。
『そろそろ、いいか』
そこで地上に上がり、金時計を目指す。
「ん? 地上に出るんか? ゲートタワーに行くかと思った」
「気のままに移動しているだけだよ」
「ふ~~~ん」
『ふふっふ、徹。何も知らぬ君は可愛いぞ!』
これからのことを考えると、ウキウキしてきた。
金時計の辺りのエスカレータの北側を背にして止まる。
「ん? 誰か来るんか?」
「いや、ちょっと休憩」
「こんな混んでるところで休憩せんでもいいじゃん」
「いや、ここなら背中をもたれれるからな」
『??』
流石の徹でも、頭に?マークはついたたしい。
メッセージアプリで伊勢さんに到着の連絡をすると、―こちらも到着しました―との返事があった。
「徹、移動しよ」
「おう」
そして、エスカレータの南側に移動した。
『おぉぉ! 伊勢さん、今日はポニーテールだぁ! めっちゃ可愛い。この前はジーンズだったけど今日はロングスカートなんだ』
今回も大人し目の服装で、伊達メガネもそばかすもない。
『椿さん、オシャレだな』
でも肌の露出は少ない服装だった。
「二人とも、お待たせーーー」
俺が二人に声を掛けると横には、見たかった徹の反応があった。
「なっ! ええ? え? えぇぇぇ」
しどろもどろだ。
「おはよー。熱田くん、桜木くん」
「おはようございます」
椿さんと伊勢さんが挨拶を返してくる。
「待たせたかな?」
「いいえ。私たちも九時半に集合して今、ここに到着したところです」
伊勢さんが答える。
「えっと……ちょっと訳が分からない」
徹は、まだパニック中だ。
「挨拶くらいしな」
「お、おう。えっと、おはようございます。椿さんと……誰?」
二人はニッコリ笑顔をかえしてくれた。
「正義、ちょっとこっちへ」
強引にエレベーター北側に引っ張ってかれた。
「二人とも、ちょっと待ってて」
俺は抵抗しながら二人にそう伝えると、笑っていた。
*
「正義、聞いてないぞ! 椿さん……いたよな」
「いたね」
「もう一人いたけど、椿さんの友人か」
「友人だな」
「正義が、椿さんを誘ったのか?」
「うんにゃ」
「へ?」
「椿さんを誘ったのは伊勢さんだよ」
「伊勢さん!? でも来てないじゃん」
「もう一人いただろ? あの子、伊勢さんだよ」
「えぇぇっぇぇぇぇ!!」
ものすげー声で反応する徹。
「という訳で、俺と徹、伊勢さんと椿さんの四人で今日はお出掛けなんだ」
「なんで? いつの間に?」
「まぁ。色々ありまして」
「最近、秘密が多かったが、これは予想してなかった」
「徹をビックリさせたくて秘密にしていたんだ! 今日、予定がないことを、それとなく事前に聞いていたのはこのためさ」
ガシっと徹が、俺に抱き着く。
「うえぇ? キモいからやめて」
「正義、サンキュ。嬉しいよ」
呟く徹。
「良かった。予想通りの反応と喜んでくれて。さて、落ち着いたか?」
「あぁ、なんとかな」
「じゃ、二人のところに戻ろうか」
俺は勝手に歩き出した。徹もついてくる。
*
「改めてお待たせ。椿さんも、来てくれてありがと」
「いえいえ。ちょっとドキドキしてるけど青春してるって感じで嬉しいわ」
椿さんも嬉しそうだ。
「じゃ、移動しようか?」
「はい」
ゲートタワーに向けて移動を開始した。
中のショッピングモールでウィンドショッピング。
俺は徹と、伊勢さんと椿さんと並んで歩いている。
「あの子、本当に伊勢さん?」
「そうだよ」
「全然、分からんかった」
「普通は、分からんと思う」
「あれ? そうか! 正義のあのデートの相手って伊勢さんだったのか!!」
「ピンポーン!」
「これはビックリだ。俺にも今まで秘密だったなんて、ちきしょー」
「でも、徹のお目当ては椿さんだろ?」
「しっ! 本人に聞こえるじゃん!」
口に手を当てオーバーアクションをする徹。面白れぇ!
「今日の予定は、午前中はゲートタワー。昼食を済ませて名古屋港水族館に行く」
「わ……わかった」
「まぁ、頑張りたまえ」
俺は徹の背中を手のひらで叩いた。
「うっせーーーよ」
その顔は嬉しそうだが、緊張していた。
『うーん。このままだと徹と椿さん、会話できんな』
俺は前に出て伊勢さんに声を掛ける。
「伊勢さん。俺、スマホのカバーで新しいの見たいんだけど一緒に選んでくれる?」
「はい、いいですよ。でも熱田さんが気に入ったもので良いのでは? あっ」
意図を気づいてくれたらしい。
「俺と伊勢さん、スマホカバーのコーナーに行くから、二人は興味あるところに自由に行っていいよ。お目当てを買ったらメッセージアプリで知らせるから、後で合流しよう」
「え? ええ?」
「わかりました」
徹と椿さんから同意の返事? があったので、さっさと伊勢さんと移動を開始した。
*
「まったく世話の焼ける徹だ」
「桜木さん、凄い緊張してましたね。二人にして大丈夫でしょうか?」
「そう思ったけど、あのままだと今日一日中、俺は徹と歩くことになりかねない」
「確かにそうですねー」
「そういえば俺だって慣れていないけど、伊勢さん相手だと不思議と自然でいられるな……」
「……そうですね」
あぁ青春だなぁー
「遅くなったけど伊勢さん、とってもその服装、似合ってるよ」
「あ……ありがとうございます」
お互い今さら照れ始めた。
「前のデートではジーンズだったから私服スカートは新鮮だよ。って
鼻をポリポリ……
「地味かなっと思ったのですが、そう言っていただけて嬉しいです」
伊勢さんも恥ずかしそうにしている。可愛い!!
「スマホカバー、別行動するための口実にしただけだから適当に三十分くらい二人で居よう」
「はい!」
嬉しそうにしてくれている。
*
三十分ほど経過した十一時過ぎ。
メッセージアプリで徹に連絡すると、カバン売り場にいるというので伊勢さんと向かった。
カバン売り場に到着すると、徹と椿さんは意外と仲良くカバンを通して「ああだこうだ」と会話できていた。
『案ずるより産むがやすしか……』
親心になってしまった。
「徹、椿さん、お待たせ」
「お、おう」
「いえいえー」
「少し早いけど、上で昼食にしようか?」
「了解」
「なんにしよう? 何か食べたいものある?」
みんな特にはなさそうだ。
「じゃ、名古屋名物を伊勢さんに食べてもらうかな?」
「なんです? 名古屋名物って?」
伊勢さんが興味を示す。
「味噌カツ、ひつまぶし、きしめんもあるけど、あんかけスパなんてどう? ちょっと匂いが服につくけど、みんな一緒なら鼻が麻痺して分からないから大丈夫かな」
「正義、お前な……匂いものは、こういうときにはセレクトしないのがセオリーだぞ」
徹が真っ先に否定した。
が……伊勢さんの反応は違った。
「一度、食べてみたかったんです!」
「おぉ! それは良かった。椿さんはどう? 嫌なら無理せず嫌って言ってね」
「私も久しぶりだから、いいよ」
「じゃ、決まりだね。元祖はヨコイのスパだけど、コショウがキツイからチャオの方がいいか」
「椿さんと伊勢さんがいいなら、俺は構わん」
「椿さんは? ヨコイがいい? チャオがいい?」
「私もチャオがいいかな」
「じゃ、決まり。チャオに決定」
*
「わぁ、凄い量ですね」
俺は、ミラネーズのジャンボ。徹はキャベツベーコンのジャンボ。
その量は、最初に見る人はビックリするだろう。
「俺たち食べ盛りだからね!」
「ふふっ」
四人の注文が揃ったので、「いっただきまーす」と一斉に食べだした。
伊勢さんは、最初恐る恐るって感じで食べ始めたが、
「!! 美味しいです!」
と気に入ったようだ。
「それは良かった。たまに、あんかけスパはダメって人がいるからさ。でも、何となく伊勢さんは気に入りそうだと思ったから決めちゃった」
「これが、あんかけスパなんですね」
女性二人はスプーンも出してもらったので、上手にクルクルと巻きながらソースが飛ばないように食べていた。
*
「ごちそーさま。では、名古屋港水族館に行こう!」
それぞれ会計を済ませ、水族館に移動。
入場して直ぐにあるイワシの大水槽。
エントランスでは光がユラユラとしていて不思議な雰囲気だし、なんといってもイワシの群れが綺麗だった。
『最初は、これに目を奪われるんだよなー』
あとイルカのショーもあったが、何と言ってもシャチ!
ここにはシャチがいるのだ。
シャチのショーでみんな大喜び。
くらげコーナーも堪能し、お土産コーナーで小物を買った。
カバンのコーナーで打ち解けれたようで、その後も徹と椿さんはちょくちょく話をしていた。
『これからは徹自身の努力と勇気だな』
*
その後、
と言っても全員、JRの同じ電車だったが……
金山の次の熱田駅で伊勢さんが下車。
俺と徹は、その次の笠寺駅で下車。
「椿さん、今日は来てくれてありがとう」
「ううん。男の子と初めて出掛けるからドキドキしたけど、私も楽しかった」
徹も頑張って挨拶する。
「椿さん、とっても楽しかった。良かったら、またみんなで出掛けたい!」
「うん、そうだね。また出掛けましょ」
そう話をして俺たちは下車した。
椿さんと言えば、その次の大高駅だから意外とみんな近くに住んでいたのだった。
徹との別れ際、
「正義、今日は本当にありがと。むちゃくちゃ感謝してる」
心底嬉しそうだった。
その夜、電話で伊勢さんにお礼を伝えた。
次いでに会話も弾み、楽しい一日を過ごした。