7夜

文字数 935文字

 愚かな人間と哀れな人間の恐怖というものは、人間の尺度にとどまってしまうそうです。



 木曜日ももちろん映画を観ます。
『ヘブンズ・ゲート』
 人生に疲れ、神の元へ行こうと呼びかける教祖と信者たちの集団自殺。
 妄信として片付けるには悲しい事件から一年、天国らしき場所が実在していることが判明し、事態が一変します。
 条件はただ一つ、自殺すること。悪事を成した人間でも行くことのできる楽園でした。
 早々に旅立つ者もいれば、現世を満喫し、旅立つ時期を慎重に見定める者もいます。
 些細な失敗でパニックになり身を投げる子ども。病気が煩わしくなって毒を仰ぐ大人。
 事故や病死では天国へはいけません。天国には定員があるという噂や、自殺して逃げおおせる復讐者の噂に翻弄されながら、人類は数を減らしていきます。
 それでも疑問に思う者や忌避する者は現世にとどまり続けました。
 社会が小さくなり続ける中、驚異を明らかにした異世界との交信者(チャネラー)のニックを通じて、天国の主からメッセージが届きます。
「地球生物の保護のために人間を移住させることにしたのだ」と。
「特異な生態系保護のため、人間は有害であると判断せざるをえない。幸にして人間は自然を排除した環境にも適応できる知性を備えている。よって人間の移住を計画した。猶予はない。従われたし」
 有無を言わせぬ勧告は、正義となって人類を悩ませます。
 生きていてはいけない。
 ある者には理詰めで、ある時には感情に訴えかけながら、共感する人間を取り込んでプロパガンダが人類を包囲していきます。
 大自然の中で自殺して、野生動物たちの糧になろう。
 社会の崩壊は加速し、従わない人々は情報が入ってこない山や森に逃げ込み小さなコミニティを形成しました。
 時は流れ、とある集落に外部から人が尋ねてきます。
 神への恭順を説き、人間の罪を並べ、そして自殺はいけないとその人は言いました。
 安心したかけた時、さらに大勢の人間がやってくるのが見えました。
「従わない人間は天国へ行ってはならないのです」
 最後は血まみれの人間を食む狐の映像で締め括られます。
「不安にさせる映画だったね」
「排除に正義の装飾をしてあるから余計にね。ポスターのキャッチコピーが『追放、再び』なのも嫌な感じだよね」
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