その泡菓子はどこかほんのりと苦かった

文字数 380文字

「ねぇ、夏祭りつれてってよ。」

君はそう言った。柄じゃないとツンケンとした俺の手を君は笑って握った。

当日、君は長い髪をアップにしていて、ドキリとした。正直、浴衣姿よりそっちに目が行っていたけれど恥ずかしくて目を逸らせた。君は全部わかってるんだからと言いたげに笑って腕を組んできた。恥ずかしかったけど振りほどけなかった。

「あ、泡菓子。」
「泡菓子?」

出店の並ぶ混雑した通りを歩いていると、君がそう言って足を止めた。

「知らない?泡菓子?」
「知らねぇ。」

ニッと笑った彼女に手を引かれ店の前に連れて来られる。装置からムクムクと上がる泡をおじさんが器用に棒に絡め取る。

「ほい!カップルには虹色サービスだよ!」

渡された泡菓子は別に他の物と何も変わらない。変わらないのに、その泡たちが纏う淡い虹色がとても特別に見えた。

泡菓子は甘く、俺の言えない言葉とともに口の中に消えていった。
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