第19話

文字数 784文字

 隙間から見える男たちは思ったより若い。『社長』なんて言うからいい歳したおじさんかと思いきや30代だろう……。

 小春おじさんの言葉が思い出される……。
『金持ちなんて悪党ばかりだ……特に若い金持ちなんて碌な人間じゃない悪魔だ』だったっけ? とにかくきっとこいつらは悪いことしてお金を稼いでいるに違いない。

「今日の予定は……10時と13時にそれぞれ安井銀行の副頭取、お父様……会長との面会が入っております。ところで今日のレセプションパーティーはどうなさいますか? 18時からですが……」

「参ったな……パートナーどうなったんだっけ?」
「それは昨日、社長が反故になさったではありませんか……」

 深いため息が聞こえる。

「あれはあの日和(ひより)つー女が変な色目を使ってくるから……いい歳して……思い出すだけで鳥肌が立つわっ」

 肌を摩る仕草がいかにもリアルだ。

「あれこれ、選り好みしている場合ではなくなりました。先方は旧財閥です、結婚=信用という概念はジェンダーレス化が進む中で排除されつつありますが、『ソロハラ』なんて言葉が存在するように『所帯を持って一人前』的な考え方も残っているのは否めません」

「男は食わせてナンボ、女は子を産んでナンボってやつだな……」
「それに今回のドレスコードは『フォーマル』です。『ビジネスアタイア』(* 企業主催のパーティーやレセプションなどでのドレスコード。仕事色の強いパーティーでの服装)ではありません」

「国際式典レベルの指定か……」
「そうです、つまり求められるマナーはプロトコール=外交儀礼・国際儀礼と言うわけです」
「該当すべきレベルの女を適当に見繕ってくれ」
「それが昨日の彼女でしたのですが……」

「あんなBBAじゃだめだ。もっと謙虚なのを頼む」
「かしこまりました。ただもう後がありませんので私の眼力に従って頂きたく存じます」
「あぁ、もう文句は言わない」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み