第14話 一颯と瑞稀

文字数 640文字

 瑞稀と二人、両脇から肩を担いで車の後部座席に乗せる。それでも音色はムニャムニャと夢の中だ。
 そのまま奥へとずらすと、音色の隣に社長は窮屈そうに潜り込む。瑞稀がドアを閉めると、軽快に運転席へと乗り込んだ

一颯(いぶき)、自宅で良いのか?」

 瑞稀は社長を一颯と呼んだ。後部座席を振り返り、瑞稀が聞く。すると一颯は女の体に触れようとしていた。

「な、何やってんだ、ここで変なことすんな!」

 瑞稀が慌てて声を大きくすると、一颯もその声にびっくりしたように身体を大きくのけぞらせてドアに頭をぶつける。

「ち、違うよ、ポシェットの中に免許証とか何かあるかと思ってだな……あ、ちょっと手の甲がおっぱいに当たっちゃったけど、掌じゃないから、な甲だから……って何でお前に弁解みたいなことを言わなきゃなんねーんだ、いやらしいことするならお前が来る前にしてるっつーの」

 そう言うと、今更ながらに社長っぽく座席に踏ん反り返ると一つ咳払いをして威厳を装い、命ずるように言葉を繋ぐ。

「あー、瑞稀くん……一先ず私の家に向かい、この娘は君が無事家まで送り届けるように」
「了解」

 ルームミラーで一颯の言動を逃さず確認すると、気持ちの良い返事をして瑞稀は車をスタートさせる。
 しかし、アクセルを踏んで加速したかと思いきや、車はゆっくり減速する。瑞稀は我に返ったように振り返り、

「ちょっと、何で私がこの方を送り届けなければならないんですか?! 社長はご自宅でお降りになられるので?」
「そのつもりだ……おい、前見て運転しろ、前を!」
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