9夜

文字数 1,292文字

 お母様曰く、失った時に人は絶望するのだそうです。


 土曜日も映画の日です。
『アディショナルデイズ』
 次世代エンジンの研究開発をしているカルぺ・ディエム社。
 その研究室で事件は起きていました。
 ニール研究室において秘密裏にタイムマシンが造られ、過去の人間を現代に連れ込んでいたことが発覚。責任者のニールが主導し、死に瀕した人間を偽の遺体とすり替えることで誘拐。現代で治療を受けさせ、情報を聞き出す行為を繰り返していました。
 カルぺ・ディエム社は外部に漏れる前に隠蔽を計画します。
 死ぬ間際の状況がわかっている必要があるため、ターゲットは記録に残っている偉人ばかりです。元々死に瀕していた者たちの多くは治療後も長くは生きられませんでした。しかし、中には人生で最も健康な時間を手に入れたものもいます。
 彼らを史実通りの墓地に眠らせるため、カルぺ・ディエム社で働く医師のチェスターは偉人の殺害に手を染めることとなりました。会社に両親が経営する病院のスキャンダルの揉み消しと資金援助をしてもらったチェスターに断ることはできなかったのです。
 偉人たちは未来に来ていることを理解していました。せめて過去で息抜きの時間を設け、最期に思い出作りをさせてあげたいと考えるチェスターたち医療チームでしたが、リスクを嫌う会社は許しません。
 生存している偉人五名を順次殺害し過去へ戻すための計画が動き出しました。確実に実行するために、一人ずつ順番に殺していきます。
 毎日の健康診断をしながら、できる限りこちらへ来た時のカルテに記載された状態へと導いていくチェスター。
 極力親しくしないようにしていたチェスターでしたが、同じく鉄道オタクであるドヴォルザークと意気投合してしまいます。
 アメリカで仕事をしたことのあるドヴォルザークに今のアメリカを、未来のチェコを見せてあげたい願うチェスターでしたが、結局会社に刃向かうことはできませんでした。
 粛々と毒をもり、薬を与え、遺体に残る縫合跡の修正をするチェスターは五人目を見送っても解放されません。
 ニールはタイムマシン開発で密かにスポンサーになっていたバーニーの先祖も過去から連れ込んでいたのです。
 新たに三人の殺害が課せられ、壊れ始めていたチェスターの精神はさらに追い詰められていきました。
 バーニーの自宅で自由に暮らしていた先祖たちの失踪は近隣住民の疑念を呼び、ついに悪事は暴かれます。
 けれど時間の錯綜する事件に司法は混乱し、証拠不十分としてチェスターが罪に問われることはありませんでした。
 法廷を後にしたチェスターをカルぺ・ディエム社を心から信頼している両親が涙で出迎え、家へと連れ帰ります。
 エンドロールではドヴォルザークの家路が流れていました。
「せめて罰してもらえたらよかったのにってなるね」
 彼は腕組みをして首を傾げています。
「残りの人生が全部余生になるような出来事なんだよね。でも、ちょっと憧れる」
 私は吹き出しました。
「なんで?」
「最高の映画にも負けない人生になると思うんだ。人生を映画にしたいっていうか」
 それは結構なことです。
「あのね、私ーー」
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